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低温調理にまつわる幻想を赤裸々に【前編】

こんにちは、Nickです。はじめまして、の方向けに軽く自己紹介をしますと、以下のような記事でぐるなびのインタビューを受けるような料理マニアです。

特に低温調理に関しては普及初期からかなり研究しており(ブログ参照)、プロのシェフからも時折問い合わせを受けたりしています。そんな私の低温調理に対する現状評価を一般ユーザー目線に合わせて書いたものが本稿です。

さて、皆さんご存知通り、Anovaなどの専用機が手軽に入手できるようになったこともあって、確実に低温調理ユーザーが増えて来ていますね。
その傍ら、ネット上や店頭では「プロ並の仕上がり!」など様々な持ち上げられ方をしていますが、やや誇張されている点があるように思います。

代表的な例に対して色々ツッコミを入れていき、低温調理の実際のポテンシャルを確認したいと思います。(一見すると)良さそうに思われる面ばかりが切り取られて強調されている現状に一石を投じる内容になっているかと思います。

本稿は具体的なレシピを紹介するものではなく、より良いレシピを考案するため、あるいは、どうしようもないレシピを見抜くための知識を提供するものです。

ざっくり目次を示しておきます。

【前編】
□低温調理・真空調理とは
□真空調理ローストビーフの難点
□ラーメン屋のレア焼豚の改善すべき点
【後編】
□真空調理ステーキの厄介さ
□真空調理の得意・不得意
□真空調理の利用可能性・その例

※なお、販売数の伸びに応じて販売価格も上がる予定。

低温調理・真空調理とは

弊ブログ記事(家庭で役立つ真空調理のススメ)にて概要を述べていますので、低温調理・真空調理なるものに馴染みがない方はご一読ください。

なお、本稿では低温調理ではなく真空調理(sous vide)と呼ぶことにします。
“低温”の定義が曖昧さ、低温でなく密閉性に本質があるケース・明らかに低温でないケースが多々あるためです。

真空調理ローストビーフの難点

真空調理→sear(フライパンでの焼付)という工程で作る「真空調理ローストビーフ」は、ちゃんとローストしたローストビーフより、煮るor蒸すだけの疑似ローストビーフに近い存在であり、ローストビーフと呼ぶにはやや抵抗があります。
しかし、ここでは一般的な呼び名に従って真空調理ローストビーフと呼称することにします。

この真空調理ローストビーフは、真空調理のレシピとして有名なものであるにも関わらず、真空調理の典型的な苦手分野が現れやすい料理だと思います。具体的には、

・食材の水分を逃がさない
・食材の香りを逃がさない

の2点が悪い方向に働きやすいのです。
場合によっては「食感が均一になり過ぎる」という点も宜しくない点として有りえますが、これは肉のサイズ・仕上げのsear(フライパンでの焼付)条件などに依存することに加えて、「均一な食感が好きかどうか」という嗜好の割合が大きい問題なので今回は除くことにしました。

さて、上記2点がどう悪く働くかを理解するには、オーブンでローストする場合と真空調理で加熱する場合それぞれの調理過程における食材(ここでは牛肉)の状態を比較するのが分かりやすいでしょう。

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