見出し画像

NC制作の景色 #3 「MAKING MAGAZINEのメイキング」 【後編】

NC4号のメイキングマガジン誕生の裏話を、加藤と加納へのインタビューで紐解く本記事。前編ではON READINGでの滞在制作イベントを実施するに至った背景、意表をつくモノクロのデザイン意図などを公開。本編では実際のイベントにおける制作風景や振り返っての感想などを、NC制作の2人に聞いてみた。

SNSにアップされた
異様な風景に惹かれて集まる人々

メイキングマガジンの本文は、雑誌が出来上がり次第その場で販売することを見据え、コンテンツを追加した。名古屋入りのパーキングエリアで赤字校正をしたり、展示初日に赤字最終直しをしたり、ギリギリ(間に合っていない)のタイミングまで作業が続いた。出発直前で行ったON READINGへのインタビューをLiveで文字を起こしていくと「生っぽくて非常に興味が出てきた。“雑誌”がまさに現場で生まれてる!ってどんどん乗ってきた感じ」と加藤は振り返る。

◉工程表はこちら
1日目~4日目リソグラフ印刷(うち1日は朝4時までかかった)
5日目折り作業(折り機をかけた後で手作業でプレスする)
6日目~8日目丁合い(来場者参加型でまずは100冊分の丁合を終えることができた)
9日目綴じ作業(来場者が最後の丁合をし、編集者自らがホチキス止めを行う)

リソグラフ本体は名古屋の理想科学にリースした。日程もギリギリなら搬入の幅もギリギリ。

では、ON READINGの現場にはどんな方たちが集まって、どんな作業が進められたのか?イベント告知としてNCのInstagramにアップした、加藤自ら機材を運び込む姿やリソグラフ機械を専門業者が搬入する風景をみて、何ごとかと思い足を運んでくれた方も多かった。NCをすでに購入しているON READINGの常連の方もいたが、半分くらいはNCを知らない方たちが駆けつけ、手作業を担ってくれた。

折り機は編集者自ら横浜から車で運んだ。

「実際に機械に触れ、制作現場を見てもらえた。ボタンを押すだけだけど、リソグラフをやってみたい人も多かった」と加納が言うように、体験型のイベントは参加者にも好評だったようだ。

「地元のおばちゃんとか、出版社で働いているおじさん、図書館員とか、年齢層の幅が広かった。雑誌つくりを公開していったら自然に関わる人が増えて本当の意味でPUBLICになっていった」

昔俳句とか和歌の本を手づくりしていた人から、紙を触ったことすらない若い人が自然と集まった。丁合いのタームになってからは「あれやってください、これやってください」とお客さん同士で会話が生まれ、現場も活気づく。

そんな中、加藤には「9日間で終わらないかもしれないプレッシャー」が付きまとった。持久戦のアスリートのようなテンションで、日々朝6時から1人丁合作業を黙々とやり続けた。「自分にできることはそれしかないって感じで」

NCを支えてくれた今回のキーパーソンがON READING店主ご夫妻。NCチームとはなんでも話せる間柄になり、手伝いに来てくれる方たちと、作業に明け暮れるNCの潤滑油となってくれた。


2人の即興性がギャラリー空間をつくり出す

ギャラリーの空間演出についてはほぼノープランで行ったというNCチーム。「僕が印刷の出力監督で、加藤さんが刷りを担当しながら勝手に誌面を白壁にどんどん貼っていったんです。けど、ちょうどそれが壁の大きさと貼り終えた時の面積が一致していて。そういうのも全部偶然なんです」と振り返る加納。が、それすらも意図したことだったのではと思うほど、白い空間が黒い紙で覆われていき、オブジェのように黒い紙束が積み重ねられ、アートギャラリー然の空間へと日々可変していた。

さらに加納は「本をその場でつくること」について、こう語る。
「WTというオランダの大学院がフランスの展覧会に招待された際、学校のすべての機材や物品を段ボール箱に詰め、丸ごと展示会場に引っ越して制作をするという企画があったんです。段ボールで組み立てられた仮設の学校のなかで、彼らは編集からデザインまで会期中にこなしたんですね。そうした実践も念頭にありました」


雑誌を読んでない人たちにも届きますように

振り返ってみて、どんな9日間だったのだろうか。しんどかったのか。それともまたやりたいのか。

NCチームの山城さんも駆けつけてくれた。

「第1号(インド特集)を京都のリソグラフスタジオに缶詰で刷っていたことを思い出す」と実感する加藤。加納も「本当はこういう手作業をやった方が、効率っていうよりもつくるなかで思いつくアイデアもあるから」と爽やかに語る。

こうしてNCで自分がやってみたかったことを実現している加納は、今回出来上がったメイキングマガジンを「NCファンだけでなく、文芸誌とか硬いジャンルの出版に携わる人、何らかの本をつくろうと思っている人には面白いはず」と推す。

個人的には本文で寄稿されている加納のリサーチネタの一つ、「ソ連の地下出版 サミズダート」が面白かったと伝えると、本人にはこういうネタは無限にあるそうだ。
「単純な興味から調べていくのですが、知識をもつことよりそれを現在の状況にどう生かしていくかを考えることもデザイナーの役目の一つなのかなと思います。出版という古くからの営みがデジタルが前提の現在に注目されているように、すでに試みられてきた実践や歴史を再検討することでヒントが見つかることもあると思います」

「雑誌とか普段読んでいない、若い人に見てほしい」どんな人にこの雑誌を見てほしいかと、最後に編集者に質問するとこう返ってきた。NCすら知らない、雑誌全盛期も知らない若い人が手に取ったら果たしてどう感じるのか?「スマホでリアル体験をするのも楽しいけど、活字のリアル体験も面白いかもよ」という推しコメントしか思い浮かばないのだった。

Text: Rina Ishizuka

完全にインディペンデントとして存在し、オルタナティブな出版の形を模索し続けます。