【アイマスSS】祭りの終わり

 本当は途中から、アイドルなんて、どうでもよくなっちゃったんです。

 私がデビューして半年ぐらい経ったときのこと、覚えていますか?
 観客が誰一人として集まらなかった、あの野外ステージです。 
 降り始めの雨に濡れるのもいとわず、貴方は私の手を握ってくださいましたね。

「約束する。もう二度と、君にこんな思いはさせない。
僕の人生をかけてでも、君をトップアイドルにしてみせる」

 貴方の濡れた頬が、雨のせいでは無いと気づいたとき、私は嬉しかった。嬉しかったんです。

 “この人の力になりたい”と、その時、思ったんです。

 だから私は、耐えることができたんです。
 辛いレッスンも、なかなか出ない結果も、時折浴びる冷笑たちも。
 下賤なゴシップ記事のせいで好奇の視線に晒された時ですら、貴方を思えば耐えられた。

 貴方の隣で、貴方の夢がだんだんと実っていくのを見守れるのが、楽しくて。
 こんな私が、貴方のお役に立てているということが、ただただ、嬉しかったんです。

 慌ただしくも楽しい日々は、今思うとお祭りのようでした。
 貴方と共に四苦八苦しながら準備をしてきたこのお祭りを、今、二人で歩き回って確かめ合っている。そんな気がするんです。

 祭りももうクライマックス。今、花火が上がっています。

 広い広いドーム会場。たくさんの、本当にたくさんのファンが、来てくださいましたね。
 熱い歓声とサイリウムの洪水が、止むこともなくドームを埋め尽くしています。
 もはや疑いようのない、トップアイドルです。
 私はきっと、これ以上ないくらい幸せ者なのでしょう。
 
 ――下腹部に貴方の痛みを感じながら、夢にまで見たこのステージに上がれるのですから。

 私は平気な顔をして、踊ります。
 貴方を含んだこの唇から、二人で苦心のすえヒットさせたあの歌を紡ぎます。
 何も知らないのでしょう、ファンの皆さんの熱量はさらに上がり、とどまる気配すらありません。

 見えますか、プロデューサーさん。
 見てください、プロデューサーさん。
 目に焼き付けて、二度と忘れないようにしてくださいね。

 私たちのお祭りが、もうすぐ終わろうとしていますよ。

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