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創作小説「DEvice」1

初めて小説を書きました。

本当は企画に応募するつもりだったのですが間に合わなかったので今出します。


ミナミ・イシカワは今の今まで後輩だった。
いや、後輩という概念を再定義する必要が生じたというべきか。
飛び級制度によって学年の順序が入れ替わったのだ。
「私、今は6年だから先輩より学年が上なんです。なので今から私が先輩です。」
相変わらず表情一つ変えず証拠となる資料を僕に見せつけてくる。
ただこちらも元先輩として黙っているわけにはいかない。
「確かに学年だけでいえば僕は5年だ。だがここはデバイス研究同好会。入会時期によって先輩後輩の序列が決定される。学校の学年が上だとかそういったものは学校の中での決まりに過ぎない。それに君は今、僕のことを先輩と言っ、、」
「無駄なあがきはみっともないでs、、みっともないよ、イライザ君。」
冷ややかな目を向けられた。うーん、殴られるより痛いね。
敬語で話す癖が抜けてないということを指摘するのは控えておこう。
たった二人しかいない活動部屋では何があってもこちらに勝ち目がなさそうだからな。
「というより、そんなにもいやですか。私が先輩の先輩になるのが。」
「いやだね、ミナミ。君のような優秀で才能があって、その上ルックスもいいような人間が上に立つのは弱肉強食の有様を見せつけられているような気がして癪なんだよ。」
彼女の顔が少しゆがむ。おそらく不躾に名前を呼ばれたことと、上っ面の誉め言葉がお気に召さなかったのだろう。
その後、少しの間くだらない会話が続いたが、その会話は果たしてこの部屋への新たなる来訪者によって打ち破られた。
総勢4名。内訳:友人1名、後輩2名、友人の友人1名である。
ちなみにこの同好会はこれで全員の零細同好会である。
そのうち友人ことライ・ヴァインベルクが僕たち二人の間に割って入った。
「よーう。あれ、イシカワもいる。授業早めに終わったの?」
「あぁ、ライ先輩。こんにちは。実は私、飛び級で6年になったんです。なので切り上げる時間が早かったんです。」
「え!ってことはイシカワは俺たちの先輩になるのか。ははぁ、やっぱりすげぇな。」
「確かに学年上は私が先輩ですけど、同好会の中では私が後輩のままで結構ですよ。私は別にこだわりはありませんし。」
おいおいおいおい。さっきと話が違うだろ。疑われることも込みで資料まで提示して僕に後輩となることを強要したのはどこのどいつだ。
そう口走ろうとした途端、口を手でおおわれるような感触がした。
間違いない。彼奴の仕業だ。よく見るとこちらをうかがっているし、口角も少し上がっている。
後で魔法を使用した際に発生する残留魔力を調べれば彼女がどのような能力を使っていたのかがすぐにわかるだろう。
その後すぐに解放されたが、もう口答えはしなかった。

石黒魔法中学校・高校は魔法を専門とする中高一貫校である。
その学生である僕がいうのもあれだろうが、かなりランクの高い高校である。
魔法の能力値だけでなく、魔法を使用するための『デバイス』の知識、一般的な学力も求められるのだ。
つまりとても優秀な生徒、もしくは少し特殊な事情のある生徒、いわゆる特別生しかいないということだ。
ちなみに僕ことイライザ・カートゥーンは後者に認定される。
僕はデバイスを起動するための魔力の出力単位が小さいという症状を持っている。
わかりやすく言うなら、太いホースで水を出すか注射針で水を出すことや、ショベルカーで土を掘るかスコップで土を掘るような違いである。
この症状は過去に例がないらしく、この特殊体質の研究調査もかねて僕はこの学校に入学することができた。特別生は少しだけ試験を免除される。ラッキーだ。
そして彼女は明らかなる前者。いわゆる天才である。
入学式にて壇上にこそ上がらなかったものの、入学当初から神童としてあがめられてきた彼女はその圧倒的な能力でなんと今年、2学年の飛び級まで果たしたのだ。
実質僕らの学校を代表する一人と言っても差し支えないだろう。
おそらくこの学校でサイコキネシス系統の能力で彼女にかなうものはいまい。
そんな彼女は僕のような一般的な生徒にとって高嶺の花であるはずなのだ。
僕とライが立ち上げたデバイス研究同好会、通称デバ研に所属していなければ。
この同好会は僕たちの趣味が高じて作ったところである。
デバイスとは魔法を発生するための補助器具である。
戦闘でいうと魔力は素手、デバイスは剣や銃、盾のようなものである。
基本的に魔法を使うためにはデバイスが必要になってくる。
ライは極度のデバイスオタクでデバイスの調整や改造、修繕、破壊などはお手の物である。ただデバイスはコンピュータの数倍複雑な構造をしている上に内部を調べるためには極小量の魔力を流してその流れを確認する作業が必要となるのだが、これが特注の機械で行わければできないのだ。
しかし僕の魔力を用いればその機械を代替することができる。そうしてデバイスの修理や調整、僕が使えるようなデバイスへの改造などを二人で行っていたのだ。
ちなみに僕の使用できる専用デバイスは3つ。
学校から支給された障壁デバイスとライに作ってもらった発光デバイス、あとはデバイスを破壊する用の破壊デバイス。このうち破壊デバイス以外はありふれたデバイスである。
まあ、学生が使用するようなデバイスの故障は基本的にデバイスを落としたりどこかにぶつけたりした際の物理的破損か、不適切な使用による急激な摩耗での破損がメインになってくる。
だが時々そういった分類から外れるようなトラブルが入ってくる。
今日はまさにその日であった。

ミナミと小競り合いをしたのちに、ライと他人のスマホを簡単に壊すことのできる僕専用デバイスを開発しているところに依頼主であるアリス・ツェルマットはやってきた。
部屋の一角に作った面会スペースに通す。
ちなみに基本的に僕は余計なことしか言わないので重要な面会はライに任せて、脇でメモを取ることに専念している。
メモに「アリス・ツェルマット、4年A組2番、巨乳」と書くと消しゴムが宙に浮いて巨乳だけ消された。
十中八九、後ろで目を光らせているミナミの仕業だろう。くそっ、貧乳の癖に。
「それで、ご用件は。」
「あの、このデバイスなのですけど、これの修理と調整をお願いしたいのです。」
そういってライに紙袋からデバイスを取り出し手渡した。
大きさはスマートフォン程度で通し番号などが書かれたシールやしるしがない。
表面の加工処理からみてもおそらく正規の商品ではない。つまり僕たちみたいな素人が作った組み立て式デバイスである。
簡単なデバイスなら部品を専門店で購入すればある程度の知識でどうにかできる。
ライみたいに部品から作るようなやつは例外である。
「これはどういった能力のデバイスですか?」
「能力系統は電磁気系統です。ですが実はそれ、彼氏の作ったデバイスで私も詳しいことがわからないんです。使い方は一定の魔力を供給するだけって教えてもらったのですが。」
「ならば、彼氏さんとお会いする、もしくはお話しすることってできますか」
こういった場合、デバイスの能力一覧と設計図があると非常に助かるのだが、残念なことに今までそれらをセットで持ち込まれたことは一度もない。
なので大概は作成者に情報を聞く、もしくは使用者の能力を調べれば事足りることが多い。
だが現実とはそううまくいかないもの。
「すみません。彼は先週から寮に引きこもってしまって、私にすら会ってくれないんです。」
あー、地雷踏んだな。かわいそうに。お陀仏お陀仏。
「そうですか。話しづらいことを話していただきありがとうございます。調査のために3日間ほどこのデバイスを預からせていただけますか。あとこの契約に関して、僕たちはプロではないので、、、」
そのあとは契約内容に関する所定の言葉が続いた。
学校の中ではあるが責任問題が発生するためこの部活は学校からはあまりよく思われていないそうだ。確かに購買部と違って活動の浸透度合いが低いため目をつけやすいのだろう。
アリスさんが退出してから少しばかり話し合いが行われ、僕とミナミは彼氏さんのもとへ一度行き情報の収集に、ライとその他はデバイスの解析とシミュレートを行うことになった。
僕たちの決行日は明日の土曜日となった。

彼氏さんの名前はヒロと言い学外の男女共同寮の個人部屋に住んでいる、いわゆる金持ちであった。
僕なんてライと共同部屋の男子寮だぞ。それはそれで楽しいが。
寮はセキュリティーがしっかりしてあるように見えたが、駐在員さんにアリスさん側からアポイントメントをとってあるので侵入することができた。
駐在員さんはヒロさんがいなくなっていること自体知らないらしい。
「セキュリティーシステムがしっかりしているとしても、こうやって昨日間接的かつ一方的に知り合った人間が入れるってどうよ。甘いんじゃないの。ミナミの家は大丈夫か。」
「私はこんなセキュリティーの強い家に住んでいないですけど、そもそも共同部屋で学校の敷地内ですからもっと安全ですよ。まあ、自分の身くらい自分で守りますけど。」
「デバイスが無ければ僕にだって負けるくせによく言うよ。」
「その時は先輩が守ってくださいね。女子寮ですけど。」
「その前に僕が捕まるよ。」
そんなことを駄弁りながらヒロさんの部屋の前まで来た。
チャイムを押す。返答はない。もう一度押すが反応がない。二人してため息をつく。
「どうします、というよりここまでは想定通りですね。第二プランに取り掛かりましょうか」
カバンから少し大きめのデバイスを取り出す。前日、情報を得るための作戦会議で出た案の一つである。
このデバイスは体内魔力を調べるためのデバイスの拡張版である。つまり僕たちが改造して作ったものである。わかりやすく言えばMRIのように魔力が見えるようになるのだ。
この学校の生徒は、異質な特別生でない限り少なくとも体から魔力を発している。
それを検知することで部屋の中でどの場所にいるかを調べれば、大まかなプランが組めるという案。ちなみにこの案は僕の案である。間違ってもミナミの案だと思わないようにしていただきたい。
まあ、トイレなどにいられては魔力の無駄にしかならないうえに、大量の魔力を消費するので回数制限があるものの、これからの方針はかなり絞られるだろう。
ミナミが両手をデバイスに当てると、デバイスから低い稼働音が聞こえ、デバイスが二つに分かれ始めた。
正直言って両手を使うようなデバイスを躊躇無く使える人物はミナミやその他のエリートたち位である。僕の出力では手のひらサイズよりも大きくなってしまえばびくともしないのだ。逆に僕の出力にチューニングすると周囲に漂っている魔力を誤検知して暴発する。
なんというか、自分で自分がかわいそうになる。
魔力検知の普通の機種では壁で隔てられた場所の検査はできない。だが透過性がある機種も実はあり強度の勾配を利用して位置情報まで特定できるそうだ。
これはライが言っていた言葉を一言一句並べ立てただけなので僕は意味を理解していないが使えればそれで充分である。
ミナミに二つに分かれたデバイスで両側から挟んでもらい計測を行うらしい。
こんな馬鹿デバイスを軽々と扱うミナミにおののきつつ、あまりにも無防備なその姿を眺め、もし本当に襲われたらと少しだけ心配になった。
計測開始から待つこと数分、
「先輩、誰もいません。」
ミナミは驚いたようにこちらに顔を向けた。
「ああ、やっぱりか。」
彼女は驚いていただろう、事実にも、僕が驚いていないことにも。
実は昨日の段階でおそらくヒロさんが部屋の中にいないのではないかという想像には達していた。その場合の対応ももう考えてある。
「ミナミ、内側からカギを開けてくれ。」
おそらく彼女もその結論に達していたのだろう、すぐさま扉に近寄ると中から鍵の開く音がした。
これが彼女の才能である。まず、デバイスの補助なしでものを動かせること自体普通ではない。それを視認無しでやってのけるのはさらに困難だ。それを朝飯前かの如くやってのけるのは正直言ってうらやましい。
扉を開けて中を見る。部屋の中は書類が散乱しており、机や椅子、家具などを覆いつくしていた。
「うわぁ、目も当てられないな。」そう言って写真を撮る。
「全く同感ですね。一人暮らしの怠慢の現れとも取れますけど。」
この部屋の有様は辛辣なコメントを浴びせるにふさわしいだろう。
しかし、実のところは僕たちの部屋もこのくらいの惨状なので批判はできない。
ライが悪いのだ。僕はペーパーレス化しろと言っているのに。
念のために手袋をはめて書類を手に取る。
書類といっても彼の所属しているサッカー部の書類しか散らばっていなかった。
書類棚の引き出しの中もぐちゃぐちゃと荒れており、いったいどのような分類がされているのかが見当もつかなかった。
冷蔵庫の中を覗いていたミナミが
「先輩、今日って何日でしたっけ?」と聞いてきた。
「今日?14日だよ。それがどうかしたの?」
「ここにある食材の消費期限を見ていたんです。ほらこの牛乳の消費期限は7日ですし、卵は8日です。変だと思いませんか。最近買ったとしては消費期限が遅すぎる。」
「確かに、牛乳も卵も食べられないわけではないけど、ちょっと気持ち悪いね。」
「食べられないですよ、って先輩たち、もしかして消費期限切れのものを食べてりしていませんよね。」
不審がって、僕をねめつけてくる。
本当のところを言えば家まで押しかけられそうなのでどうにか笑ってやり過ごした。
これだけ部屋を散らかすような大雑把な人なら消費期限切れの商品くらい食べそうなものだが。
ミナミはそれだけでは説明できないような違和感もあるんですよと付け加え、冷蔵庫の中をしげしげと見つめていた。
僕には至ってちゃんとした普通の冷蔵庫としか思えなかったし、違和感があるすればこの部屋の乱雑さのほうだった。
なんとなくだが生活感のない散らかり方に思えた。理由は一切わからない。
そのあとしばらく捜索を続けたがデバイスに関係するようなものは一切出てこなかった。
帰ってからも一人いろいろと考えてみたが、分かったこととしてはおそらく僕たちの部屋のほうが汚いということだけだった。

「うーん、確かに生活感というか人間味の無い散らかり方だな。」
「だろう。なにかおかしいんだよ」
その夜、ライに今日の調査のあらましを説明し、二人が持った違和感について話した。
ライによるとデバイスの調査のほうでは進展があったようで、簡潔に言うとあのデバイスを使うにはコンピュータに接続する必要があるということだそうだ。
あのデバイスはシステム的には非常に単純で、内部にある非接触型メモリーをデバイスを起動させることでコンピュータに接続し内容を確認することができるというものだった。
だけど部品は正規のものではなかったようで一日を要したらしい。
「だからあれに魔力を供給しても何の反応もなかったわけだよ。でも、そのメモリーが一番厄介でデータをコンピュータに送るためのプログラムにロックがかかってるんだよ。だから内部のデータは暗証番号がないとみることができない。コンピュータは専門外だし、こうなったらもう俺たちの出番はないな。」
「確かにデバイス側ではできることはないな。もう僕たちの出る幕はなさそうだね。明日か月曜に彼女にその旨を伝えてこの案件は解決でいいよね。」
「確認してみる。まあ、その方針でいいだろうな。」
ライが連絡を取ってくれている間、自宅の冷蔵庫を開けて写真と比べてみたがやはり違和感を感じることはなかった。
その後アリスさんから明日来ることができるとの連絡があった。
部全体に今日の出来事と今後の方針を周知し僕たちは本日の活動を終えた。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

この話は1-1です。このストーリーは1-3まであります。

筆力があれば3-3まで書くつもりです。

読んでいただけると幸いです。

続きは次週になるかな。

修正があればここに書きます。

誤字脱字があれば教えてください。

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