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【睡眠と記憶①】運動上達のカギは良く寝ること

ニューロスペースのコミュニティマネージャーです。

運動が得意でない私は、小さい頃自転車になかなか乗れずに苦労しました。毎日少しずつ練習しては転び、なかなか乗れず失敗する日々。。ある日の夕方一生懸命練習して、乗れるまであと一歩のところで家に帰りました。翌日起きたら、昨日は転んでいたのに、スルスル~と漕ぎ出し、兄の後ろをついて行きました。

この話を私の周りの人にしたところ、「自分もこんなことがあった」という話を聞きました。

高校生の頃にギターの練習をしていて指が動かず、音が思い通りに出せない個所があり、数時間練習した。あ、できたと思っても、同じところでつまずいてしまう。100%音を再現できなかった。今日はもう無理だからと思い寝たところ、朝起きたら、弾けるようになっていた。不思議だなぁと思っていた。

「朝起きたら何故かできるようになっていた」こんな経験をしたことがある人は実はいるのではないでしょうか。実はこれら運動や、技能の習得には、睡眠が大きく関わっています。今日は睡眠と記憶のお話をしたいと思います。

睡眠サイクルについて

記憶の話をする前に、まずは睡眠サイクルについてお話しします。聞いたことがある人も多いかと思いますが、睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠という二つのタイプの睡眠が存在します。一般的にヒトは眠ると、ノンレム睡眠という眠りに入り、その後はレム睡眠に移動します。ノンレム睡眠とレム睡眠の周期は概ね90分程度と言われており、このセットが一晩で4~6回程繰り返されます。

レム睡眠:rapid eye movements の頭文字からREMと言われ、急速眼球運動を伴う睡眠です。眼球が動いていますが、カラダは休息している状態です。一方で脳は動いており、眠りは浅い状態です。夢を見るのもこの状態の時が多いといわれています。

ノンレム睡眠:脳が休息している状態です。この状態の時に、成長ホルモンが分泌されたり、体組織の修復や、免疫細胞の活性化などが行われています。

レム

記憶の種類について

では次に、記憶の種類を簡単にご紹介します。記憶には、保持できる期間と内容によっていくつかの種類に分類されます。

記憶500

短期記憶は持続時間が数十秒程度の記憶です。アドレス帳の電話番号を見て、電話をかける場合など、この時点では覚えていますが、すぐに忘れてしまう記憶です。

長期記憶は保持時間が長く、数分から一生にわたって保持される記憶です。長期記憶は、記憶の内容が言語化できる・できないによって、種類が分かれます。

手続き記憶

長期記憶の中でも、運動や技能に関わる記憶は手続き記憶と言われています。

手続き記憶とは:非陳述記憶のひとつで、自転車に乗れるようになるとか、うまく楽器の演奏ができるようになるというような記憶で、同じような経験の繰り返しにより獲得される。一旦形成されると、意識的な処理を伴わず自動的に機能し、長期間保存される。内容によって運動性技能、知覚性技能、認知性技能 (課題解決)の3種が区別されている。

いわゆる「体で覚えている」記憶ですね。体で覚える記憶と言っても、筋肉自体が何かを覚えているわけではなく、実際は脳の中で記憶の保存が行われています。長期記憶の中でも、意味記憶やエピソード記憶は脳の海馬と言われる場所が役割を果たしていますが、手続き記憶は、大脳基底核や小脳が中心的役割を果たしています。

記憶の保存のメカニズム

それでは、どのように記憶は保存されているのでしょうか。カルフォルニア大学バークレー校教授で、睡眠科学者であるマシュー・ウォーカーの著書「睡眠こそ最強の解決策である WHY WE SLEEP」に面白い実験結果が書かれていますので、ここでご紹介したいと思います。

実験内容
右利きの被験者を集め、左手の4本の指に番号を振り、5数字配列(例:4-1-3-2-4)を該当する指で「素早く、正確に」30秒間打ち込む実験をしました。被験者は複数のグループに分かれ、タイピングの練習を受け、12時間後にテストを行いました。

<実験一回目>
グループB:午前10時に練習→その日の午後10時ににテスト
グループD:午後10時に練習→8時間睡眠→翌朝午前10時にテスト

~結果~
グループB:スキルに目立った向上はなかった
グループD:数字を打ち込むスピードが20%上昇し、正確性は35%上昇した

<実験二回目>
グループB:一回目のテスト後、8時間睡眠をとり、翌朝午前10時にテスト
グループD:一回目のテスト後、起きている状態で、12時間後の午後10時にテスト

~結果~
グループB:グループDの一回目同様、20%程度の向上が見られた
グループD:目立った向上はなかった

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出典:Neuron Practice with Sleep Makes Perfect, VOLUME 35, ISSUE 1, P205-211, JULY 03, 2002

一回目の実験結果から、練習後睡眠をとったグループの方が、とらなかったグループより、技能が向上していることがわかりました。また、二回目の実験結果からは、技能向上が見られなかったグループも、最初の睡眠をとった後は、技能の向上が見られることがわかりました。

また、2004年に発表された別の実験結果からは、難易度が高くなるほど睡眠後の技能向上度が高まることがわかりました。睡眠中に苦手な動作を認識し、集中的に作用するといった記憶を増強するプロセスが明らかにされました。

難易度

出典:日本生物学的精神医学会誌 22(3): 151-157, 2011

記憶定着のキーワードは「ぐっすり」

これらの実験から、練習後の技能を定着させるためには、睡眠が大きな役割を果たしている可能性があることがわかりました。マシュー・ウォーカーは自身の著書の中で以下のように述べています。

練習が完璧を作るのではなく、練習し、その後で一晩ぐっすり眠ることが完璧をつくるのだ (睡眠こそ最強の解決策である WHY WE SLEEP p.154)

では、技能の定着は寝ている間いつ行われているのでしょうか。実験の中で、技能の定着は睡眠の後半に現れる浅いノンレム睡眠中に起こることがわかりました。後半のノンレム睡眠中に出る睡眠紡錘波と呼ばれる脳波が増えるほど、スキルの向上に繋がるということが見えてきました。

8時間睡眠の場合は、最後の2時間(例えば午後11時に寝た場合、朝の5時から7時の間)に現れる睡眠紡錘波が大事と書かれています。

忙しい現代人は、睡眠の最後の2時間を平気で犠牲にしている。その結果、午前5時~7時に現れる睡眠紡錘波を捨ててしまっているのだ (睡眠こそ最強の解決策である WHY WE SLEEP p.157)

短時間睡眠で十分な睡眠がとれないと、睡眠後半の浅いノンレム睡眠が削られてしまい、結果、せっかく習得した技能の定着が弱まってしまうことが示唆されています。

まとめ

運動やその他体で覚えた技能を向上させるためには、繰り返しの練習がもちろん必要です。そして、練習した後は、しっかりと睡眠をとることで、技能が定着していく可能性がわかりました。

練習したのに、きちんと睡眠をとらず、せっかくの向上チャンスを逃すのはもったいないですよね!運動で習得した技能を定着させるためには、十分な睡眠時間を確保し、ノンレム睡眠をとることが大事です!

では、睡眠後半の浅いノンレム睡眠だけをとればいいのでしょうか。一概にそうとは言えません。アスリートでいえば、タフなメンタルをつけるためにはレム睡眠が必要です。また、視覚での認知能力(視覚弁別能学習)を向上させるには、レム睡眠と深いノンレム睡眠が関わっています。

以上睡眠をとることで、パフォーマンスアップの可能性があることがお分かりいただけましたでしょうか。睡眠にはまだまだ秘められた力がたくさんあるので、別の機会にまたご紹介します!








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