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就活するポンポコリン


大学に入ってからの3年間、ぼーっとして過ごしていた。基本ずぼらでぐうたらな人間なので、自分の将来について考えることなどしなかった。4年生になって、まわりの雰囲気に背中を押されまくり、就職活動をすることになった。

しかし、何から始めたらいいのか分からない。なんとなく黒いスーツを着て、なんとなく目にとまった会社説明会に出かけた。
初めて訪問した会社は先物取引の会社だった。100人は入れそうなだだっ広い会場に、学生は私を含め3人しかいなかった。3人とも「あれ?なんかまちがったかも?」という不安げな表情をしていた。

私は先物取引についてほとんど何も知らなかった。説明会が始まり、人事担当の人がつとめて明るく話しかけてくる。
「先物取引について何か知っていることや知りたいことはありますか?」
知っていたらおそらくこの場にはいなかったであろう3人は黙り込んだ。

気まずい空気が流れた。ここで私は、子どもの頃から愛読している漫画「ちびまる子ちゃん」の中に、「まる子のおこづかいは、あずき相場並みに変動が激しい」という一文があったことを思い出した。
「あのー、あずき相場というのは、ほんとうにまるちゃんのおこづかいみたいにいきなり下がるんですか?」
私のなけなしの知識からしぼりだした渾身の質問に、担当者の人は丁寧に答えてくれた。たぶん「そのとおりです」という感じの回答だったと思う。

終了後、「少なくともこの世で自分以外に2人は就活についていけてない人間がいる」ということが分かった3人は、仲良く駅まで歩いて帰った。
そして、3人がその会社で再会することはなかった。

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