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部活動指導の民間委託を考える

公立中学校の部活動指導について、地域や民間への委託が加速している。
Athletes Business Unitedでは昨年からこの社会課題に取り組んでおり、様々な自治体と協議を重ねてきたが、スポーツ庁への提言が出されたことにより今後は動きが加速すると思われる。今回の部活地域移行の提言のポイントは以下の通り。
・公立中学校の部活動は「休日」から地域移行していく。
・2023(令和5)年度から2025(令和7)年度までを目標時期とし実施
(平日の地域移行も視野に入れ、平日はできるところから取り組む)

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部活動の顧問は基本的に教員が担い、休日出勤や時間外労働など教員に係る負担が大きいと以前から問題視されてきた。中には教員がその競技の経験がない、いわゆる素人でも指導者にならざるを得ない。その競技が好きで入部してくる生徒にも顧問の教員にも気の毒なことが実際に起きている。


また、少子化である今、当然のことながら1学年のクラスが減り、部員も減り、特に野球やサッカーなどのチームスポーツにおいて試合出場に必要な最低人数に満たず「合同チーム」で出場するケースも増えている。その合同チームの顧問が素人、というケースも少なくない。もちろん中には自身がスポーツ経験者であり部活動指導がしたいがために教員になった方々も大勢いるし、素晴らしい指導をされている教員も多いことは認識している。そういう教員にも現在は正当な金額の報酬が支払われておらず、少額の手当を教育委員会が払っているにすぎない。
そうではなく、休日も平日も、部活指導は「専門性のある指導者」として希望する教員が実施し、それに対し「兼職兼業」(いわゆるアルバイト)とし、正当な金額の報酬を払う仕組みに移行していくことになる。

また、部活動にとどまらず体育の授業、中でも「水泳」を民間に委託する動きも活発になっている。学校としてはプールの維持費や夏休み期間中の教員の負担が主な要因であり、この動きも加速していくと予想される。

現状の課題

部活動にせよ授業にせよ、民間に委託する場合において様々なクリアすべき課題はあるが、概ね次の4点に集約できる。
1)指導する場所
2)部活動の活動費の負担
3)指導者の人材
4)民間委託先の選定方法

1)指導する場所
こちらに関しては、①学校のグラウンドや体育館に指導者が行き指導する、②生徒が民間のクラブに出向き指導を受ける、の2方向が想定される。費用面や生徒の安全面を考えると①が望ましく、場所の使用料を無償にするなど自治体の協力が必要である。

2)活動費の負担
民間の指導者がボランティアで受ける場合は別として必ず費用は発生する。ABUがこれまでに得た情報によると①自治体が負担(都市部で人口の多い自治体)、②部員の保護者が負担、③自治体と保護者が折半(①と②の折衷案)というパターンが一般的であった。

3)指導者の人材
こちらは量的な課題と質的な課題がある。まず量的な課題としては地域格差が挙げられる。特に地方では人材不足が懸念されており、民間への委託を進めたくても指導者がいないということが想定される。質的な課題としては民間の指導者は教員ではない、ということ。これは部活動そのものの考え方、捉え方によるが「学校教育の一環として教育課程との関連」という学習指導要領を民間のスポーツ指導者は認知しておらず、ハラスメント等の教育が必要である。

4)民間委託先の選定方法
公平・公正が大原則である自治体としては、一般的に民間委託先の選定方法に「競争入札」が採用される。公共事業や物品の購買に関しては競争入札が奏功する場合が多いが、部活動指導の民間委託に関しては当てはまらないと考える。その地域には複数のクラブやチームがあり、それぞれが協力・連携し運営している。競争入札では「最も安いところ」に委託することになるので、いわば横の繋がりであるクラブやチームを価格で競わせることになる。ある自治体では競争入札を実施したところ「応札ゼロ=全員辞退」という事が発生した。さもありなんという感じではあるが、自治体だけでの采配には限界があると感じられる。


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ABUの役割と目指す方向性

ABUには様々なスポーツに取り組んでいるアスリートが多数在籍している。彼らは自らお金と時間を投資してビジネスを学ぼうとしている意識の高いアスリート達であり、我々は彼らのネクストキャリアのひとつとして「部活動指導員」となることを推進している。

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我々が描くロールモデルは、アスリートが地方に移住・定住し、朝から16時までは地域で働き価値を提供、16時以降は部活動指導員としてスポーツ振興に携わる、というものであり、地方自治体に対し住居等の補助(空き家の活用や金銭的補助)、働き先(企業や農業等)の斡旋を依頼、「ABU×自治体×アスリート」による3者間連携を進めている。
このロールモデルにより、部活動指導員に登録するアスリートにはABUが学習指導要領に関わる研修を実施、課題4:指導者の質を担保できる。
また、自治体とクラブ・チームの間にABUが入り、自治体の予算やスケジュール、指導員の采配をコーディネートすることにより、クラブやチームを価格で競わせることなく平等に采配することができる。


部活地域移行の目的


①少子化で学校で部活動ができない地域が増えていく
②地域スポーツクラブで「子どもも大人も幸せで楽しい」活動を
③1種目だけではない様々なスポーツをどの中学生も大人も楽しむ社会に

スポーツを通じた教育先進国としてニュージーランドがよく取り上げられている。


ニュージーランドでは、全員が毎週ゲーム(試合)を楽しめる仕組みがある。一つの学校で一つのチームが基本の日本とは異なり、同一校の中で複数のチームを作りエントリーできるようになっている。ゲームは活動期間中、登録されているクラブの子ども全員が毎週試合が楽しめるようなシステムになっている。各クラブは学期の初めにチームを市のスポーツ局に登録する。試合は、登録全クラブが市内中心部にある体育館2面を使用し、午後4時から行われる。全クラブが集まるといっても試合15分前に集合して、試合時間が終わるとすぐに解散するので拘束時間は1時間あまり。曜日ごとにカテゴリーを決めてゲームが実施される。審判は地元の高校生、得点盤係と記録係は各チームの父兄がひとりづつ手伝う。あらかじめ自動的に時計がセットされており、時間が来たらベルが鳴り試合開始である。クオーターごとにもベルが鳴り各チームがベルにあわせて動き、実に効率よく試合を進めていくため各カテゴリーとも1日で多くのゲームをこなすことができる。このシステムにより、子どもたちは活動期間中毎週ゲームを楽しむことができるのである。

学期が終わるとチームは一度解散し、新しい学期に入ると再度登録する。この柔軟なシステムがあるおかげで子どもたちは全員がゲームを楽しみ、出入りも自由で他のスポーツとのかけもちも可能になる。さらにトップレベルを目指す子どもたちは、このリーグ戦に加えて地域代表のセレクションが行われ、選ばれた選手は別にトレーニングを積んで他の地域代表との大会に参加する。スポーツを楽しむ子どもたちには平等に機会が与えられ(草の根レベル)、さらに高いレベルを目指す子どもたち(トップレベル)にはさらにその機会が与えられているのである。

ニュージーランド・ワイカト大学 経営学部博士課程 西尾 建 氏の論文より引用

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今後の方向性

少子化が進む日本において、従来の部活動のシステムでは成り立たないことは明白である。これは将来的に日本のスポーツが弱体化することにも繋がる。


公立中学校等では、部員が集まらないことにより、大会への出場だけでなく日頃の練習すらままならない状況が見られるようになっている。
※部活地域移行提言p.4

少子化で学校で部活動ができない地域が増えていく状況があり、中学生がスポーツ活動を楽しむためには学校だけでは支えきれない、と言うのが現実である。
さらに「スポーツをするにはお金がかかる」という理由で断念する子供や家庭も少なくない中、教員が無償で担ってきた部活動が民間に委託され有料となることでさらにスポーツに挑戦する土壌が失われては意味がない。しかし、勉強を習うことにはお金を支払うがスポーツは無償、というこれまでの日本の風潮にも疑問を感じる。ABUは自治体、学校、クラブ・チームと連携しコーディネートする事で、三方よしの新しい仕組み作りに挑戦する。今回の部活動の民間委託をきっかけに、
①低所得世帯であってもどの子も気兼ねなくスポーツ活動を楽しめる地域・社会
②障害を持つ子どもも安心して学校や地域でスポーツ活動を楽しめる環境
③山間地域や離島であっても、スポーツ活動の機会を平等に
④1種目だけではなく様々なスポーツを楽しむ機会
これらの実現に向け多面的に連携し取り組んでいく。


我々と共に部活動指導のあり方に挑戦したい自治体や企業の方、指導者に興味があるアスリートは以下の写真をクリックしてABUのホームページよりお問い合わせください。我々と一緒にこの課題に取り組みませんか?

Athletes Business United学長 中田仁之

0523受講生MTG

https://ab-u.co.jp

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