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自分にとっての「いいもの」

風水では、玄関は「気」の出入口だから、
極力物は置かず、靴は出しっぱなしにせず、
すっきりとさせて風通しをよくしておくといい。
そして、足裏に付いた悪い気を払うため、
玄関には玄関マットを敷くといい。
10年ほど前、風水にハマった私はその通りにした。
靴はその都度靴箱にしまい、三和土は毎日水拭きした。
そして、私にしては高価すぎるくらいの玄関マットを
清水の舞台から飛び降りるつもりで、思い切って手に入れた。
中国の高級な段通で、職人さんが手織りで作っているため、
注文してから手元に届くまで数ヶ月を要した。
白地に藍色で龍の紋様が描かれていて、
それはもう、見るからに運気がぐんぐん上がりそうなマット。
間違いなく、これは一生物だ!と確信した。
それを敷いてからというもの、確かに気分は爽快で、
人生においての様々なことがうまく回り始めたのを実感した。
高価な買い物だったけど、買ってよかった。

と、その時は心からそう思っていた。
あれから10年。
玄関マットが、なんだか薄汚れてきた……。
白がベースなものだから余計に汚れが目立つ。
出かける時も、外から帰ってきた時も、
マットが目に入るたびに、汚れが気になるようになってきた。
購入する際に受けた説明は、
「手織りのためクリーニングはせず、
 日々掃除機でゴミを吸い取り、
 1ヶ月に1度程度、硬く絞った布で優しく撫でるように拭いてください。」
ということだったので、結構真面目に守ってきた。
だけど、汚れている。
友達に打ち明けると、全然汚れは目立たないよと言われた。
私が気にしすぎているだけなのかもしれない。
自宅で洗濯ができないというのは、なんとも厄介だ。
洗える素材のものだったらこまめに洗うかと言われたら
そうとは限らないだろうが。
でも、自宅で洗ってはいけません、という制限があるだけで、
心は重くなる。
もう最近なんて、これ以上マットを汚したくないものだから、
なるべく踏まないように、跨いで通る始末……。
!?
これって、本当に運気上がってる?
ある日、私は気づいてしまった。
このマットの存在が、私の心を重くしてしまっていることに。
でも、ずっと悩んでいた。
結構高かったし。
一生物だと思ったし。
風水では玄関マットは必須らしいし。

昨日、思い切ってマットを玄関から取り去ってみた。
なんだか気分が軽くなった。
汚れを見なくていいということがこんなに爽快だったとは。

いくら良質なものでも、いくら高価なものでも
自分の手に負えなければ、いいものとは言えないのかもしれない。
自分の身の丈にあった、気楽に扱えて使い方のルールに制限されない、
そういうものが私にとっての、「いいもの」だ。

マットは今までのお礼を込めてクリーニングに出し、
このマットを必要としている誰かに気持ちよく譲って
使ってもらおうと思っている。


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