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読書|角田光代「方舟を燃やす」

単行本:432ページ
読了までにかかった時間:300分


「前世はもっとしあわせだったし来世ももっとしあわせなはず。今だけが苦しい」

角田光代「方舟を燃やす」


大切な存在を守るため、正しい道を選び信じて尽くしてきた。そのすべてを拒絶された時の絶望といらだち。想像するだけで苦しい。そして相手を思うがゆえに、周囲との軋轢が生じてもなお自分の選択は正しかったのだと思いこんでゆく。

大切な命を守るためなら、およそ科学的ではないことを信じることだってあるし、信じていないと生きていけないこともある。

昭和から平成、令和へと幾つもの大災害と大事件を経て、社会も人々の価値観も変わってきた。でも、「信じる」ということにおいては、思ったほど人は変わっていないのかもしれない。

だって、信じないなんて選択肢は、そこにあったのだろうか。

角田光代「方舟を燃やす」

大人になった今は、それが分かるようになった。そして、信じることで救われることもあれば、家族や友人、命さえ失うこともあるということも分かるようになった。

私たちは知らない。ただしいはずの真実が、覆ることもあれば、消えることも、にせものだと暴露されることもある。それだけではない、人のいのちを奪うことも、人に人のいのちを奪わせることも、あり得る。

角田光代「方舟を燃やす」

2部構成の長編小説。ノストラダムスにコックリさんなどの懐かしのオカルトから、新興宗教、デマ、フェイクニュースまで。私たちの記憶に刻まれている様々な流行が、読み手の当時の記憶を呼び覚ましながら物語は進んでいく。

その時々の自分を回想しながら、大切な人を思いながら、コロナ禍が終息しつつある今ぜひじっくり読んで欲しい。


角田光代「方舟を燃やす」
新潮社 2024年2月29日発売

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