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【読書感想文】コンビニ人間 村田沙耶香

ASDの当事者として主人公の感性や取り巻く環境の捉え方、
生きていく上での「マニュアル」など様々なことに共感を得ました。

ASDの私なりの考察

主人公の古倉恵子さんはおそらく聴覚有利のASD、コンビニの情報を音で判断している描写が多い

代わりに奥にあるペットボトルがローラーで流れてくるカラララ、という小さい音に顔をあげる。冷えた飲み物を最後にとってレジに向かうお客が多いため、その音に反応して身体が勝手に動くのだ。

村田 沙耶香. コンビニ人間 (文春文庫) (p.5). 文藝春秋. Kindle 版.

音によって身体が勝手に動いている描写
発達障害は五感の感覚がアンバランスで聴覚は鋭いが視覚は鈍い等の特徴がある。古倉さんは聴覚有利で触覚は鈍感。

コミュニケーションをマニュアル化して仕事に励む古倉さん

仕事や友人に対するコミュニケーションを自分なりにマニュアル化して自己防衛するのはASDの常套手段
彼女はコンビニで働く従業員をよく観察して、周りの人間の反応を見て何が良いかを判断し自己マニュアルを作り上げている

ASDは自分の感性で思ったことを話すとたいてい理解されない。
ASDが話したことに対して健常者は自分の世界の領域での知識を動員して見当違いな勝手な決めつけをして話を進めようとする。
この辟易した会話も本書ではリアルに再現されていた。
こういう経験が積み重なっていくとどんどん自分のことを話したくなくなり、対健常者用のコミュニケーションマニュアル(本書で言う仮面)が出来上がっていくのだ。

私自身、アイドルヲタクをやっているときのマニュアル、高校時代の友人と喋るときのマニュアル、仕事中のマニュアル、それぞれ違ったマニュアルが存在する。

視覚有利の私はコミュニケーション系のビジネス書を読むことを”自分にプログラムをインストールする”と呼んでいる。
主人公の古倉さんは聴覚有利のASDなので本ではなく人が会話をしているのを聴いている時間が”プログラムをインストール”している時間だったのだろう。

他人の境遇が全く気にならない古倉さん

自分が興味のあるもの以外全く気にならないのもASDの特徴の一つ。
古倉さんはこれがかなり顕著で生まれたばかりの妹の赤ちゃんと友人の赤ちゃんを「野良猫」と表現をしているどころか、静かにするためにナイフを使えばいいのにと思ってしまうほどの頓着のなさ
ASDの私でも恐ろしさを感じる。でもASDってこういうことだよなと感じる一文であった。

赤ん坊が泣き始めている。妹が慌ててあやして静かにさせようとしている。テーブルの上の、ケーキを半分にする時に使った小さなナイフを見ながら、静かにさせるだけでいいならとても簡単なのに、大変だなあと思った。妹は懸命に赤ん坊を抱きしめている。私はそれを見ながら、ケーキのクリームがついた唇を拭った。

村田 沙耶香. コンビニ人間 (文春文庫) (p.47). 文藝春秋. Kindle 版.

古倉さんから学ぶ発達障害の生き方

彼女は自分自身が異物と認識し、できるかぎり世の中に溶け込もうと努力をしている。
コンビニのマニュアルを徹底し覚え、話し方も職場の人の会話をトレースして自分なりに試行錯誤をした話し方を習得している。
妹からのアドバイスを取り入れ、会話のいなし方を学んでいる。
アップデートも怠らず、会ったらなにか良い言い訳が無いかとねだっていた。

自己理解

自分自身が異物だと理解するのはとてもつらい。でも異物ではあることは変わりないからどこかしらでケジメをつけて異物なりの生き方を模索しなくてはいけない。
私が自分を異物だと理解できたのは前職で上司や社長の言っていることが理解できず、コミュニケーションが苦しくなり適応障害に陥り休職したのがきっかけだった。
そこまでしないと気づけなかったのだが、古倉さんは子供の頃から理解しており、異物としての生き方を自分なりに構築していった。

マニュアルの徹底

自分が異物であることを認識できている古倉さんはいたずらに落ち込んだり、悲しむこともなくどうやったら上手く生きていけるか自分を殺して他人のやり方を真似したり意見を聞く柔軟性を発揮していた。
発達障害は他人を真似するのが上手い。
仕事で自分で考えることができずに怒られる人はまずは仕事のできる人を徹底的に真似することが良いと思う。
職場にそういう人がいたらそうさせてみるのも手かもしれない。
そんなことをふと考えた。

まとめ

ASDの主人公が物事に対しての感じ方や行動原理描写のリアリティの素晴らしさにどんどん引き込まれていった。
古倉さんはどう感じるんだろう、どう行動するんだろうと考えてしまうと本をめくる手が止まらない(Kindleなので厳密にはタップ)感覚が気持ちよかった。
身近にASDっぽい人(マイペースで自分の興味のあることはめちゃくちゃ喋って変なこだわりが多い変な人)がいる人や自分自身がそうかもって人にぜひ読んでほしい本
健常者にとってはファンタジーに思えるかもしれないけど我々にとってはリアルな描写にあふれている本なので発達障害理解の助けになればと思う。
この本に出会えた奇跡に感謝

追記 インタビュー記事を読んで

「正常に修復されてしまう世界の暴力性」を描きたかった

https://times.abema.tv/articles/-/1312118?page=1

適応障害がきっかけで修復していったこと経験があるので
正常に修復されてしまう世界の暴力性と表現してくれたことに感謝の念を抱かざるを得なかった。
本当に暴力的、自己肯定感は地に落ち、生きる意味を失い、死ぬこともできず、ただただ孤独を感じるだけの生活を過ごすしかない。
普通であることを強要される辛さをこう表現できるんだと感動してしまった。
今では幸せに生きているが、
誰もが修復されていなくても笑顔で要られる場所を作っておきたいなって思う。
難しいことだけどそれが私の生きるモチベーションかもしれない

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