パピコ

仕事終わりにサークルの飲み会だと言う彼女を迎えに行った。彼女は僕の1歳年下の大学4年生で、僕がいたサークルの後輩だった。

今日の飲み会というのもそのサークルだった。普段は飲んだ彼女を仕事終わりにわざわざ迎えに行くなんてことはしないのだが、就職以来顔を出していなかったのでちょうどよかった。

飲んでいるという店の近くで待っていると、店の方からワイワイわいわいと人が出てくる声が聞こえてくる。真っ先に出てきたのが僕の彼女で、リクルートスーツに身を包んでいる姿は初めてで去年の自分を思い出した。店を出るなりキョロキョロと僕を探してるから「こっち」と言って手を振った。彼女は早歩きで僕の方まで歩いてきて僕の手を掴むとグッと下に引きながら「お酒きらい!」なんて言っている。顔を見るといつも白い肌は少し赤くなって僕を見る目は潤んでいた。かなり飲まされた様子だ。後からぞろぞろと懐かしい顔が集まって来てみんなに「久しぶり」なんていいながらひと通り挨拶を済ませた。

「あんまり飲ませてやんなよ」
と笑っていうと
「先輩に会うから1次会で帰ります!なんて元気に宣言してたんでつい」
と苦笑いしていた。

「それじゃあ帰るね」とその場を後にした。


飲み会の話やら就活の愚痴なんかを話す彼女は眉間にしわを寄せた。いつも無邪気に笑っている顔を見ているから、めずらしいなぁなんて考えて、それでもいつも通りに喋る続ける彼女が可愛いなぁなんて考えていた。そんな彼女の表情に見惚れていた僕は「うん」と「そうだね」と相槌を続けていると彼女は急に話を止めて「今の適当でしょ」なんて少し怒って肩をぶつけて来た。

「スーツ似合うね」

「ご機嫌とりですか?」

疑ったような顔で僕の目をしたから覗くように見てくる。急に他人行儀な質問が可笑しくて合わせて答えた。

「ご機嫌を損なわれたのならそちらでお好きなアイスなどどうですか?」

とコンビニエンスストアを指差した。

「たべる!」と急に元気を出して僕の手を引く。スーツを着ていても彼女は彼女だ。


買ったアイスはパピコで2人で半分にしたのを食べながら歩く。彼女の満足気な顔を見て「ご満足いただけました?」と聞くと「苦しゅうない」なんて殿様みたいな返事をする。

「まだ可愛い殿を見られそうで安心しました」と小馬鹿にするとまた少し眉間にしわを寄せてこちらを向いてくれなくなる。


この間まで茶髪で、どちらかといえば綺麗よりも可愛い顔をしていた彼女がスーツをきているのを見てなぜか少し距離を感じる。照明の消えた店のガラスに映った僕と彼女を見るとスーツ姿でパピコを食べる2人で、これはお似合いなんじゃないかと自分に言い聞かせる。

僕はこの先ずっと一緒にいたいと思うしできれば結婚なんかも考えているが来年もその次の年もそんなことを考える余裕なんてないだろうと考える。それでも今はとりあえず一緒にいたいんだと心の中で彼女に言うが彼女はむつけたままでいた。

「就職が決まったら旅行でも行こうか」

今度はご機嫌とりのつもりはない。僕が行きたいからで、もちろん彼女のお祝いも兼ねてなのだがそれ以上に会えていない間、僕が寂しかったと言うのが理由だった。


それを聞いた彼女はもちろんいつもの調子を取り戻して行き先を次々あげていく。それに僕はいつもの調子で頷く。彼女が食べ終わったパピコのゴミを預かって彼女と手を繋ぐ。アイスを持っていた僕たちの手はお互い冷たい。

これからきっともっとお互いが忙しくなって今日みたいに夜に少し会うことも難しくなることは間違いない。そしていずれは会うこともわずらわしく感じるのだろうかとかそしたら別れる日が来るのだろうかとか考えてはいるがどうでもよかった。彼女は隣で楽しそうに話しているし、そんな彼女が好きだ。この顔を見ていられる今があるだけで僕は十分幸せだ。

2人だけの足音が響く帰り道は夜でも少し暖かくて繋いでいた手もいつのまにかいつも通りあたたかかくなっていた。


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