With/Afterコロナにおける海外駐在員の在り方 vol.2

前回の投稿後、ビジネス目的の海外渡航の緩和が少しずつですが進みだしていますね。筆者としては、非常に喜ばしいと思いながらも、これでコロナ以前に戻っていくかという決してそうではないと思います。

多くの会社が既に在宅勤務を推奨し、定期代の支給を廃止し、出社した日の通勤費の実費支給や在宅勤務手当などを開始しています。多くの人が出社しなくても仕事ができることを理解してしまった以上、満員電車に揺られて出社したいとは思わないでしょう。もちろん家庭の事情によって、出社を望む人がいるのは確かであり、今後企業は試行錯誤しながら最適解を見つけていくことになるでしょう。

駐在員のタイプと評価される駐在員

前置きが長くなりましたが、前回のコラムで書いたことですがおさらいです。駐在員には大きく3つのタイプがいると思っています。

1.希望(野心)にあふれてチャンジ精神旺盛な駐在員
2.無難に任期を全うすることに価値を置く駐在員
3.海外生活を楽しむ駐在員

駐在員というのは手を挙げれば行けるというものではありません。行きたくない人でも、所属する部署の都合によって行かなければならないというケースも見受けられます。

海外に行きたいという人が駐在員として派遣された場合、1.や3.のタイプになりやすいです。企業人として組織に従順な人や、駐在員になりたくない人は、2.のタイプに該当し、何も考えていない人が3.のタイプになりやすいと考えています。

では、どのタイプがこれまで高い評価を受ける駐在員になっていたかというと、2.のタイプが圧倒的に多いのではないかと思っています。

近年の日本企業において、未開拓・未進出の市場に、新たに法人を立ち上げるというケースはあまり多くありません。(ベンチャーや中小企業は別ですが。)
つまり、海外派遣のほとんどが、以前から駐在員が派遣されていた海外拠点に、交代要員で派遣されるというケースになるわけです。

交代要員で派遣される駐在員は前任者の仕事を引き継ぐことが使命であり、何か新しいチャレンジや成果を出すことを派遣元からはあまり求められていません。現地で前任者の業務を引き継ぎ、円滑にこなし、問題を起こさず任期を全うすることがキャリアに傷をつけない最善の方法なのです。

訪問先の拠点長から言われた衝撃的な一言があります。
「私はあと1年で帰任です。何も問題を起こさず帰任することが私にとって一番重要であり、リスクのあることはしたくない」

この拠点長は、帰任後日本本社の取締役になりました。
取締役になるための要件である、「海外でのマネジメント経験」を得ることが重要だったのでしょう。

タイプ1.の人であれば「帰任まであと一年しかない、今取り組んでいるこの改革をどうしても成功させたい!」と、熱く語ってくることでしょう。任期という時間に縛られ、功を焦るあまり、多くのやり残しや課題を拠点に残したままにすることで、拠点を混乱させたという評価が残ってしまいます。

もちろん何かしらの大成功を収めることができれば、その人の会社における将来は明るいものになるかもしれません。しかし、限られた任期の中ではなかなか難しく、意外と無難に過ごすことで評価を上げることが多いのです。

任期という弊害

一般的な駐在員の任期は3-5年です。20代半ばから5年駐在することができた私は非常に恵まれた駐在員生活だったと思っています。

駐在員生活を20年以上している知人から言われたのは、「3年いれば半人前、5年いれば1人前」という言葉でした。

赴任して最初の半年から1年は、現地の暮らしや仕事に慣れることで精一杯になりがちです。
日本の転勤とは違い、文化や言葉も違う中で仕事をするというのは、日本で外国人社員と仕事をするというのと全く違います。駐在員のうつ病発症率は日本で働く社員の3倍以上というデータもあるようです。会社も社員の適性や希望を考えながら赴任者を決定していますが、それでもうつ病の発症率がこれほど高いというのは、それほどストレスの多い環境なのでしょう。
(筆者は鈍感力が高いのか、海外環境に適応しやすいタイプでした。そういう人もたくさんいらっしゃいます。)

2年目になると、生活にも慣れ、現地でのコミュニティも広がり、非常に仕事に打ち込むことができる状態になっていきます。しかし、2年目のジンクスではないですが、羽目を外しすぎて大失敗を犯してしまうケースもこの2年目の駐在員にありがちです。あまり日本のニュースにはなりませんが、強制送還される駐在員というのは、意外に多いのです。

そして集大成の3年目です。
後任者に対する引継ぎの準備が始まります。帰任半年前から後任者への引継ぎが開始されるケースが多いかと思います。(企業によっては1-2ヶ月ですが)
そして、帰任。

3年の駐在生活は思った以上にあっという間に任期満了となってしまうことがほとんどです。任期が5年である場合、3年目と4年目に何かしらのチャレンジをし、成果を残すチャンスがあると思います。それゆえ、駐在生活20年以上の知人は3年で半人前、5年で1人前と教えてくれたのではないでしょうか。

時間は有限ではないため、それを示すためにも任期は重要なのかもしれません。しかし、任期があるゆえに、駐在員は保守的に行動してしまうケースが多いように思えてなりません。また、前任者の引継ぎが多いことで、本来求められている駐在員のミッションが不透明になってしまうのではないでしょうか。

そもそも駐在員の引継ぎは、本当に必要なことなのでしょうか。

非常に難しい論点だと思います。
次回は、海外事業で求められる駐在員の役割の本質について検討していきたいと思います。

既に海外事業に関する課題や悩みを持っている企業の皆さんの相談も受け付けておりますので、お気軽にコメントください。

本編は以上です。以下、一休みコラムです。

コラム:現地採用に切り替えたある企業の話

当時クライアントだった小売大手の企業がシンガポールに進出することになり、色々と相談を受けていました。相談を受け始めたのは既に進出が決定し、現地での登記も完了している段階でした。

そんな時、一番驚いたのが、シンガポールに赴任する社員をすべて現地採用に切り替えるということです。つまり、本社に在籍したまま現地法人に出向するという在籍出向の形態ではなく、完全に現地法人に籍を移す転籍出向としたのです。

つまり、日本本社の在籍は完全に消滅するため、帰任する場所がなくなり、赴任期間なんてものもありません。これは現地に骨を埋めてこいという意思表明とも取れます。

実際には、いずれ本社に再度転籍することになるのかもしれませんが、それには当然現地での成功が必要条件となるでしょう。そういうクライアントでした。

成功をどう定義していたかはわかりませんが、何年以内黒字化や何年以内に店舗何店まで拡大とかそういうミッションが課せられていたのでしょう。
これくらいの必死さが、海外事業展開には求められているのだと思い、非常に感心したことを覚えています。


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