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【かたみわけ】#3 A HAPPY NEW YEAR 1995 SPECIAL CD

手持ちの90年代V系CDを生前整理する、聴き直しディスクレビュー。
今回は、約29年前のお正月に思いを馳せて……無料配布CD『A HAPPY NEW YEAR 1995 SPECIAL CD』です。

アーティスト:VA
タイトル:A HAPPY NEW YEAR 1995 SPECIAL CD
リリース:1995年


1:入手した経緯

こちらは、CDショップ「ライカエジソン」「RISKY DRUG STORE」「GURUGURU」の無料配布物です。
1995年当時の私はKneuklid RomanceやSIAM SHADE(インディーズ時代)のファンだったので、彼らのコメントが収録されているこのCDをもらうために、お正月にライカエジソン新宿店へ行きました(と思います)。

2:私的アーティスト紹介

これまではアーティスト紹介(という名の思い出)を書いてきましたが、今回は「お店」について書いてみますね。

ライカエジソンは多くのV系ファンがお世話になっているお店ですが、中学生の私が初めて友達と一緒に行ったときは、「UKエジソン」という店名でした(当時のお店のロゴが「EDiSON」だったので「エジソン」という店名だと長年思い込んでいたのですが、「i」の点のところに「U.K.」と小さく書いてあるのを今頃初めて知りました)。
店内には当時のストリートロックシーンの音源がたくさん並んでいて、2階フロアもあったと思います。
そんなエジソンは、西新宿の汚れた空気や街並みと相まって、まるでライブハウスのように部外者を拒む雰囲気を醸し出しており、田舎の中学生だった私は「す、凄い所に来た……!」と、ワルな気分に浸りきっていました。

その後、例の黄色と黒のロゴの「ライカエジソン」になった経緯はよく知らないのですが、私にとっては初めて行ったこの頃のエジソンの記憶のほうがいまだに鮮烈です(ちなみにこのとき購入したのは、インディーズ時代のかまいたちのVHS『独罰視姦』でした)。

余談ですが、当時のエジソンの近くにあった小さなCD屋さんについても書いておこうと思います。
エジソンを出た私と友人が「ここにもお店があるね」と入ってみたところ、そこは海外メタル専門店のような感じでした。
すると、棚に「X」というバンドの音源があったので(不勉強ですが、LAにもXというバンドが存在するようです)、「へえ〜」とお店の手書きの紹介ポップを見てみたところ「日本にも同名のクソバンドがいるけど◯◯〜……」と書かれていたんですよね。

驚きましたが、これはXが当時の洋楽勢からいかに嫌われていたかがよくわかる出来事だったと思います。
「ロックバンドのくせにバラエティ番組に出ているイロモノ」やら「見た目が派手なだけのヘタクソバンド」やら、まあ当時は本当にいろいろ言われていたのですが、私はなぜ否定されるのかわからず、ただただ不思議でした。
それは、幼かった私の中に「ロックとはこうあるものだ」「バンドとはこうあるものだ」という物差しが、まだなかったからだと思います。
私がもしすでに何らかの物差しを持っていたら、同じようなことを言っていたかもしれないのです。

自分の物差しを持つこと自体は、感性の成熟の証であり、またその人の美学とも言いかえられるでしょう。
ですが、時代とともに次々と生まれ落ちてくる「異端者」「憎まれっ子」たちを、フラットに面白がれる素直さも持ち続けていられたらと、年齢を重ねた今は特に思います。

3:聴き返しての所感

いや〜、こうしたコメント録りにはバンドのカラーが出て面白いですね。

たとえば、トップバッターのEins:Vierのように、いい意味で「普通に」こなすタイプ。音源もコメントもさわやかです。
続くBAISERは、ギターのカッティングといいメロディラインといい歌詞といい、これぞ90年代ヴィジュアル系!という王道のような音源に、これまた90年代ヴィジュアル系のイメージをそのまま体現したかのような小さく低い声のコメントが乗っていて、痺れました。

反対に、ちょけてかませるタイプのバンドもたくさんいます。
まず、SIAM SHADEは当時聴いても面白かったのですが、2020年代の今振り返るとラップでコメントを回しているところに改めて驚きです。『るろうに剣心』のイメージしかない方がこれを聴いたらびっくりされるかもしれませんが、インディーズ時代のライブのMCはだいたいこんなノリで、フロアは大爆笑でした。
Little Vampireもコント的な台本を仕込んで演技しているのですが、ここまでやりきっていると逆に真面目さを感じますね。

そして、コメントは最小限にとどめてほぼ音源のみ流すという硬派なタイプが、DEF MASTERやDEEP。
DEEPは『BILLY THE KID』という曲がおそらくフル尺で入っているのですが、イントロのギターといいAメロのベースラインといい、今聴いても耳を持っていかれますね……アウトサイダーの世界観をリアルに描写している、鈴木晃二さんの歌詞もすごく好きです。

最後に、KILL=SLAIDは音源がゴリゴリなのにコメントのほうは途中で電話が鳴っているのをそのままにしているというゆるさがギャップでした。

全18バンド、メジャー/インディーもジャンルも問わない不思議なラインナップですが、確かにこの頃これだけのバンドが同時に活動していたという、まるで当時のスクリーンショットのような音源だと思います。
そして、ラインナップのなかにはすでに亡くなられた方が何人かいらっしゃるという点でも、貴重な音源といえるでしょう。

追記:このCDを入手したときのことを思い出したくて友人に連絡してみたのですが、さっぱりして明るい性格の友人は、すでにメルカリで売っていました。
「かたみわけ」なんていうタイトルを付けてはいますが、そろそろ自分も本気で身辺整理を考えなければいけないのかも……と、自省させられる出来事でした。

本年は、お読みいただきありがとうございました!
皆様、どうぞよいお年をお迎えくださいませ。


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