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Pain Science(痛みの科学)


1664年デカルトが考えた人が痛みを感じる仕組み。足元の熱い火を避けるような反射を、教会での鐘が鳴るメカニズムに似ている考えたそうです。ベルを鳴らすロープが引かれ、塔の上でベルが鳴る。ロープを強く引くほど、鐘の音は大きくなるように、刺激が痛みの中枢と考えられていた松果体に辿り着き、痛みを感じる。


MRIなどの画像診断をする機械がない時代、人間の体を解剖して肉眼による観察から導き出した科学としては感覚や痛みを理解する革新的な考えだったでしょう。


現在の神経科学や痛みの科学の観点からこの考えには多くの間違いがありますが、350年以上経った今、あえてデカルトの理論をそのまま現在の解剖学的表現を用いて医師や専門家に聞かされたら、誰も疑う事なく「なるほど」と思うでしょう。


そして多くの医師を含めた身体の専門家においても、「デカルトの反射」の現代的な表現をはっきりと否定し、どの様に間違っているかを説明することが出来る人は少ないのです。


実際に現在の解剖学的な表現を用いればこんな感じになります。


「痛みを司る受容器が組織の損傷を抹消神経から脊髄、脳幹、対側の感覚の中継点である視床を介してブロードマン第5野、体性感覚野にて痛みとして知覚される」どうでしょう、専門家の方であれば「うん、そうだね」と言いたくなり、一般の方であれば、全く意味が分からなくても、なんだか凄く科学的で説得力のある説明に聞こえてしまいます。


専門家もそうで無い人も、痛みを感じている場所に物理的に問題があると考えがちですが、痛みを含めた全ての感覚を知覚してるのは「脳」であるという考え方が、最近では認知され始めています。この15~20年位の間にfMRI(ファンクショナルMRI)などの技術の進歩によって、ほぼリアルタイムで人間が痛みや不快な感覚を感じている時に脳のどの部位に血流が集まり神経細胞(ニューロン)が活性化するかが観察できるようになってきました。

上図は人が痛みを感じた時に活性化が観察される部位とそれらの代表的な機能をリストアップしたものです。痛みを感じた時には、これら全てのエリアが活性化するのですが、興味深いのは、同じレベルの刺激であっても、それぞれのエリアの活性化レベルが人によってバラバラであるというところです。


眼をつぶった状態でサイコロの目を指の感覚で当てて下さいと言われたら、指先の感覚に集中するでしょう。上図から機能を担当している部位を選ぶのであれば、注意や関心を担当する②帯状回や、感覚識別を担当する⑤体性感覚野や⑥視床が活性化するかもしれません。しかしこれらのエリアが正常に働いている人とそうでない人ではサイコロの目を指の感覚で当てる能力に差があるでしょう。

つまり、痛みを含めた感覚を意識的にも、無意識的にも敏感化するという事は、通常は 3/10 レベル位の感覚を、脳が上図のような様々なエリアに指令を送ることによって 8/10 レベル位に感じるようにプログラムを書き換えるという事です。そして、最新の研究では必ずしも「痛み=物理的損傷ではない」という事がわかっています。痛みを含めた感覚の敏感化や鈍感化は最適に働き切れていない脳や神経システムの出力結果であり、正常に働き切れていない神経回路を見つけて正常化する事が問題の解決策の選択肢として提案される必要があるのです。


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