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5. 人生に足りないものなんてない

ついこの間、ちょっと長めに実家に帰った。

実家は北海道。いつもはわざわざ寒い冬に帰ることはないのだけれど、今回はちょうどわたしも仕事を辞めて時間がある&今後どうしていこうか悶々としていたので、雪深い寒さの中で己について考えたかったのと、何よりも少し前に父が肺炎で入院したのもずっと気がかりで顔を見に帰りたかった。

まだまだ現役で忙しく働いている両親だけど、久しぶりに帰ってくる娘とゆっくりしたいと3日も休みを取ってくれた。

3日間でやったこと。

まず毎日温泉へ行った。

わたしの地元はそこらじゅうに温泉があり、ちょっとした健康ランドみたいな施設もだいたい450円くらい(東京だったら最低でも1500円以上はするようなところ)、銭湯と同じ金額で入れる。

そして次に、3人で映画館に行った。

両親と映画を観に行くなんて40年生きていて初!「こんな夜更けにバナナかよ」を観た。

最後に、ひたすらおしゃべり。

我が家は家族全員がとにかくよく喋る。みんなが集まるとかなり賑やかだけど、両親とわたしの3人だけでも充分。話題に困ることはなく、毎日夜通し喋った。

ある日、真夜中2時くらいになって父が

父「俺は本当に幸せだなあ〜」 

と言い出した。
言っておくがノーアルコール。シラフだ。

父「お母さんもいるし、俺も年取ったけどまだボケてない、働けるているし。 子どももみんな良い旦那、奥さん見つけて孫もいるし。」 

人目を気にしながら今日も生きているわたしは、胸を張って今の自分が幸せだな〜って言えるだろうか。不幸ではない、幸せではある。けど・・・がうまく言葉に出来無い。

そんな欲張り娘は、目の前にある手持ちのカードに最大限の幸福を感じているだろう父に聞いてみたくなった。

「お父さんは、自分の人生に足りないものないの? 例えばお金とか名声とか、友達とか、何でもいいけど。」

父「うーん… ない

即答だった。マジか。

ここからは、スーパーヒーローのインタビューだと思ってご覧ください。

「人を羨んだりしませんか?」

父「ない。」 

「劣等感を感じたりすることは?」

父「ない。そもそも人と自分を比べないし。」 

「(うそ、うそ笑、そんな人いないって)
お父さんは、小さい頃から働いてるし学校も行けなかったりしたじゃん?

例えばだけど、自分の家がもっと裕福だったら、学校行けてたら人生変わってたのに、とか、自分の境遇を悔やむことは?」
※父はすごく若いときから働いて自分は進学せずに兄弟の学費を工面した経緯あり

父「ない。今まで辿ってきた道で今があるしなあ。今、幸せだし。 

お金がなかったこと、学校行かないで働かなきゃいけなかったりって、俺がそういう役回りだっただけじゃない?たまたま。

仕方ないよね、でも今が良いから別に何とも思わない。」 

「でも、他の兄弟は学校行ってるじゃん。
何で俺だけ行けないんだよ!!とかの怒りは?親への恨みとかは?」

父「ない。ていうか、そこまで深く考えてないわ。 

お母さん(わたしのおばあちゃん)を助けてあげたかったしさ。 

助けるには俺が働くしかなかったから、その時は働くことしか考えてなかったし。それがたまたま俺の一番やりたかったことだった。 

他の兄弟は、お母さんを助けることが一番にやりたかったわけじゃなかったんじゃ?」 

「お兄ちゃんが長男だから働けよ!とかは? 俺が学校出してやったんだぞ!とかは?」

父「ない。 俺が働いたのはお母さんを助けたかっただけ。学校行けなかったのはたまたま。 ほんとに学校行きたかったら今からでも行くし。 

でも、行ってないから俺はたぶん勉強きらいなんだろうなー。」 

お父さん、聖人君子かよ!て突っ込んだ、声を出して。

人生に足りないものない人とか都市伝説かと思ってたわ。

なぜわたしに、この思考回路が遺伝しなかったんだー!!と悔しい気持ちでいっぱいだったところに、今度は逆インタビュー。

父「じゃあ、長女ちゃんは人生に足りないものあるの? ちょっと言ってみてよ。」 

「あるに決まってんでしょーがっ!! まず…

(あれ案外思い浮かばない…)

…まあ、お金?(半疑問形)いや富豪でもないし、年齢の割には貯金もない、でも困ってはないかも?…

あとは、子ども!!これは絶対!欲しいけどいないし!

あとはあとは、仕事?(半疑問形)でもこれは探せばすぐ見つかる… のかもしれない?

… 」

以上。まさかの3つ!ひねり出して3つだった。
しかもうち2つは半疑問形で。

父「お金?家もあるし、働いてる旦那もいて借金もないだろ?困ってるわけじゃないだろ。 

お金は手段だ。振り回されても仕方ない。ないなら稼げばいいだけだ。 

子ども?ヤク中になったり、グレたりするかもしれないぞ?いてもいなくても、どっちでもいーだろ。 

仕事?おまえそんなに口達者で、人分析してんだから仕事あるだろ、どこにでも。
こんなご時世だし、明日にでも起業したっていんだぞ。」
 

ということでこれまた即答。あっという間にわたしの人生にも足りないものは「ない」 ということになった。

え?うそ?解決?
雪深い中で己を見つめ直すはずだったのに?

わたしの父は田舎のフツーの親父だ。ナチュラルに 自分は幸せだと思っている、本当に幸せなおじさんだ。でもこの現代に、父みたいに即答で心底幸せだって言える人ってそうそういないんじゃないかな。うちの父は、なかなか稀有な存在だと思う。

今まで家業でも苦労しただろうし、病気したりもしたけどなんか絶妙に乗りこなしている感じ。

たまたま起きている目の前のことをやってきて、それが父の場合、進学せず家族を養うことだった。

自分のやりたいことを優先してやる、おばあちゃんを助ける=働くこと

それは充分過ぎるほど成し遂げた。天国のおばあちゃんも絶対喜んでいるはずだ。

父は背中でわたしにずーっとこれを見せてきてくれてたのに、わたし、全然受け取れていなかった。

今、わたしは正直、自分が本当に何やりたいかわからずにいる。これかなー?って思ってもやってみたら違ったりして。で、見つからないから、わたしなんて何にも出来ない穀潰しです・・・みたいな暗い気持ちになったりしていた。

でもそもそも、今専業主婦でいられることも(夫に大感謝)そうだし、やりたいことを模索できる時間があることも、ひょんなことから繋がった人との縁があったり、ごはんも食べられているし、信頼できる夫がいて、かわいい犬もいる。両親も健在で家族は元気だ。

確かに人生に足りないものは無いかも。

わたしも父のように目の前のことを淡々とやろう。やってみたいことはやって、違ったらまた探せばいい。そして、わたしは幸せだな〜って一点の曇りなく、心の底から、父みたいに言う!

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