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2018年の製造業M&Aまとめ

1.「双方の成長を目指す垂直統合」自動車部品・金型業界のM&A

2018年の自動車部品・金型業界は、国内外を問わず、サプライチェーンの川下から川上への本格参入が活発化し、中でも大手素材メーカーと、老舗の自動車部品メーカー(Tier1、Tier2)の経営統合が目立った。

【2018年の大手素材メーカーM&A事例】
・三井化学 × アーク(車載部品・金型設計製造)
・旭化成 × Sage (米:車載シート部品等)
・積水化成品工業 × Proseatグループ(独:自動車用各種成型品)
・富士紡ホールディングス × 東京金型(金型設計製造)

買収側の狙い:「ビジネスモデルの変化」

大手素材メーカーはいずれもエンドユーザーにより近いポジション(川上)をとることで、自動車メーカー各社の市場動向を正しく捉え、製品の開発段階から参画する力を強めている。従来の「素材販売」(サプライチェーンの下流)から「製品設計開発」(上流)まで手掛けることで、自社のビジネスモデルを変化させている。

売却側の狙い:「成長戦略と事業承継」

EV化や自動運転技術の開発・浸透を見据える中で、「軽量化」や「安全性向上」等のテーマを実現していくために素材ベースでの研究・開発ノウハウを部品メーカー自身も内製化していく必要に迫られている。自動車メーカーのあらゆるニーズに応えていくために、素材の開発・研究も含めて自社に取り込むことで、競争優位を実現していく「成長戦略」のためのM&Aである。

また中堅・中小企業においては「事業承継問題」を機に大手へのグループ入りを決断するケースも年々増加している。世間一般では「後継者がいない」からという理由での譲渡が中心のように思われがちだが、社内に後継者がいるケースであっても、産業の転換期を迎える中で、大手と手を組んで成長していく選択肢を選ぶケースが非常に増えている。

上記M&A事例で挙げた埼玉県の東京金型株式会社は、創業者から2代目へのバトンタッチのタイミングで、オーナー 一族で保有していた株式を大手の化学素材メーカーの富士紡ホールディングスに売却し、株式の承継問題(オーナー 一族の連帯保証・相続税等)を解決。

元より創業者のご子息が経営に参画していたが、新体制のもと親会社のバックアップを受けながら引き続き社長として、会社の事業展開を牽引している。

2.「本業革新」電機・電子業界のM&A

2018年は大手電機メーカー各社において特に、自社のコアビジネスを見極め、それを磨くことでイノベーションを実現していく「本業革新」のためのM&Aが多く見られた。

単なる本業の選択と集中(リソースの再分配)ではなく、事業再編と並行して、異なる分野の技術や人材を新たに受け入れることでビジネスモデルのアップデートを進めている。

「ニッチトップ技術」との連携でコア技術を磨く、リコーのM&A
2017年、リコーは非中核ビジネスのアナログ半導体事業を手掛けるリコー電子デバイスを日清紡グループに売却。一部株式は保有しつづけた上で、当該領域において「他力」を活用して成長させていく選択をした。

その後2018年、同社は本業である「印刷領域」への集中を掲げ、「立体物向けの印刷技術」に強みを持つエルエーシー、「衣料や床材の印刷技術」を得意とするカラ―ゲート の2社を買収した。各々の会社の技術優位性と自社の技術を連携させることで、本業である印刷領域を磨き抜いていく。

「ソフトウェアシフト」で本業のビジネスモデルそのものを変革
電機メーカー大手は、業界環境の変化にあわせて、旧来のビジネスモデルそのものを抜本的に見直している。特に下記の大手2社(富士通・日立)は、「本業」として位置づける領域を「ものづくり(ハード)」からIT・ソフトウェアにシフトするためにM&Aを積極的に活用している。

富士通は、2017年のLenovoへのPC事業売却に続いて、2018年はスマホ事業を投資ファンド、ポラリス・キャピタルグループに譲渡。ものづくり分野ではなく現在はIT分野での買収を加速しており、古河電工のシステム子会社(生産管理システム)、ノルウェーのシンフォニーESM(クラウドサービス導入)等を直近でグループ傘下に加えている。

同じく日立も、ものづくり事業の売却を直近で進めており投資ファンドKKRへ日立工機(工具事業)と日立国際電気(半導体事業)を譲渡。その一方でアメリカのクラウドサービスベンダーのリーンクラウドを買収し、サーバーの保守や障害時対応などシステム管理全般のノウハウを強化している。日立が持つハードウェアの技術にソフトウェア企業のノウハウを取り込むことで、IoT領域の技術革新をリードしていく。

中堅・中小企業のソフトウェア会社を大手が譲受する事例も近年は非常に増えており、真空管、ディスプレイの大手、双葉電子工業(東証一部上場)は、通信制御技術をコアとしたシステム開発を手掛けるセントラル電子を譲受し、自社のハードウェアノウハウと組み合わせることで相乗効果を発揮していく。

3.「ものづくりからシステムづくりへ」生産用機械業界のM&A

工場の生産ラインのIT化・ネットワーク化に伴い、工場の生産ラインも「部分最適」から「全体最適」を求められる傾向にある。一昔前は単体の装置を求められたスペック通りに納めることで十分にビジネスが成り立っていたが、今は全体のトータル設計が求められるケースが増加している。

「手を組むことでビジネスモデルを変化させる」アマダのM&A
プレス機メーカー大手のアマダは、プレスの付帯設備(搬送機等)の設計・製作を行うオリイメックを買収することで、「プレスメーカー」から「提案(企画・設計)型のビジネスモデル」へと変化を遂げた。同業を買収することでシェアを拡大するのではなく、異なる事業領域同士で手を組むことでビジネスモデルそのものの変革を図る。

中堅・中小製造業は「企画・設計力」が企業価値に直結する
中堅・中小企業のM&Aに目を向けてみても、2018年は「生産用機械メーカー」のM&Aが非常に活発であった。生産用機械メーカーの中でも中堅・中小企業に多く見られる専用機メーカーは、近年得意先の技術者人材の不足から装置単体での受注のみならず、「組立⇒加工⇒検査」に至る一連のラインを一括して請け負うことのできるキャパシティが求められる傾向にある。

幅広い顧客ニーズに応えることが規模の問題から難しい現状に加えて、経営者や従業員の高齢化も年々進んでいく中、相乗効果の見込める大手グループの中で更なる発展を目指すという選択肢を選ぶオーナー経営者の方々が増加している。

一方で、そういった生産用機械メーカーの買収を検討している会社は、「企画・設計(エンジニアリング)機能を内製化して付加価値を高めていきたい電子部品商社」から「一品物の装置設計技術を必要としている汎用機械メーカー」「製造業向けのエンジニア派遣会社」と様々である。需要旺盛な分野であるため、比較的高い株価もつきやすい傾向にある。

「求められたものを高い精度で作る」ことではなく「顧客にとって必要なものを企画し形にする」ことが今後ますます求められる中、来年以降も生産設備メーカーのM&Aはより活発化していくことが予想される。

日本M&Aセンター 業界再編部 製造業界責任者 太田隼平
<業界再編M&A>https://www.reorganization-ma.jp/
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