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創作小説「In the “lost city”,」

「そこの君!これを!」
どこにでもいそうなビジネスマンがそう言って、僕に手のひらサイズのフィギュアを僕に握りこませた。
「残っているのはもう私だけなんだ。理不尽だとは理解してる。でも、どうか、どうかあ」
目の前で彼の顔の上半分が吹き飛んだ。
悲鳴とどよめきが一瞬遅れてやってくる。
急に過敏になった感覚が「いつも」を見失う。
彼の背後に立つ女性が肉片のこびりついたバットを構えなおしているのを、僕は動けずにみていた。

え、状況が理解できないって?
分かる。僕も今そうだもの。
でもできる限りは皆さんの質問に答えよう。
Q:あなたは誰?
A:ヴェントと申します。普通の貧乏大学生です。
Q:そこどこ?
A:ロストシティにある大学内にあるバス停です。コンビニで今日の食料の味無しパンと炭酸水を買って、次の昼の講義に出るためにバスを待ってたらこうなりました。
Q:その人たちは誰?
A:二人とも知りません。というかこっちが知りたいくらいです。女性は身長2.5メートルくらいで軽く武装しています。男性は本当に普通の男性です。
Q:2.5メートル?
A:ああ、ヒューマンじゃないので。いわゆる新人類ってやつです。ロストシティに住んでない人にはなじみがないかもしれませんが。
Q:ロストシティってどこ?
A:え、知らないんですか?あの新人類誕生の地ですよ?
Q:何を渡されたの?
A:ええと、チェスのコマですね。これは黒のキングですかね。
Q:質問に答える前に逃げないの?
A:ほんとだ!・・・でも、何もしてくる気配はないですね。あ、この人、白のクイーンのネックレスをしてる。あだ名、クイーンにしましょうか。安直ですk
「何をぶつぶつ言っているんだ。早く次の手を打て。小僧。」
「ひやっ、・・・?次の手って何ですか?」
急に話しかけてこないでよ!なぐられるよりはましだけど。
「私からの情報の開示はルール違反だ。」
そんな冷たく見放したように言わなくてもいいのに。
でも次の手を打たない限りこの人は襲ってこないと分かっただけでも十分すぎる収穫だ。
仕方がない。他の人に質問しよう、っては?
おかしい。周りに人がいない。
普通なら、野次馬くらいいるでしょ。それに大学の警備員は?
焦ってポケットに駒を入れる。
見間違いだろうか、その時前にいるクイーンの口角が少し上がった気がした。
それは、つまり。
僕は次の手を打ってしまった⁉
その勘を肯定するようにゆっくりと距離を詰めだされる。
条件反射でバス停の接近表示を挟むように逃げだす。
構うもんか。これ以上じっとしているほうが危険だ。
振りぬかれたバットがバス停に当たり根元から折れる。
聞こえた舌打ちと歪んだバス停の姿に背筋が凍る。
旧校舎の角を曲がり、なお逃げ続ける。
人が僕を見ては走って逃げていく。
何故、僕を避ける。
後ろから通行人の悲鳴が聞こえ、姿がみえる。
早い。もう角を曲がっているのか。
土地勘を頼りにジグザクに走り続ける。
この追いかけっこには必勝法がある。
相手が曲がるより先にもう一度曲がってしまえばいいのだ。
土地勘の有無はこの追いかけっこにおいて圧倒的な差になる。
ぼくはこの大学にはHの形をした通路がいくつもあることを知っていた。
それを使えば、どうにかまくことができる。
曲がる、曲がる、曲がる、曲がる。
そして、奴が僕の姿を見失う。
ン??難しい?
よし、ちょっとだけ考える時間をあげよう。
理解できた?え、まだ?
ああ、ごめんもうクイーンが来ちゃうからバイバイ。
おっと、10倍速で早送りスタート。
曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる、曲がる。
幾度曲がったかわからないほどに曲がり続けた。
でも、まだついてくる。こっちが持たない。
おそらく無駄足を踏ませることはできていただろう。
だが能力差から距離は一向に変化しなかった。
そして再び例のバス停まで戻ってきた。
うわー、きつい。またやり直しを宣告された気分だ。
もうあきらめろよと言いたげな死体に、「うっせえな!」と言い放ち、足に鞭を打って走り続ける。
無残にも残されたままの死体を飛び越え、尽きかけの体力を振り絞り、旧校舎を曲がる。
その際、バス停で立ち止まっているクイーンの姿が見えた。
やっと解放される、そう思った時だった。
ドゴッッッ
旧校舎から飛んできた何かが体に衝突し吹き飛ばされた。
衝突の余韻で体がうまく動かせない。
服が赤黒く染まっている。鼻につくにおいに空嘔が出る。
なんてものを隠してやがったんだ。
……………
いや、待て。どういうことだ。
校舎から飛んできたものに当たった?
おかしい。どうやって建物を貫通する?
もしかして、無関係の事故か?
顔を上げ、バス停を持つ奴を見る。
そしてようやく理解することができた。
バス停で打たれた男性の死体だった肉塊が、曲がり角を挟んだ2枚のガラスを貫いて飛んできたのだと。
「まじかよ。」
たとえ旧校舎とはいえ、防弾ガラスを人力で破るのかよ。
それはヒト科ヒト属にはできないよ。
マーベル?DCコミックス?
どこの世界線の人だあんたは。
無残にも内臓がもろに出た死体を見る。
おめでとう。君はヒューマンの中で一番早く動いたに違いない。死んでからだけど。
あーあ、またイブにやいやい言われるのかー。
あいつ、昼間っからおっぱじめてるなんてことはないだろうな。
まあ、しょうがないか。
もうあきらめた。
これ以上は無理だ。
しかもこんなに都合よくあるとは、この町に好かれているとしか思えない。
あの日、いったい僕はあなたに何をしたんだ?
何故、こんなにも僕に執着するんだ?
聞いても答えは返ってこない。
無駄。そう分かっているし、過去は変えられない。
それでも…
と、意味深なことを考え決心をする。
他人の過去をほじくり返すのはみっともないぜ、あんた。
あと、これからグロテスクなシーンがあるから気をつけな。
あれ?いま僕は誰に話していたんだろう。
どうだっていいか。
どうせこの世界にいる誰かだろう。
なら範囲内だ。
鈍る体を起こし、一応合掌しておく。
そして、ぐちゃぐちゃになった内臓、特に胃の近くを手に取り、食べた。
ゴキュ、グチュグチュ、クチャクチャ。
体液を逃さないようしっかりと噛みのみこむ。
もう一口。もう一口。かすり傷が消えていく。
もう一口。もう一口。体のしびれが消える。
もう一口。もう一口。傷がすべてなくなる。
もう一口。もう一口。曲がり角まで来ていた奴の心音が早くなるのが見える。
もう一口。もう一口。全ての記憶を書き換える。
もう一口。もう一口。奴の神経回路が抵抗で焼き切れた匂いがする。
もう一口。もう一口。奴の生命反応が消える。
もう一口。もう一口。奴を気絶の段階まで回復する。
あー、食べた食べた。
って、もう内臓無くなってるじゃん。
生存本能ってすごいな。
あ、奴の記憶覗いてから気絶させるんだった。
あとチェスの駒、かえしとかなきゃ。
ん、入れたはずの右ポケットにない。
左に入れたっけ。って、はあ!?
チェスの駒はブレスレットとして左手首につけられていた。
外そうとしても外れない。新手の押し売りか!
あきらめて帰ろうとすると、ブレスレットから「発信しました」とご丁寧に音声案内があったので、地面にたたきつけてみたが、ただ手が痛くなるだけだった。
何を発信したんだよ!それによっては今後の行動変えないといけないんだけど!
・・・・・・・・。
ふーん、黙秘権を行使ですか。
このクソッタレの王め!

「それ、まだ続くの?」
ようやくやってきた警察のサイレンに心の中でブーイングをしていると、文句ありげな声が聞こえた。
いや、正確には声を受信した。イブだ。
「そりゃ、一生続くよ。金を積まれたら何度でも手のひらを反すような集団の治安維持活動なんて、面白みのないフェイクニュースよりも価値がない。」
「はいはい。どうでもいい話はあとにして。私が聞いてるのはあんたが巻き込まれてる事件のほう。私には正しい記憶が送られてきたから大体の話は分かるけど。」
「さあね。でも続きそうな気配はする。だから今回の事件について詳しく調べてくれない?」
「了解。あと今回はどうやって能力を使ったの?私とつながってるってことはかなりのものを食べたんでしょ。」
「君は全部知ってるはずだよね。一部始終を送ったつもりなんだけど。」
「そこは見てない。五感すべてが無加工の情報はそこらの薬よりキツイからやめてって前に言ったよね。特にグロいのとか。」
「内臓を食べた。」
「うわー、言いやがった。引くわ。このカニバリズム!自分は死ねないくせに。」
「カニバリズムという言葉をきちんと使えていない人には言われたくないね。」
「あーもう、うっさい。今、いいところなの。静かにしてくれない?」
「また男漁りしてるの?イブのどこがいいんだか。イヌみたいにはあはあ喘ぐだけの。」
「はぁぁぁー⁉あんたなんて手を出す価値もない、あっ、ああ、ごめん友達がちょっと大変らしくって。ああーっもう、今回は情報だけ、絶対に戦わないからね。わかった?ブラックスモーカーくん?」
「え、聞いてないって!あとその名前で呼ぶな!」
返答はなかった。
皆さん、どう思います?
今の一連の流れを見て、僕がどれだけ大変な目にあっているのかも承知の上で平気で自分の予定を優先する身勝手さ。
しかも数えきれないくらいの人数と付き合ってるくせに、一緒に暮らし、金銭面でも、生活面でも、人生においても一番お世話になっている人の依頼を気分次第で断る人間性。
お里が知れるね。
まあ、いやというほど知ってるけど。
さて、閑話休題。
一応、奴は身柄を拘束され護送車にて搬送中。
今もまだ意識不明の重体。
が、それもじきに回復するのでご安心を。
だって直したから。
あ、僕そういうの得意なんです。
人の記憶を消すのとか。
でも普段だと何の抵抗もされないのにこのブレスレットのせいか?
さてここからはしばらく場所移動を挟むから、世間話でも。
イブからの連絡か何かトラブルがあるまで。
目的地は悪の本拠地警察署。
なるべく手間も時間もお金もかからない方法で。
そしてかつ安全に。
イブはやるときはやる子ですから1時間以内には情報をくれるでしょう。
僕に何かあれば困るのはイブのほうだし。
そういや、皆はロストシティを知らないんだっけ。
じゃあ、そんなみなさんに観光案内を。
ん~、ごほん。あーあーあー、マイクおっけ。
西暦20xx年2月9日。突如として大西洋のど真ん中に現れたこの街。
まるで初めからそこにあったかのように堂々と。
この地域はこのロストシティの中でも経済活動が活発なところです。
右手に見えますは中央銀行。
一日に五、六回ほど銀行強盗があり、欠かさずミサイルが飛んできます。
今のところ、一円も取られていないそうです。本当はあれはダミーなんじゃないかという都市伝説がまことしやかに語られています。
お、皆は運がいい。ちょうど二組同時に強盗が入っていったね。
でも、そんな雑な方法だとすぐに終わっちゃうんだよね。
はい、ほら。もう拘束されてますね。一番体格のいい男は両腕を失っちゃいましたか。
一般人の死傷者はざっと10人くらいですかね。
わざわざこの銀行まで来なくてもいいのに。
そして左手に見えますは植物ビル群ですね。
このビルたち、なんか生えてきたんです。今も成長を続けていまして、この町の経済の基盤になっています。
この地域はフォレストと呼ばれ、大量の二酸化炭素素排出し、酸素を使う世界の問題の一つになっています。
残念ながらこの街の行動に文句を言ってくる批評家はこの町にしかいませんし、そんなことをすれば、おちおち服も着てられませんので。
昨日着ていた服に食べられちゃうかもしれないですから。
人食い服。知らない?結構はびこってますよ。お土産に服を買う時は気を付けてください。
さて次に見えますのは、ってそれよりも左手の人混みの中央の男性をご覧ください。
ご存じの方もおられるかもしれませんが、首無し騎士ことデュラハン選手です。
繁華街中央にあるコロシアムで一〇〇人斬りを達成したスター選手の一人ですね。
見ての通り首から上がないんですが、あれイブのせいなんです。
昔、コロシアムに遊びでイブが参加した際、不幸なことに彼が当たってしまって、彼の名誉のために負けてあげる代わりに付き合っているんです。
首から上は僕らの家にあります。イブが持って帰ってきたので。
いったい何があったんだか。気になる人は本人に聞いて。
いまじゃ一緒にお酒飲んだり歌を歌ったりと、もしかしたらこの町で僕と一番仲がいい人かもしれません。ちなみに彼、もともとはミュージシャン志望で歌がうまいんですよ。
後は、ああ、この町の安全指数というものを紹介します。
皆さん、この市に入る際にセーフティーチェッカーをもらったと思うんですけど、その数値が安全指数です。
地域ごとに設定されていて、一日三回更新されます。
危険度を対数表示で表してます。
数値が三以上のところにはいかないでください。二分の一の確率で死体になって帰ることになります。
ちなみにこの地域は4.8くらいなので、観光客は臓器の福袋か賃金のかからない労働力として見られますね。ちなみに5になったら死亡率は九十八パーセント程度です。
あのような電光掲示板だともっと細かい区域での数値が出てきますので、ってここの数値、今12くらいなんだ。なんでだろ。
そんなところかな。
観光客の方は、この街にいるときには室内であろうと武装を絶対に解かないでくださいね。
外に出るときは護衛をつけることをお勧めします。
住みたい方は外したほうがいいですよ。カモがネギを背負って歩いてるのと同じですから。
ここまでの話で物騒な街だと思われるかもしれません。
ですが、この町の代表として言わせてもらいます。
この街はいいところです。
というより刃物みたいに利点が大きすぎるがゆえにそんなことが些細に見えてしまいます。
人情も青春も夢も希望も愛も勇気もなんでもあります。
そして何より、自由があります。
ただ、与えられたものは自分で守らなくてはいけないだけで。
つまり自分のケツは自分で拭けという話です。
それに世界はここを中心に回っています。
だから何をたどっても最先端はこの街にある。
世界一の美女だって、最先端の科学者だって、魔術結社の最高幹部だって、みんなここにいるんです。逆にこの街にいなければ最先端になったとは言えない。
それに、この街には多くの子供がいます。
輝かしい価値が生まれている。
それが一番素敵なことでしょう?いずれどんな人間になろうとも。
諸外国に向けてのスピーチは有名です。
「この街に統治者はいない。支配したいのなら好きにしてくれてもいい。ここはそんなくだらないことに縛られるような街ではない。」
いいですね。ちなみに技術力に目がくらんだ一部の国は侵攻の10分後には地図の上から消えましたよ。
笑えないね。
ここではすべてのものが生まれてきます。
その産声がこの街の心音。
ね、いいところでしょう?
はい、これでこの街の案内は終わり。後は実際に見て感じるほうが早い。
あー、やっぱり敬語ばっか使うと疲れるわ。
さて、目的地まで少し昼寝でもするよ。おやすみ。
あ、そうだ。言い忘れてたけど、今、クイーンの護送車の上に乗ってるよ。


作者としては規制対象にならないことを祈るだけです。

あと、前に書いてた「Device」ですが、なーんか終わり方が味気なくなちゃいそうなので、続きは日常風景を描いたものを上げて、ちょっと休憩。

続きが気になってた方はごめんね。

はじめはそんなものと割り切っていきます。

この話のほうがよっぽどテンポがいいからノリで作るかも。

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