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あの頃の痕跡〜郷里の町で〜

久しぶりに帰省して郷里の町をあちこち歩いてみると、かつて好きだった人の家があった場所には、見慣れない景色が広がっていた。
その人の家が昔のままそこにあったところで、どうするわけでもないのだが。

東京だけでなく日本中が変わってしまった。
私が子供だった数十年前、町のそこかしこには戊辰戦争の痕跡がまだ残っていた。今もそれがあるのかわからない。
戊辰戦争が何かを知っている人も減っているだろうし、150年以上も前の出来事だ。

好きだった人の家の前には小さな川が流れていて、その川は残っていた。
川の中では昔から見慣れた水草が以前と同じように、まるでこの数十年間なにも変わらなかったかのように、同じ姿で流れにそよいでいた。
それは私にとってあの頃の痕跡そのものだ。

もちろん同じように見える水草はあの頃とはまったく別なものだし、いつか川の流れも絶えてしまうのだろう。
そして私の思いの痕跡もいずれ消える。

あの人に会うことはもうないかもしれない。

すべてのものが流れていく。
その形を保ったまま、あるいは形を変えながら。

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