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雑記:姫騎士おじさんとフクスケヤクザと如く味

ここ一週間ほど『龍が如く7外伝』を遊んでいた。

今作では主人公はふたたび桐生ちゃんこと桐生一馬になり、龍が如く7の裏で起こっていた出来事が描かれている……らしい。らしいというのは、俺が龍7をやっていないからだ。食わず嫌いなのはわかっているが、龍7で採用されたようなコマンドRPGはあまり得意でもなければ好きなジャンルでもなく、どうも手が出にくい。そこへいくと、今作は伝統のヤクザアクションへと回帰しているので安心して楽しめるというものだ。

といっても、龍が如くのアクション部分はPS3時代から基本的に変わり映えしない。3D格ゲーをシングルプレイ用に無理やり仕立て直したようなケンカバトルは、モーションがどれだけリアルになってもシステムとしては少し不格好なままだ。こちらのコンボがスカりがちなのはいつものことだし、ガード崩しという概念がほとんど存在しないせいでボス戦がかったるくなるのも毎度のこと。『SEKIRO』があり『マーベルスパイダーマン』があり『Hi-Fi RUSH』がある2023年からすると、龍が如くの戦闘システムはあまりにも前時代的だ。

それなのに、なぜ俺が──ゲームは優れたメカニクスを楽しんでこそだと言ってはばからないこの俺が──定期的に龍が如くを遊ばずにはいられないかというと、やはりこのゲームでしか味わえないもの、いわば"如く"ともいうべきものが存在するからだ。

ポケサーとか

たとえば、キャラ造形。主人公が桐生"ちゃん"と可愛らしい愛称で呼ばれていることからも明らかなように、おじさんをあざとくキュートに描くことにかけて龍が如くスタジオは他の追随を許さない特殊なテクニックを持っている。今作では、花輪というおじさんがキュート担当だ。花輪さんは、表向き死人扱いにされエージェントとして働くようになった桐生一馬の管理監督者で、最初はイヤミで一言多い、いかにも官僚的な堅物として登場する。

それが、開幕から1時間も経たないうちにこうだ。

この花輪おじさんという人、そこまで腕っぷしが強いわけでもないし非人情でもない。それどころか、なんだかめちゃくちゃ……可愛い!健気ともいえる気丈さもあいまって、花輪さんはおじさんなのに姫騎士みたいに見えてくる。桐生ちゃんはさしずめ、クールぶってるけれど優しさを隠せない豪傑といったところだ。その後も二人はなにかといえばファンタジーラブコメのような掛け合いをしては、見ているこちらをやきもきさせてくる。おじさん同士の会話にキュンとする異常な状態と思うかもしれないが、龍が如くではしばしば見られることだ。

姫騎士
豪傑

龍が如くシリーズには伊達さんという人情刑事がいて長年キュート担当をしてきたのだけれど、もう20周年も近いというこのタイミングで花輪さんというものすごい大型新人が登場してしまった。アイドルマスターでいうと、皆が「キュートつったら天海春香みたいに元気一番な感じで……」となっていたところにホンワカ系の櫻木真乃ちゃんがブッ込まれたみたいな衝撃だ。たぶん。

伊達さんもよく襲われたり誘拐されたりするお茶目なキャラだったが、花輪さんはこの一作だけで2回誘拐される(1回は未遂)という快挙を成し遂げている。そしてそのたびに桐生ちゃんとのいじらしい会話が差し込まれるので、セガはやはり狙って花輪さんをあざとく描いているのだろう。これと同じ芸当がスクエニやバンナムにできるとは到底思えない。おじさんが出るゲームを20年近く作り続けてきたスタジオだからこそできる職人技なのだ。

そんなこんなで、プレイが進むにつれて俺のスクショフォルダには花輪さんの画像がどんどん増えている。改めて抜き出すと姫騎士みたいな言葉しか喋ってないなこのおじさん……。

姫騎士すぎる

この"如く"というものはあざといおじさん以外にも存在していて、俺がそれを特に感じるのは「めちゃくちゃ変な登場をする敵ヤクザ」だったりする。龍が如くでは敵対組織のアジトにカチコミしたり脱出したりしながら敵と連戦するというお決まりの展開があり、そこで敵がおかしな登場をするのも伝統芸となっているのだ。これまでも「池に潜って待ち伏せヤクザ」とか「舞妓コスプレヤクザ」とか頭のネジをユルユルにしないと思いつかないような絵面で楽しませてくれたものだが、今作のような外伝でもそれは健在だ。

ピエロ風メイクが施された巨大フクスケ人形。その口がスモークを吐きながらパカっと開き……中からフクスケマスクを装着したヤクザが何人も出てきて……さらにパンイチのムキムキフクスケヤクザがスレッジハンマーを担いで登場!

このシーンをプレイ中、深夜0時頃なのに素で「ウワーッ!?」という声が出た。セガの正気を疑った。あまりにも濃厚な"如く味"をぶつけられて、脳ミソがショートするかと思った。これだけ長く続いて色々とマンネリ化しているはずのシリーズで、よくもまあプレイヤーの予想の斜め上を行き続けられるものだと、感心を通り越して畏怖すら感じた。

こういうブッ飛んだ演出で脳に一発ガツンとやられると、多少の粗やリアリティラインなどを気にするようなしゃらくさい余裕はなくなり、荒唐無稽さが心地いいケレン味へと次第に変わっていく。かと思えばまた唐突にシリアスな話をしたりする。見ていて全然飽きない。龍が如くのエンタメ性はこのジェットコースターのような温度差にあるのだと、つくづく分からされてしまう。

一般的にゲームのメカニクスは美しく洗練されていればいるほど良いとされる。当然といえば当然だ。あれだけ難しいSEKIROがそれでも愛されてやまないのは、攻防の内容を非常にわかりやすく可視化していたからだ。自分はどうして負けて、どうすれば勝てていたかがいつも明らかになっている。ごく少数のそうしたゲームは、色褪せないフェアな輝きでプレイヤーを魅了する。

しかしその一方で、演出やノリといった面でおいそれと真似できない"なにか"を持つゲームには、システムの完成度とは別の土俵で戦える強さがある。

龍が如くシリーズは基本的に1年に1作ペースで出すというすさまじい自転車操業をずっと続けていて、そのせいか、今に至るまでお粗末なシステムを根本的には改善できていない。戦闘は派手だが深みがなく整理されていないし、フィールドもミニゲームもほとんどが使いまわしだ。しかし、それでもなお、龍が如く7外伝は十分に面白く、遊ぶ甲斐のあるゲームだと胸を張って言いたい。あざとかわいいおじさんやイカれた演出、時流を捉えたサブストーリーといった"如く味"を突き詰めることについて、とにかく余念がない作品だからだ。

もうAIの話してる

俺にとって龍が如くシリーズとは、他では出会えない"如く味"を2年に一回くらいのペースで堪能するためのゲームなのかもしれない。

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