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退院後の運動習慣について

後遺症が軽かった私に回復期の担当療法士さんは
「退院したらジムに行け」
何度もそう言いました。

なぜジムに行けと言われたのか、そして言われるがままジムに行ってどう思ったのか綴ってみたいと思います。

「ジムに行け」

くも膜下出血を起こす前は全くと言っていいほど運動習慣はありませんでした。ただ、ペーパードライバーであったため、どこへ行くにも公共交通機関を使うか徒歩というスタイルではありました。ですから特に何かのスポーツをするということはありませんでしたが、買い物や通院、図書館通いなどの際には一日3〜40分程度歩くというのが私の生活でした。

ところが「元々筋肉も体力もないですよね」が口癖だった回復期の担当療法士さんにとっては私の運動習慣の無さは心配の種だったようで、
「ここでつけた運動習慣を無くさないためにジムに行け」
退院間近に度々そう言われました。

ただ、運動が好きではない私にとってはジムは敷居が高く続けられるかどうかが不安でした。が、そう訴えてみてもジム以外の提案をされることはなく
「ジムへ行くか行かないかはみどりさんの自由だけれど、俺はジムに行けって言いましたからね」
それで終わりとなりました。

入会手続き

退院後ジムへの入会を躊躇う私に
「自分も一緒に入会するよ」
夫がそう言ってくれました。

スポーツ嫌いの私でしたが水泳だけは好きだったのでプール付きのプランにしました。入会時に
「足に麻痺があるけれどスタジオプラグラムなども参加できますか?」
と聞いたところ、
「インストラクターのOKがあればいいですよ」
そう言われました。

スタジオ見学をしてみて

着替えをしてスタジオに行ってみると当たり前ですがみんな運動をしていました。
リハ室で行われていたのは「リハビリ」だったのだと改めて感じました。
リハ室の中では私が一番元気でした。フィットネスバイクを漕いでいたのも私1人でした。
でもジムでは皆んなが走ったりバイクを漕いだりバーベルを上げたりしていて何だか異世界に来たような気持ちになりました。

スタジオプログラムを見学してみたら、みんな汗だくになりながら素早く動く姿に"私にはとても無理"そう思いました。

フラダンスに参加して

そんな中、目に留まったプログラムがフラダンスでした。ゆったりと踊るイメージに"これなら出来るかも"そう思った私はインストラクターに麻痺があることを伝え、参加出来るか尋ねてみました。すると
「ステップはリハビリにもなると思いますし、できるところだけやったらいいですから是非どうぞ」
そう許可をいただきました。

よくわからないままに空いている席の予約をとり、実際に参加してみました。華やかなフラダンスの衣装を身に付けた人たちの中にポツンといるのは何とも居心地が悪いものでした。
一番出口に近い方が良いのかななんて取ったポジションは、隅っこだけれど最前列で、末席という訳では無かったようで失敗したなと思いました。

そして実際にレッスンが始まると優雅なイメージとは裏腹に、ステップは早く複雑でターンなどもありとてもついていけませんでした。
今考えると、高次脳機能障害で記憶障害を持つ私が即座に振り付けを覚えるなど無謀だったのですが、そんなことは知る由もなく何とかついて行こうと必死に見よう見まねで踊っていました。

すると髪飾りをつけた華やかな装いの方がスッと私の側に寄って来て
「踊れないのならもっと後ろの隅っこに行ってちょうだい」
そう囁いて去っていきました。
そうか場違いだったのだなそう思ってそっと退出しました。

プールへ

そんなことがあってからスタジオプログラムはやめてプールへと向かうことにしました。
プールではレーンによって歩く人、ゆっくり泳ぐ人、早く泳ぐ人に振り分けられます。そして足の麻痺をさほど気にすることなくいられることが私には嬉しいことでした。

左足の蹴る力が弱いせいか真っ直ぐ泳ぐことはちょっと難しかったけれど、泳げる距離が日に日に伸びていくのが嬉しくて、スタジオには行かず、プールに行って帰るのジム通いとなりました。

ジムに通ってみて

その後、くも膜下出血とは別の体の不調により結局ジムは退会することとなりましたが、ジムに通ってみてどうだったか?と考えるとプールは楽しかったけれどあとはね‥という感じでしょうか。

担当療法士の方はスポーツが得意な方だったようで、運動音痴の私はリハ中によく笑われていました。運動が得意な人には、苦手な人がジムに行くことがどんなにハードルが高いことか想像出来ないのかもしれないと思いました。

私は運動が出来ないから、フラダンスの時に「隅っこに行って」と言われたようなことを何度も体験しているけれど、運動ができる人にとっては思いもしれないことかもしれない、そう思いました。

けれども回復期を退院して「ここでつけた運動習慣を無くさないように」ということが目的であったのならば、あえてハードルの高いジムではなく何か私に合った運動習慣を提案して欲しかったと思います。

そして付け加えるならば、例え運動が得意な人であったとしても、障害を負った人が健常者の中で運動をすることの心理的負担も考えて提案してもらいたいと思います。

病院を出て日常生活に戻ると、大したことがないと思っていた左足の麻痺が思わぬ障害となりました。
平坦と思い歩いていた道が傾斜していて歩きにくかった。自分にはやっぱり障害があるんだ、そんなことを改めて突きつけられつつ日常生活を送る中で、障害がなくスポーツを楽しむ人を更に目にしなければならない辛さは健常者にはわからないかもしれません。

運動会で運動音痴の人がスポーツの得意な人と共にいることも辛いことではありますが、それとはまた違った意味の辛さでした。
どちらも、運動が得意で障害のない療法士さんには味わったことのない辛さかもしれません。

私がいた回復期だけかもしれませんが、理学療法士の方は圧倒的にスポーツをやっている人、やっていた人が多かったように思います。

でもリハビリを受ける方は様々です。その人が退院後もこれなら続けられそうと思える運動習慣を勧めて欲しいと思います。

そして、障害を負った人がどんな気持ちで日常生活を送らなければならないかも想像してもらいたいと思います。