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9/25 読了『空白を満たしなさい』視聴『アバター』

 

『空白を満たしなさい』

 まだ書くには至らないのだけれど、死者がよみがえる小説の構想がざっくりあって、よみがえりを描いた作品をちょいちょい読んでいる。『カラフル』とかね。そんな中で手にした本でした。
 平野啓一郎さんは、先日noteのYouTubeでこちらの本や「分人」という考え方についてお話しされていました。

 そちらにも興味があったので読んだのですが、物語が本当にどこまでも誠実で……後半に入るともう泣いて泣いてどうしようもなかったです。

 謎についてはネタバレしないように書いたつもりだけど、心理面はさいごまでなぞっているので、ネタバレ嫌な人はここまででお願いします。
 

 3年前、会社の屋上から落ちて死んだ徹生が、蘇ったところから話は始まります。「自殺」だということになっているが徹生は、自分がなぜ死んだのか記憶しておらず納得できない。「自分は自殺など考えたこともない、俺はそんな人間じゃない、殺されたんだ」と訴えるが……というキャッチーな冒頭から真実を追い求める展開。ぐいぐい引き込まれます。

 上司、妻、母親、息子。徹生に関わる人たちが彼の死をどのように収めてきたのか。そしてまた甦った彼をどのように受けとめるのか。一人の人間が亡くなった、それも自殺のなれば傍にいた人たちの煩悶は生半ではない。死んだ側の徹生が望んだように「大切な人が自殺した、でも帰ってきてくれた!ハッピー」とはいかない。それぞれの余裕のない言動に徹生は傷つくが、彼らも徹生の「自殺」によって放り出され、大いに傷ついてきたのだ。

 前半部分の繊細で過不足ない表現が誠実で、語り手の不安な心に沿って読んでいたはずなのに、相手の苦しさもすごくよくわかってとても苦しいのです。


 徹生は自分がなぜ死んだのか理解する過程で「分人」という考え方(平野さん特集のnote参照)に出会います。それが彼を自己受容に導きます。
 彼は自分自身を良き人間だと認識していたし、自己否定に陥っていたわけではなかった。だけど私には最初彼がペラペラな紙のように見えていました。それはなぜか。私は徹生が認め難い自分を抑圧して一面的に見えたからだと思いました。

 徹生という男には、幼くして死んだ実父をめぐって誰にも気づかれず、検討されることもなかった思い込みがあったのだと思います。プレッシャーというか……。それが、自分が得られなかった「父親」を息子には与えたいという欲望を強化し、理想にそぐわない自己像は否認しないではいられない、潔癖さへとつながったのだろうと考えます。  
 弱みが見せられない。相談できない。自分に対する非現実的な期待を持ち、高い理想を抱く。母が愛し、幼い自身が望んだ、我が子に与えたかった完璧な父親になるために。

 それは、繰り返される「俺はそんな人間じゃない」という言葉に現れます。
 確固たるひとつの自分があるはずだと考えると、たった一つ理想にそぐわない私がいることが認められない。そいつに私全体を塗り込められてしまうと恐れるからだ。「消さなければ」と思わずにはいられない。抑圧して、理想を実現しなければならない。愛する者のために。
 そこに「分人」という概念が導入されると景色が変わる。

 これは、受容の物語なんだ。


 ……いきなり話がずれるけど、私がずっとテーマとして考えている毒親連鎖の難しさがこの徹生のあり方に出ていると感じました。「連鎖を断ち切る」と強く決意して親になったひとは、きっとこの徹生のような回路に陥る。徹生も、徹生の親も毒親ではないのですが、幼い徹生が望んだように親を持てなかったという点では毒親育ちと同じ。
 
 幼い私が望んだ親の像を私が実現し、我が子に与えるのだという、強い意志。我が子を傷ついた幼い私のようにはすまい、私は親のようにはなるまいという戒め。子供を幸せにして見せるという誓い。
 これらが潔癖さにつながり、ふと湧いた自分の感情を否定する。こんな考えは消さなければ。あれもダメこれも許可できない、と。
 ダメだできないと嘆いているうちはまだいい。否定が否認、抑圧になると自分の感情や行動をモニタリングできなくなる。「俺はそんな人間じゃない」と認め難い自分を抑圧して自分がわからなくなってしまう。これはとても危うい。

 毒親育ちのばあい、さらに傷ついたまま処理されていない生々しい記憶が重なる。時に幼い頃の惨めな私の記憶が刺激され、その感情に翻弄されて現実の相手が見えなくなる、投影して嫉妬したり憎んだり、見当違いな反応をして気づかない、妄想が暴走するなど子供を受け止めるどころではない事態が起こる。現実が正しく認識できない。
 私は最初毒親連鎖を止めるには、投影に気づき、現実検討力を取り戻すことができるかどうかが肝だと思ってきた。その上で未処理の感情を扱う準備ができればそちらに取り組めばいいのだと思っていた。
 親のようにはなるまい、毒親連鎖を止めるんだと誓うことそのものが抑圧を生み、現実を見る目を歪めてしまうとは。よく考えると常に緊張し自己を監視することがいい影響を生むはずがない。相手が自分であっても批判されると思うと抑圧するのは当然だ。

 毒親連鎖は、親のようにならないと誓い、子供を愛することだけでは克服できない。連鎖を断ち切るのに、自分を縛るような頑張りはいらない。まずとりくむべきは自己受容だ。それから相手を信頼すること。


 前半あれほど理想を抱き苦悩した徹生は、自己を理解し受容するにつれ自然と思いやりを発揮できる人間になっていく。気負いなくあたりまえのように愛を届けられる人間になっている。
 苦悩していた頃は自分のことばかりで、空回りしていたのに。
 それがとても素敵で、ずっと泣いてばかりでした。

『アバター』

 IMAXで視聴。
 体感したい!と感じる映画です。植物や動物の生っぽさや、飛翔する感じ。崖を上がっていく躍動感や、矢が刺さる感触まで立体的な映像でゾクゾクするほど迫ってきました。
 異なるものを理解するにはこんなふうに全身で感覚してみないと、と感じたりしました。
 植物の光る森の中は、私が夢に見る世界に似ていました。こんなふうに現実に再現する力があったら!! めちゃくちゃすごいです。
 『ニルスのふしぎな旅』に憧れていた私は、空飛ぶシーンに特に魅了されました。
 主人公の心の変遷は冷静に考えると少し掴みづらいところがあるように思うのですが、体感のせいなのか、見ている間は説得力があって、結構長時間なのに心が離れる隙がありませんでした。
 これは2もみるしかない……。

 今日はそんなところで。


今日の名作(ローマ字)の結果は「A-」スコア「209」でした。
今日の名作2(ローマ字)の結果は「B」スコア「176」でした。
今日の名作(ローマ字)の結果は「C+」スコア「148」でした。
今日の名作2(ローマ字)の結果は「B+」スコア「196」でした。

 ミスを減らしたい。

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