見出し画像

再び、間違うのは本当に人だけなのか?…


 プリウスの事故について、ここで書いてからも新しい事故が起きたり、池袋の事故の問題が再び取り上げられた結果、私のツイッターにも質問が寄せられたりしているので、改めてこの問題について書いてみたい。

  そもそもプリウスの急加速や暴走事故が問題になったのは上の2010年の記事の前年、2009年に米国でプリウスではないトヨタ車での事故がきっかけ。その後、プリウスでも多くの同様の事故が報告されて、集団訴訟が起きたり、米国で大問題化。大規模な原因調査は勿論、豊田社長を呼んでの議会の公聴会も開かれるという経過を辿ったのだ。

(因みに、前の記事でも書いたように日本でもプリウスによる同様の暴走事故はあったが、裁判などでも「運転手のミスによるアクセルとブレーキの踏み間違い」で片付けられ、ちゃんとした原因調査は行われなかった)

  で、話を戻して、米国での急加速や暴走事故の経緯を辿ると、このプリウスの事故の前年、2009年にレクサスやアバロンなどのトヨタ車での急加速や暴走による事故が幾つも発生。ブレーキや電気系統に異常が見つけられないということで、先ず疑われ、トヨタも主張したのが「フロアマットがアクセルペダルに引っかかったのが原因」という説。実際、フロアマットを固定する金具が折れていたケースもあった為に、この説が広まり、トヨタも380万台のフロアマットの回収を実施。しかし、その後、明らかにフロアマットが原因とは考えられない同様の事故が多くあった為に、この説はすぐに否定された。

(因みに、今でも日本のネットなどには、プリウスの事故でこの「フロアマット説」を堂々と書いている記事が溢れているが、日本の裁判でも否定されているように間違い。またもう一点、ついでに指摘すれば、この件では米国でトヨタに対して韓国系米国人が集団訴訟を起こした事もあって、ネットにはヘイトからの露骨な反ユーザー、トヨタ擁護のデマが色々と書き込まれているのでご注意を)

    次に疑われたのが、ブレーキペダルが磨耗などで戻らなくなる「ブレーキペダルの不具合」。こちらでも2010年の初めにはブレーキペダルを無償交換する大規模リコールをトヨタが実施した。

  そして、2010年になってから新たに問題になり始めたのがプリウス。上で紹介した事故や、アップルの共同創業者スティーブ・ウォズニアックが『2010年モデルのプリウスでクルーズコントロールを使用して高速道路巡航中に、アクセルに触れていないのに時速156kmに加速した経験』を述べ、プリウスのソフトウェアの欠陥を指摘したことから新たな問題になった。

(因みに、上のプリウスの事故の記事で補足すれば、運転者は「急加速してブレーキも利かなかった」と発言していて、ブレーキが焼き切れているのは暴走中に追走したパトカーがサイドブレーキの使用を呼びかけてサイドブレーキを使った為。)

   こういう経緯で疑われるようになったのが、プリウスの「ブレーキ制御システムのエラー」。前の記事にも書いたように、プリウスは、普通のクルマのようにブレーキペダルがワイヤーを引っ張って油圧ブレーキを掛ける機械制御式のブレーキではなく、ブレーキペダルは単なるスイッチで、電子制御式の「回生協調ブレーキ」というとても特殊なブレーキ。そのシステムの不具合が疑われた結果、トヨタもこの「ブレーキ制御システムのソフト」を交換するリコールを再び、今度は米国だけではなく日本も含めて行うことになる。

   ただ、それでもそもそもプリウスのブレーキが利かないだけではなく、急加速してしまうことの説明にはならない訳で、最終的に疑われたのがプリウスの「電子制御装置(ETCS)そのものの欠陥」。米運輸省も『エンジンの電子スロットル制御システムが原因の可能性がある』と声明を発表し、『電波の干渉が意図しない加速を引き起こす可能性がある』とも指摘したり、議会の公聴会では南イリノイ大学のデービッド・ギルバート教授という自動車技術学の専門家が、『「迷走した信号(stray signal)」が安全装置を作動させたり、車両のコンピューターシステムに痕跡を残すことなく、システムを通過してしまうというシナリオを3時間半で再現できた。プリウスの「ETCS」では問題が起こっても検知されなくなっている可能性がある』と発言。

    ただし、様々な検証実験や裁判でも結局、この「ETCS」そのものの欠陥を再現したり、証明する事が出来ないまま、この問題は豊田社長が「ブレーキ操作よりもアクセル操作を優先させるブレーキオーバーライドシステムの導入」を約束することと、トヨタが米司法省と司法取引で、ドライバーとの訴訟の和解金とは別に12億ドル(1200億円)の金額を支払う代わりに刑事訴追を免れることで、2014年には決着してしまう。

  この決着には、“トヨタだけではなくGMやフォードのクルマにも同様の欠陥があったので藪蛇になりかねないから”とか、“日本政府だけではなくトヨタの工場がある州の知事からも抗議があったから”とか、様々な理由が言われているが、単なる交通事故やクルマの不具合の原因追及の問題ではなく、外交や政治問題化してしまった結果、原因や真相も判らないまま、玉虫色の決着が図られたというのが真実。

   いずれにしても、日本は勿論、米国でもプリウスの急加速や暴走による事故がなぜ起きたのかの原因は未だに究明されていないというのが事実と考えるべきだろう。
 勿論、それ以降に「ブレーキオーバーライドシステムの導入」や、誤発進抑制や自動ブレーキなどの「衝突回避システム」がプリウスにも導入され、事故が減ったのは確かのようだが、それは謂わば、急加速や暴走を起こす根本的な原因を究明して治したのではなく、そういう事が起こった時にねじ伏せる為の弥縫策ともいえなくない。

    前回も紹介したこの記事でも、このトヨタの対策を弥縫策と指摘した上で、その衝突回避シスム導入のプリウスで起こった事故もあると指摘している。

   また、今回の池袋やその後の市原の事故でも恐らくクルマに異常がなく、人間の運転ミス「アクセルとブレーキの踏み間違い」で片付けられる根拠になる記録装置「EDR」についても、この記事では「アクサル操作を一切していないのにアクセルペダルを踏み込んだ履歴が残されていた」ケースがあるという指摘もしている。

  更にいえば、最初に紹介した米国の記事中には『プリウスのコンピューターには事故が起きていたとされる時、立て続けに250回、ブレーキとアクセルが交互に踏み込まれていた事実が記録』という一文があるが、これも衝突から遡って5秒間のペダルの開度やシフト操作に対応した制御指令を記録する「EDR」の履歴なので、5秒間に250回、アクセルとブレーキを交互に踏むという、あり得ない記録を「EDR」がしていたというエラーの証明にしかならないのだ。

  いずれにしても飛行機のように様々な事故記録装置がついていないプリウスでは、なぜ急加速が起こり、なぜブレーキが利かなくなって暴走してしまうのか、その原因が究明しにくいというのも事実。

   とは言っても、米国でも起きたように、プリウス以外のクルマでも、アクセルが電子制御やEFI(電子燃料噴射装置)のクルマでは急に回転数が上がる急加速や急発進などのマシンエラーが起きているのも、また事実。
 ただし、プリウス以外のクルマではブレーキが電子制御式ではなく、アクセルから繋がる駆動系とも全く別で、油圧ブレーキをワイヤーで引っ張ってクルマを止める機械式。だからもし急加速をしてもブレーキを踏んで止めることが出来るが、プリウスはブレーキもアクセルも同じ系統なので、万が一、何かあった時に「アクセルが戻らずに加速し続け、ブレーキも利かない」という情況が現出するのではないだろうか。

  で、上に紹介したように、実はプリウスのマニュアルには、「アクセルが戻らずに加速し続け、ブレーキも利かない」という状況になった時に対処する方法がちゃんと書いてあるのだ。“非常時にこんなややこしい事が出来るか”という批判もあるようだが、対処法が皆無ではないのは事実。必ずこれを読んで理解しておくことは必要だろう。

   また、これはツイッターでも指摘したのだが、駐車場のバーの前でブレーキを踏んで停止していたのに急発進して公園に突っ込んだという市原の事故なども、普通のクルマならば、ブレーキを踏んで車輪の回転を機械的に止めて一事停止しているのは正しい方法だが、プリウスの場合は電子制御なのでブレーキペダルを踏んでいても、それで機械的に車輪の回転を止めている訳ではない。それよりも停止専用の「Pボタン」を押して停止していた方がより事故を防止できたのではないだろうか。

   いずれにしても、プリウスのユーザー自身がプリウスが普通のクルマとは全く違うクルマだと理解して、その扱い方や対処法を身につけること

 そして何よりも、「アクセルとブレーキの踏み間違い」という運転手の責任、ヒューマンエラーで簡単に片付けずに、マシンエラーの可能性も考えて警察や国交省なども徹底的な原因調査を行うこと

  これが本当の再発防止、事故防止に繋がる筈だし、それをしなければ必ずまた同じような事故が起きるのは間違いないのだから。


※photo by https://snjpn.net/



twitterやYouTube「日本国黄帝チャネル」では言えなかったこと、言い足りなかったこと、ニュースや様々な事柄をTVや新聞は決して伝えない視点で発信していきますので、あなたの考えるヒントになれば幸いです。