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読書記録

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記事一覧

読書|酒井順子「清少納言の随筆気質」(「kotoba」2024年春号より)

雑誌「kotoba」に掲載の酒井順子さんのエッセイ「清少納言の随筆気質」が面白かった。 井上ひさしさんの「すべてのエッセイは自慢である」という名言を引き合いに、清少納言は自慢したがりのなんでもすぐSNSにアップしちゃうタイプ、紫式部は自慢したい気持ちを隠そうとしながら実はめっちゃマウントとってくるタイプで‥という「うわー、なんか分かるわー、身近にいるわー」という共感から古典の世界に誘ってくれるエッセイ。 「上田と女が吠える夜」のプロデューサーが、番組コンセプトとして枕草子

読書|すがちゃん最高No.1「中1、一人暮らし、意外とバレない」

単行本:256ページ 読了までにかかった時間:70分 1人また1人と家族が家を出ていき、突如一人暮らしをする羽目になった中学生12才。しかし、そこで彼の脳内を巡るのは、悲壮感ではなく、この境遇を「ちょっとカッコいい」かもと思ってしまうポジティブさ。 これはもう、親父さんからの遺伝で間違いない。自分勝手で気まぐれで、でもカッコ良くてモテる親父さん。エピソードはどれもはちゃめちゃで、だいぶ面倒くさそうなキャラクター。 そんな破天荒な父親の元に生まれ育った物静かな直人少年が、

読書|益田ミリ「今日の人生3 いつもの場所で」

単行本:240ページ 読了までにかかった時間:25分 イラストレーター益田ミリさんによる大人気コミックエッセイの第3弾。ささやかな日常の一コマを優しいタッチのイラストで綴る、ほっと一息つきたい時におすすめのシリーズ。 力の抜けたイラストもさることながら、そっと背中を押してくれるような言葉も散りばめられていて、本棚にお守りとして置いておきたくなる。装丁もかわいい。GWの人混みに疲れた方にもおすすめ。 益田ミリ「今日の人生3 いつもの場所で」 ミシマ社 2024年4月11日

新聞|湊かなえ「C線上のアリア」第22回掲載分より

片付いた部屋を見た時のゴミ屋敷の住民の言葉。美佐がユーチューブで見かけた清掃会社の動画の一コマである。 「頭の中のゴミが片付く」。ゴミ屋敷に至るまでに、きっとたくさんの何かがあったのだろう。どうにもならなくなってしまい、心の中どこかで気持ちを切り替えるきっかけをずっと待っていた。そこへようやく訪れた転期。人生を変えられるかもしれないと思うのも理解できるような気がする。ゴミ屋敷に暮らす弥生さんにも何か事情があったはず。認知症となった今、その転機を自ら待つこともなくなってしまっ

読書|鈴木おさむ「最後のテレビ論」

単行本:256ページ 読了までにかかった時間:100分 それくらい、今テレビ業界が苦しんでいるということなんだろう。 長きに渡り業界のど真ん中に居続けた人気放送作家による、テレビの舞台裏を綴るエッセイ。連載をまとめたものだそう。「32年間放送作家をやってきた僕からテレビへの遺言」と銘打っているけれども、作家業への未練がないことはないのではと思った。それでもこうした本を出さないといけないくらいに、あの一件以来、テレビを作っていこうと思えるほどの「常に勝負する緊張感」はなくな

新聞|湊かなえ「C線上のアリア」第15回掲載分より

朝刊小説をちゃんと読むのは数年ぶりなんだけれども、ほんの小さなスペースにこんなにも核心をついた言葉を込めてくるから、1日の始まりが湊さんの言葉で頭いっぱいになってしまう。 役場から呼ばれ、弥生さんの住むゴミ屋敷を訪れた美佐。かつて一緒に暮らしていた認知症の女性を前に、美佐の心の声はいかにも現代を生きる女性らしく冷静で現実的だ。この女性が、一体どんなミステリーに巻き込まれていくのだろうか。過去と今とを行き来する弥生さんと美佐の交わす言葉が静かで穏やかで優しくて、物語の進んでい

読書|柚木麻子「あいにくあんたのためじゃない」

単行本:256ページ 読了までにかかった時間:165分(全6話) 全6話からなる短編集。「めんや 評論家おことわり」は、過去のブログが炎上した人気ラーメン評論家を襲ういかにも現代的な復讐劇。スカッとジャパン的な要素が強く、単発ドラマにしたら面白そう!と思ったら、なんと単行本発売前に漫画化されていました(最下部にリンク有)。被害者側から見た復讐成功の爽快感はもちろん、同時に加害者側の愚かさと悲しさも描いている作品。加害者を追い詰めるだけではないところに「寛容」が感じられて、ま

読書|早見和真「95 キュウゴー」

文庫本:368ページ 読了までにかかった時間:210分 ドラマ化が発表されて以降もなかなか入荷されず気になっていた「95」。ようやく手に入ったけれども、思ったほど1995年当時の混乱や絶望が描写されていなくて、青春エンタメに振り切った作品という印象。活字よりも映像の方がしっくりきそう。作者は北野武映画に憧れがあったりするんだろうか。平成の青春バイオレンスが令和の若者たちの目にどう映るのかはちょっと興味が湧く。固有名詞がたくさん出てくるので、アラフォーアラフィフが95年当時の

新聞|湊かなえ「C線上のアリア」

自分の未来だけを考えて生きていける時間は案外短いのかもしれない。良い悪いは別として。 湊かなえさんの新連載「C線上のアリア」。中3の夏に両親を亡くした女性が、かつて預けられていた叔母の家「みどり屋敷」を久々に訪れるところから物語はスタート。 ゴミ屋敷を片付けるネット動画が執筆を後押ししたそう。介護をテーマにしたミステリーということで、すでに不穏な空気が漂う初回。何かが起こるのは間違いない。ドキドキです。本日朝日新聞にて連載開始。

読書|津野青嵐『「ファット」な身体』(「文學界」2024年4月号より)

看護師としての勤務経験もありながら、アーティスト・ファッションデザイナーでもあり研究者でもある津野青嵐さんの新連載エッセイ。 幼い頃から「ファット」な自分の身体とどう向き合ってきたのか、自分にそっくりな体型の祖母との関わりについて、感情を持つ脂肪細胞と支配される自分等々、「太り」を考えに考え抜いた考察が、日常的な感情を交えたユーモアある文章で綴られていて引き込まれる。 苦悩もありつつ、それ以上に著者の探究心とエネルギーを感じられるエッセイ。各方面でご活躍されているのも納得

4月からの朝日新聞連載小説は湊かなえさん!!「C線上のアリア」 介護がテーマのミステリーだそう どんな物語になるのか想像できない。楽しみ

読書|角田光代「方舟を燃やす」

単行本:432ページ 読了までにかかった時間:300分 大切な存在を守るため、正しい道を選び信じて尽くしてきた。そのすべてを拒絶された時の絶望といらだち。想像するだけで苦しい。そして相手を思うがゆえに、周囲との軋轢が生じてもなお自分の選択は正しかったのだと思いこんでゆく。 大切な命を守るためなら、およそ科学的ではないことを信じることだってあるし、信じていないと生きていけないこともある。 昭和から平成、令和へと幾つもの大災害と大事件を経て、社会も人々の価値観も変わってきた

読書|上田岳弘「K+ICO(ケープラスイコ)」

単行本:152ページ 読了までにかかった時間:80分 聖人君子は別だけれども、誰もが自分の中にひそかに抱えている願望なんじゃないかと思った一節。 ウーバー配達員のK、TikTokerの女子大生ICO、親の期待に応えられない幼いk。交わることのなかったはずのそれぞれが、デリバリーを機に接点を持ち、誰かと繋がっていたいと願う。 淡々と描写される配達員から見た東京の道が、余計に彼らの孤独を浮き上がらせ優しさを際立たせる。 時代(世代)への痛烈な批判もあり、作家と同じ時代を生

読書|小砂川チト「猿の戴冠式」

単行本:144ページ 読了までにかかった時間:90分 ボノボと人間、肉体と言葉、主観と客観が入り乱れ、読みながら混乱する。何が妄想でどこまでが現実なのか。 時系列を確認したくなり、ページを戻っては進みを繰り返すうちに、いつの間にか人間「しふみ」にすっかり感情移入し物語に没入していた。 あまりの曖昧さに、読み終えた直後から再度読み直したくなる作品。(何度読んでもよく分からないかもしれないけれど) ラストは、思わず自分もスニーカーに履き替えて走り出したくなるほどの疾走感。