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創作小説「In the ”lost city”,」.2

芸能ニュースで明確な被害者と加害者がいるときには食いつくのに、被害者側のやましいことが分かったとたんにみんなが避けるようになるのは何でだと思う?
理由はおそらく善悪の区別がはっきりしなくなったからだ。
正義面して責め立てることができる相手を見失い途方に暮れる。
だから興味を失っていく。
でもこの話は大丈夫。
僕の目の前で頭を吹っ飛ばした奴が悪、僕がまぎれもない善。
オッケー。サルにでもわかるね。
勧善懲悪は今でも人気なんだよ。
だからスーパーヒーローは蔓延るし、復讐なんて低俗なものが題材になったりする。
それ以前にこの街では社会的な善悪なんてものはないんだけどね。
加害者が加害したことを理由に加害したとして、この街はそれを裁かない。
それがいいか悪いかはさておき、裁かないことを裁くことさえ自由なんだから。

ちなみに、これは前作の続きだから下に記事とあらすじを貼っとくね。

あらすじ
ここはいろいろとやっばい自由の街、ロストシティ。
バス停でバスを待っていたら、目の前で男性の頭が吹っ飛ばされた⁉
で、次の標的は僕?ふざけんじゃねえぇーー!

って感じ?
noteってこういうところ、ほんと便利だよね。
欲を言うなら、文字の上に点を打てるようなフォントがあると嬉しいかな。
あと、そういうのを調べてる最中に知ったんだけど、noteでも個人的な問い合わせってできるんだね。
ほら、アカウントのページの一番下にあるでしょ
「ちょっと、あんた誰と話してんの?」
おっと、登場人物の紹介まで待ちきれなかった人がいるみたいだ。
「前作をきちんと読んでから、これを読み始めてくれる人たちだよ。」
ただいま飛んできましたヤジの主はイブ、僕の同居人かつアバズレ。
「おいこら、誰がアバズレだって?」
うーん、何を間違えたのだろうか。さっぱりわからない。
僕はヴェント、普通の大学生です。
おっと、ここらで登場人物紹介も終わろう。
今のところ誰もついてこれてないでしょ、知らんけど。

あれから、到着するまでにイブから連絡があった。もちろん能力を使って。
「もしもし、調査は済んだわよ。情報交換ついでに会って話したいから、そっちに向かうね。」
それっきり連絡がない。
というより、返信できないレベルの能力発動というべきか。
便利なことにイブと僕の能力は一部共有されている。できることは通信だけだが。
それにしてもイブはこっちの場所をわかってんのか?
むくりと起き上がり、あたりを見回す。
1分、2分、3分、4分、5分。
来るならもうそろそろだろうと思っていた矢先、
「ヴェント、あんたどこにいんの?こっちはもう着いたんだけど。」
と返信可能な声が聞こえた。やっぱりわかってなかったのか。
「着いたって、どこにだよ。いま、移動中だよ。」
ため息交じりにそう告げる。
「え、移動中?うそでしょ、だってさっきから動いてないじゃない。」
「いや、思いっきり動いてるよ。時速80キロくらいで。」
流れゆく景色を見ながらそう告げる。何を根拠に言ってるんだ。
「うそ!大学にいるんじゃないの?それともこっちがバグってるの?」
ん?ちょっと待て。どうやって僕が大学にいたことを知ったんだ?
「おい、バグってるってなんだ。まさか僕になんかつけてたのか?」
「ええ、寝てる間も背中にチップを埋め込んでおいたんだけど。」
「ええ、じゃないよ。このストーカー。」
怖いよ。おちおち寝ていられないじゃないか。
きっとデッドボールならぬデッドボディーの際に壊れたんだろう。いや、打った球が当たった時はデッドボールとは言わないのか。
「ストーカーじゃなくて見守りね!子供の携帯の位置情報を見てるのと同じよ。それで、今どこにいるの?」
苦しい言い訳を聞き流して、
「フォレスト。安全指数12のところ。」と答える。
「12⁉それってもしかして…………まさか警察のお縄になってんの?」
警察?なんでそこで警察が出てくる。しかも交戦中じゃなくてお縄の状態で。
「僕がそんなドジをすると思うか?」
「でも、いまフォレストで12のところって例の護送車が通ってるところくらいでしょ。」
「うん、だからその護送車の上にいるんだって。」
「・・・・・・・・・・・・・・はあああああああああああああ!?」
うるさいな、耳からフキダシが出るぞ。それに何をそんなに驚くんだよ。最適解でしょ。
「わかった。わかったから、じっとしてて。あとちゃんと警戒しとくのよ。」
そういってイブからの通信は途絶えた。
ほう。背中のチップの件や最適解に関する認識の相違など、言いたいことはあるが、それは一度わきに置いておこう。
それよりも最後の一言が気にかかる。
警戒ってなんだ?地べたに耳を当てるがまだクイーンが起きた様子はない。
すごく嫌な予感がする。こういう直感はよく当たるのだと筆者の同居人はいうが、偶然と情報の重要性からくる誤認だろう。
ああ、筆者ってのは僕じゃなくてこのzkとかいう奴ね。
この護送車がいるところが危険ってイブは言っていたっけ。
あたりを見回すも、眉間のしわのような曇り空の下、依然不自然なところは何もない。
イブはどうするつもりなんだろう。
残念ながら能力を使える条件を満たしていないから僕は無力だ。
イブと共有している能力では通信しかできない。
警戒ねえ。そんなものをしたところで自意識過剰な気もするが。
そう思いながら見上げた空には2基のミサイルが飛んでいた。
その奥にはエアロバイクが飛んでいる。
どちらもこちら側を向いている。
ははは、やっぱり自意識過剰かな。こっちに飛んできてる気がするんだけど。
あ、警察の皆さんも気づき始めたみたい。
やっぱり警察って頓馬だね。って、うわあっ!!!
護送車が急加速し、振り落とされそうになる。
ちょっと、上に乗ってる人のことも考えて運転しろって。たしか教習所で習ったでしょ。
かもしれない運転だよとほざく僕を無視して護送車は十字路をドリフトする。僕は姿勢を崩し倒れた。
はい、法定速度超過に信号無視、危険運転致死傷罪で一発免停ね。
護送車が曲がった直後、ミサイルが交差点のど真ん中に着弾した。熱風で一瞬オールバックになる。
着弾地点の地面は亀裂が走り、所々隆起している。
あんな交通量の多い道路が通行止めになると大学の教授が時間通りに来てくれなくなるんだよ!そのくせに余談が減らないから、結局自習しなきゃいけなくなるんだ!と場違いな怒りを込めて後ろを睨みつける。
すると、そこには先程のミサイルの代わりに、唸るような機械音を発するエアロバイクに乗った、妙なステッキを持ったお兄さんがいた。
はろー、あいどんとにぃじゅー、あん、あいわなせいぐっばい。
今度は、自意識過剰、なわけがない。
子供のころ月とか星が自分についてきてるような気がするのとはわけが違うでしょ。
明らかにこの車を追いかけてきてるよね。
黒のルークがあしらわれたサングラスしてるし。
チェックとか言ってるし。
手をふったらふりかえしてくれたし。ってノリいいな。
多分彼は僕の手を待っているのだと思い、次の手を考えていると隣の警察車両から声が聞こえてきた。
「おい、誰だ貴様ら!そこで何をしている!」
あ、バレた。それに僕も不審者扱いなんですね。
「答える義務はない。我々の高尚な決闘の邪魔をしないでくれ。」
お兄さんは言い放つ。
そんなに大事な決闘なら、僕を巻き込まずにやってくれ。
「自分の立場が分かっているのか。間もなく増援がやってくる。追いかけるのをやめて逃げるなら今のうちだ。」
逃げてるやつが言えたセリフじゃねえだろ。
「貴様らなどに興味はない。さあ、次の手を打つんだ。」
とお兄さんは言い放った。
もうしばらく待ってくれと言い、時間を稼ぐ。
こうなったらイブが来るのを待つほかない。
この人たち意外とルールを守ってくれるし。
「分かった。ただあと2分しか残っていないぞ。」
え、2分って何?
というか、さっきイブに少しでもいいから情報を聞いておくべきだった。
勘が当たっていれば、この均衡状態のタイムリミットのことだろう。
しばらく周りの様子を見ていたが来るのは警察で、希望のカケラもなかった。
仕方なくルークを観察していた。ああ、そうだ。もうこの人のあだ名はルークね。黒のルークを持ってるから・・・・って黒?僕も黒なんだけど。
困惑していると、車が急に道路脇にあるスーパーの駐車場へと向きをかえた。
そこには多くの警察車両があり、その目の前へ滑り込む。
急ブレーキで振り落とされないようしがみついた。
はい、君たちは真面目なんだから仮免からやり直しね。ほどんどの人が無免許運転のこの街で言うのもなんだけど。
止まった護送車を、待ち構えていた警官たちが取り囲む。
ルークは言葉通り、警察には目もくれず僕の目の前に立ちすくんだ。
怖い。いや、普通は仲間に武器を向けたり、睨んだりしないよね。
やっぱりイブさん、あなただけが頼りです。そう神頼み、否、イブ頼みをして気づく。
ヤバい。警察のせいでイブが来れない。
イブは色々あって警察に追われているのだ。
ほんっと君たちのやること為すこと全部に腹が立つ。
警察なんてこの街じゃ詐欺師よりもあてにならないね。
そんなことを思っていると、警察側から警告が聞こえてきた。
「おとなしくしろ。この車は我々が完全に包囲した。」
なにその紋切り型のセリフ。どちらかというとハイジャック犯のいうセリフだよ。
すると、大勢の警察官の中から誰かの声が聞こえてきた。
「なんだ、今のハイジャック犯みたいな警告はって思ったか。小僧。」
ドクン。驚きで心拍が乱れる。心を読まれた?
でもルークの声じゃない。
「知り合いの声ぐらい覚えやがれ、青二才。」
声が聞こえた。
実際は話し声程度だが、拡声器よりも大きく、低く、威圧的で、渋さがあり、何より一ミリも恐怖が含まれていない。
僕はこの声を知っている。声どころか名前まで知っている。
「心を読むんじゃねえよ、かわもっつぁん!」
警察組織をここまでボロカス言ってきた僕だけど、この人だけはあてにできると思う。
いや、この人のせいで警察が嫌いになったわけだし、そういう意味では一番あてにしてはいけない人かもしれない。
川本保博、通称かわもっつぁん。
白髪交じりの短髪と無精ひげ、くたびれたトレンチコートに加齢臭。
階級は巡査部長とそこまで偉くないにもかかわらずなぜか幅を利かせている。
いや、実際のところは警部のような動きをしているのだが、一匹狼がゆえに昇格できていないだけ。かわもっつぁんに階級なんて肩書はただのお飾りに過ぎないのだろうが。
「あぁ?ナメてんのか小僧。いいか、読まれるような心が悪りぃんだ。読んだ奴に非はねぇよ。」
はい、皆いまの発言聞いてた?
今の一言に彼の人となりが詰まっているといっても過言じゃない。
理不尽、上から目線、非常識、柄が悪い。ため息が出るね。
「薄情、シニカル、無感情、自己中なガキのいうことを誰が信じるんだ。」
心の中の独り言に割り込んできた。
ほんと、何で人の考えてることがわかるのか。ここまでくると怖いよ。
「だから、人の心を勝手に読むなっての!こっちはあんたらに関わってる暇ないんだから、とっととどっか行けって。」
うざったいように僕は言う。
ただこれはフリだ。SOSである。善良な市民の助けだ。
かわもっつぁんに助けてもらおう。イブとはあとから合流すればいい。
ちなみに、かわもっつぁんともイブを通して知り合った。
ほんと、手のかかる子だよ、あの子は。
僕の内心を察したのか、かわもっつぁんはコートの襟を触る。
多分伝わったはずだ。確証はないけど。
そしてかわもっつぁんは、黙って僕達の会話を見ていたルークに話しかけた。
「おい、あんた。あんたの疑問に答えてやるよ。」
「ふん、貴様にする質問なんてない。失せろ、巻き込まれて死にたくないのなら。」
「まあそう、かっかするんじゃねえよ、若造が死にはやるな。」
コートの袖をまくりながらなだめる。
しかし、その声はルークには響かない。
「おい、あと10秒だぞ。」
そう僕に告げるルークを、積極的に無視する。
「俺の行動は後攻だ。」
不意にかわもっつぁんがそう言った。何を言っているのかはやはり僕はわからない。
しかし、その言葉はルークに目を大きく開き、息を飲み込ませた。
エンジン音が微かにうなり、エンジン独特の熱気を感じる。
そしてエアロバイクが急に宙に浮くと、僕を轢き殺さんと加速した。
かわもっつぁんに向かって飛び降り、間一髪のところで助かったものの、ルークの追撃は終わらなかった。
現代風のステッキを振り上げると、何か呪文のような言葉を唱えながら空中にとどまる。
なんで杖をお約束みたいに振り上げるのか。
ハリー・ポッターの見過ぎだよ。
「かわもっつぁん、助かった!あと今のどういうこと?」
「お嬢様から聞いてないのか?」
お嬢様?イブのことか?
意味不明。二人とも気品の欠片もないのに。
「あ?小僧、今、なんて思った?見捨てるぞ。」
うるせぇ、サイコメトラー!もう心の中でしか返事してやらねえぞ。
「おい、来るぞ!気張れよ、ヴェント!」
にわかにルークの杖の輝きが明るくなる。
するとエアロバイクの真横に50センチ大の火球が1つ現れた。
「チェックメイトだ!」
ルークは杖を振り下ろすと同時に、杖から光が消え、火球が襲いかかってきた。
すぐさまかわもっつぁんが護送車のバンパーを蹴って動かし、僕と火球の間を遮る。
ゴドォォォ。
火球は思惑通り護送車とぶつかり爆散し、頑丈な護送車を吹き飛ばす。
護送車が動いていたおかげで、僕はなんとか飛んできた護送車に巻き込まれる事はなかったものの、後ろで悲鳴が聞こえる。
地面が焦げる匂いが熱波に乗って届く。
再掲、あんたらどこの世界線の人?
ジャパニーズアニメもここまで派手にはしないよ。
いや、蹴りで護送車を動かすかわもっつぁんも異常だけど、それでも比べものにならない。
再度、振り上げられた杖が輝き、火球ができる。
ちょうどその時、杖から光が消え、ルークがエアロバイクごと地面に叩きつけられた。
その後ろに立っていたかわもっつぁんがすぐさまルークを確保する。
状況に半歩遅れてついていく。
複数の警官がルークを取り押さえ、即座に拘束する。
ルークは意識が朦朧としている中でも僕を睨み続けていた。
その執着に底知れぬ恐怖を感じていると不意にかわもっつぁん顔を上げた。
心なしか焦った顔だ。
そしてかわもっつぁんは叫んだ。
「小僧、逃げろ!」
その言葉で振り向くと、視界は迫りくる火球で埋め尽くされていた。
眩しい光に目を細める。しかし、右目が光で焼き切れ見えなくなってしまう。
視界を奪われた時の恐怖は言い表しがたいが、確かである。
思考力を奪われた僕は、火球をとっさに右手で振り払おうとする。
すると右ひじから先が火球と触れて消し飛んだ。
猛烈な痛みに襲われ、思わず顔をしかめる。
傷口は血が出ないほどのやけどでふさがっていた。
後ろに逃げようにも恐怖に足がいうことをきかない。
きっと普通の人生を歩めていれば結果は変わっていたのだろうが、この時僕は死を覚悟しなかった。
どうせこの火球でも僕は死なないのだろうと。
そして実際に僕は死ななかった。
しかしすべてが予想通りではなかった。
なぜなら死ぬどころか怪我さえしなかったのだから。
結果、火球は僕に当たらなかった。
闖入者の薙ぎ払いによってかき消されたのだ。
見上げた体躯はまるで鬼のようであった。
両手剣を片手で持ち、血振るいすると、たしかに風圧を感じた。
そしてその人物は何も言わず僕を抱き絞めると、近くのビルの上に飛び移りどこかへと向かい始めた。
かわもっつぁんは追いかけてこなかった。
腕から抜け出せるわけもなくただ連れられるがまま。
その人の顔をみるとそこには空があった。

ここでルークの二度目の攻撃からのリプレイ映像を見よう。
実況解説は未来の僕が担当するぜ☆⌒(*^-゜)v
ルークがステッキを振り上げたところから始めようか。
このステッキは火球を生み出すためのものだ。
しかし、この武器には弱点がある。そう、光ることだ。
光量はとても直視できたものじゃなかった。マグネシウムの燃焼反応を想像してくれ。
だから、ルークはステッキを振り上げたのだ。自分の視野に入れないために。
しかし、その行動は逆に隙を生むことになる。
そこにかわもっつぁんは目を付けた。
完全に死角となっている背後から回り込み、振り上げている間にステッキを壊した。
空中にいるエアロバイクにどうやって近づいたのかを聞くと、歩き方の問題だといわれた。瞬歩の派生版だとかなんとか。
いや、絶対に違うからね。歩き方の工夫だけでは空は飛べないよ。
舌の根も乾かぬうちだけど、この人はルークよりおかしい。
しかも後ろ廻し蹴りで壊したあとに、かかと落としを脳天にみまったという。
空中でそんな動きができるほど物理法則って上手くできてたっけ?
そしてかかと落としをくらったルークはエアロバイクごと地面に叩きつけられた。
エアロバイクは一発でお釈迦になった。
ああ、結構お値段張るのに。もったいない。僕が通学で使いたかった(´;ω;`)
そしてかわもっつぁんはルークを拘束した。
だがいつまでたっても火球が消えていないことに気付いたかわもっつぁんはルークの様子を見ていたらしい。
すると、拘束を解こうとするわけでもないのにずっと動いていたらしい。
そして、まだなにかあると踏んだ時には火球が僕に迫っていた。
とっさの判断で叫ぶ。
「小僧、死ぬぞ!」
あれ?僕には逃げろって聞こえたんだけど。
本人が言っているので間違いはないと思われる。
たしかにこっちのほうがこの人っぽい。
光で右目がおじゃんになり、右腕も消し飛んだ。
まぶしさで視界は最悪。服なんて、もう焼け焦げてすすがついている。
そして僕は動くこともできず、絶体絶命。
あわや一大事。他の街だったら多分僕は死んでたね。
でもここはロストシティ。
そこに横入りで首無し騎士ことデュラハンが飛び込んで、大剣で火球をぽしゅっと消した。
まるで蝋燭の火を消すみたいに。
いくら拘束中の攻撃だったとはいえこれも人外。
これで四人目。
彼はイブに言われて飛んできたらしい。脅されての間違いだろう。
そしてイブの元へ僕を連れて行ったのだ。
今の話を聞いてみんなはカッコイイと思った?
でもね、想像してみて。
そのかっこいい人の顔を見ようとしたら、首から上がないの。
どちらかと言うと都市伝説か恐怖体験だよ。

デュラハンが入った部屋の中ではイブが不機嫌そうにふんぞり返っていた。
「あんたって奴は、ほんと迷惑ばっかかけて!なに護送車の上に乗ってんのよ。その行動、ほんとに常軌を逸してる。」
なにやら不満があるらしい。かわいそうに。本当におかしいのがどちらかの判断ができなくなったらしい。
「何その目なんか文句あるの?」
言い返す代わりに、最大限の憐れみを込めたまなざしを向けると、関節を鳴らしながら首を傾げて笑った。鬼だ。
デュラハンの影にさっと隠れる。
「ふははは、君たちは本当に仲がいいね。」
電話越しにデュラハンが言う。その声は無い首に置かれた電話から出ているので気味が悪い。
「こんな、腐れ童貞と仲がいいわけないでしょ。それとも、他に切ってほしいところでもあるの?」
ツー、ツー、ツー。
胴体が電話を切る。心なしか手が震えてるよ、騎士さん(笑)
もちろん文句を言いながら、イブは手当てをしてくれた。
ペットボトルの中の液体を傷口と顔面にかけるという、おおよそ常人には逆効果になりそうな処置法だが。
それでもきちんと回復してしまうのがこの体で、やはり僕も常人ではないのだと悲観してしまう。
視界が戻り、天井が映る。ブレスレットはまだついていた。トラブルの元凶、まるで呪物だ。
デュラハンが横からブレスレットをのぞき込んでいた。目もないのにどうやって見ているんだろうと思ったが、どうやらスマホでビデオ通話をしているらしい。
「黒のキングってことは後攻か。」
デュラハンがそうつぶやいた。
後攻・・・なるほど、だからルークはあの言葉に反応したのか。
起き上がり尋ねる。
「なあ、デュラハンってチェスできるのか。」
「いや、ルールを知っているだけだ。それに、今しがた確認したばかりだから知っているだけで、詳しいわけでもない。」
デュラハンがくれた缶コーヒーのタブをあけながら気になっていたことを訊いてみた。
「ならさ、黒のルークが白側の駒になることってあるのか。」
「・・・・たしか、プロモーションの際に相手のルークを逆さにすることがあるはずだ。」
プロモーション、いわゆる将棋でいう「成る」ってやつか。
どうやら戦況は非常に厳しいようだ。
イブが持ってきた服に着替えると、情報共有が始まった。
要約すると、以下のようになる。

・今回のトラブルは通称「リアル人間チェス」という。
・基本的なルールはチェスと同じ。
・それぞれのターンに行える行動は、移動、攻撃、それと同時に交代。
・チェスの駒は一日2回交換することができ、その駒を持った状態で移動や攻撃などの承認と認められる行動をとると参加になる。(僕はポケットに入れたことを承認と受け取られたらしい。)
・複数の駒が同時に行動してはならない。
・敵の攻撃によって戦闘不能となった時点でその人物は駒から外される。
・それぞれの持ち時間は1日ずつ。こちらの持ち時間は残り1分。あいては3時間。
・残りの駒は、黒はキングだけ。白は倒した二人以外全員。
・駒の種類によって使用可能な装備や武器が限られてくる。
(協力者を設けることができるのはキングのみ。ただし、協力者は一人であり、協力者の行動はキングのターンを1度消費する。)

以上、ルールに関して何かわからないことがあればコメントにて。

「なるほど、って既に詰んでるじゃん!」
思わずノリツッコミしてしまった。
何、この地獄みたいな状況。負け確定だろ。
「そう。これ以上無い位に悲惨でしょ。」
「『そう』じゃねーよ!なにしれっと認めてるんだよ。」
またまたツッコんでしまった。いやぁ、お恥ずかしい。
そんな冗談はさておき、本当に策を練らなくては。

一番頼りになりそうなデュラハンは、残念ながらこのあと試合続きらしく助太刀できないとのこと。
かわもっつぁんは協力してくれそうだけど、先の件の事後処理に追われているだろう。
そんなわけで唯一残った泥舟を見つめる。
泥舟だ、いつ沈んでもおかしくはない。
船としては一級品だろうが、扱いづらさが半端ではない。
見つめられたイブは僕を見つめ返してくる。
そのまま10分が経った。
また10分、10分、、、、
………ん?長くない?
そう思ってもまだ見つめてくる。
なにか、僕の臆病が発露するような目だった。
ちなみに僕は、耐えきれず何度も目をそらしてしまっているのだが、向こうは一向にやめてくれない。
僕の臆病はそれを止めることも肯定することも怖がった。
デュラハンがコロシアムに行くと言って出て行ってからもそれは続いた。
この頃のイブの行動は、寧ろ、観察といったほうが正しいのではないだろうか。
見る位置を変え、近くで見たり、触ったりしてくる。
そして、3時間ほどが経過したとき。
不意に、イブが口を開いた。
「あのさ、   、策があるんだけど聞きたい?」
なんだろう、嫌な間だった。
だから僕はその質問に答えられなかった。
ただ、表情は僕の気持ちを代弁してくれた。
聞きたくない、という心の叫びを。
きっとそれはイブに届いていただろう。
でも、イブの心には届かなかった。
そして、
キスをされた。
もちろん口に。
反射で後ずさる。
なんだ、
嫌な予感がする。
視神経にこびりついた映像が痛みを持って発火する。
俗に言うトラウマだ。
イブはただただ笑っていた。不安がる子供を安心させるように。
そして左手で僕の手首をつかむと、「承認」とつぶやいた。
ブレスレットはガチャリと外れ、イブの耳にイヤリングとしてつく。
「な」
うまく言葉が出ない。反射的に取り返そうとした思考は一日二回という制限に行きつき、詰まった。
満足気にイブは微笑む。
「大丈夫、余計な犠牲は生まない。」
なるべく人は殺さない。それが僕の信条だ。それを知っているからこその発言だろう。
「僕はどうすればいい。」
どうしようもないと断念し、イブから作戦を訊いた。
作戦で僕がするべきことは非常に簡単だった。でも、
「余計な犠牲は生まない?本当にか?僕には大きな犠牲が一つ伴うように感じるんだけど。」
一つだけ引っかかったことを訊く。
「私の感覚だけど、それは犠牲じゃないよ。それにヴェントが直接人を殺すことはない。全部私がやるから。」
うそだ。犠牲は出る。イブ自身だ。もしかしたら死ぬかもしれないと自覚しているはずだ。
いや、死ぬかもしれないと自覚したからこそ、奇怪な行動に走ったのだろう。
僕を見て、なんになるのかは知らないが。
イブは「ここに行って。」とつぶやき、鍵とメモを渡してきた。

エファイユマンション
最上階
アラン=バッカス

「ここで言われたことをすればいいのか。それで、この人は誰だ?」
と、何気なく聞くとイブはこう答えた。
「アラン、リアル人間チェスの白のキングで、私の元カレよ。」






はーい、どうも。zkです。

久しぶりの長編小説です。

初の一万字越え!!

どんどん長くなっている気がします(;^_^A

この作品は徹頭徹尾自己満足で書かれた作品ですので、
あまり読み手のことを考えていません。

なので、文句は受け付けません。

たぶん、この話自体は次で終わりますが、
lostcityでの話はそのあとも続くかも・・・

次は頑張ってデバイスを描き切りたい!!!


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