見出し画像

元国会議員秘書が出会った「政治をよりよくするさいきょうのアイディア」(前編)

今、日本の政治報道を見ている皆さんは、日々、政治への不信感が募っていると思います。次の選挙、どこに投票すればいいんだよ…というのが正直な気持ちではないでしょうか。

かくいう私は、この国が大好きなので今の状況には嫌気がさしつつも、現政権は現政権なりにやれることをやっているのは理解しますし、与野党ともに頑張っている国会議員の先生方も知っています。

それでも、多くの国民が今の政治にモヤモヤしている気持ちが私の中にもあります。

そんな中、とある見識が深い方とお話しする中で一つのアイディアと出会いました。そのアイディアは、根幹からこの国の政治をより良く変えることに繋がるものだと確信しました。

私の周りの人たちだけでなく、広く世の中に問いかけることでこの直感を確かめたいという思いがあり、今、この記事を書いています。

(私のことをご存知ない方がほとんどだと思うので、こちらの記事にこれまでの取り組みを簡単にまとめています。ご興味がある方はどうぞ。ちなみにタイトルで「元国会議員秘書」と書いているのは嘘ではないですが、1年間しかやっていないのでやや釣りぎみですごめんなさい)

長文になると思いますが、ぜひ最後までお付き合いください。


<前後編の記事で伝えたいこと>

  • 衆議院の選挙区を地面から切り離すことで、候補者が全国民の代表者として振る舞いやすくなり、結果として政治の質が高まる。

  • 「投票に行っても何も変わらない」と感じる有権者が多いのは選挙制度が原因。民意をできるだけ正確に反映する選挙制度を追求する必要がある。



「国政の選挙区を地面から切り離す」というアイディア

いきなり結論から入るのですが、一番伝えたいアイディアの核はこれです。

国政の選挙区を地面から切り離す

私たちは重力に縛られて地面に立っています。しかし、国家レベルの課題に向き合い意思決定を行う国政の構成員を選ぶための選挙区が同じように地面にへばりついている必要はないのではないかという問題提起です。

いきなり何を言っているのかよくわからないかもしれませんし、各方面からお叱りを受けそうな気もしますが、もし、国政の選挙区が地面から切り離された場合、どのような風景が広がるのかについての思考実験をしてみましょう。

もし、君が政治に不満があったり、諦めていたとして
変わるべきは政治家ではないんだよ
変わるべきは、むしろ我々
選び方は変えられるということに気がつく必要があるんだ
この国は国民主権
責任は私たちにある

とある見識が深い人の言葉

地面にへばりついた選挙区割りを見直す

今回の記事では優越性のある衆議院を対象として考えていきます。ご存知の通り、現在の衆議院選挙は「小選挙区比例代表並立制」という選挙制度を採用しています。住民票のある住所に基づき割り当てられた小選挙区では1名を選び候補者名を書き、比例区では1つの政党名を書きます。小選挙区では得票数の最も多い1名が当選となります。比例区では政党の得票数に応じて議席が割り当てられ、政党があらかじめ決めた名簿の順位に基づいて当選者が決まります。小選挙区と比例区の重複立候補者で名簿の順位が同じ場合は、小選挙区の惜敗率が大きい人から順次復活当選となります。
※小選挙区比例代表並立制についてより詳しく知りたい方は政治ドットコムさんの記事をご参照ください(小選挙区制とは?比例代表制とは?)。

衆議院の議員定数465名のうち、289名を小選挙区で、176名を比例代表で選んでいます。では、この289名の小選挙区選出議員は当該選挙区の住民の代表者なのでしょうか。当然そうではなく、憲法に記載されている通り「全国民を代表」していることは明らかです。

そうであるならば、できる限り制度上も全国民の代表として選出され得る仕組みを目指すべきではないでしょうか。

また、今の選挙制度でも比例区は地面から切り離されているように思えます。しかし、衆議院は党名で選ぶことから候補者個人を直接選んでいるというわけではないことに注意が必要です。

そして、小選挙区で落選し、比例区で復活当選した場合、党の力で勝ったということから党内での影響力は相対的に弱くなります。

裏を返せば、今のルールでは衆議院において政治家として影響力を高めるには小選挙区で当選を重ねる必要があるのです。ほぼ全ての衆議院議員ができることなら小選挙区で勝ち続けたいと考えており、そのことを行動原理の最上位に置いていることを押さえておく必要があります。

はたまた、永田町の周辺にいると、政治家志望の人たちに出会う機会があります。その時に最初に聞くのは、出身地や縁のある地域です。どの選挙区だと有利かというのをまず考えるわけです。

一般的に有権者は全く知らない人に投票することは少ないので、選挙活動とは選挙区内に知り合いをできる限り増やす活動ということになります(法的には選挙期間中の「選挙運動」と選挙期間外の「政治活動」に分けられますが、ここでは便宜的に両方を合わせて「選挙活動」と言います)。世襲政治家は、政治団体を経由した非課税の政治資金の相続ができるという利点もありますが、知り合いやお世話になった人が選挙区に多いというのが圧倒的な強みになります。

一言でいうと今の選挙制度は、当選し続けるために土着性が不可欠になっており参入障壁が極めて高い上に、選挙区に骨を埋める覚悟がなければ政策実現まで辿りつかないという現実があるのです。これは全ての選挙民にとって、今の政治家にとって、そして未来の政治家にとって幸せなことなのでしょうか。

この記事で述べているアイディアが実現すると、これらのことが根底から変わることになります。

選挙区が地面から切り離された世界線

実際にどのような選挙になるのか具体的にイメージを膨らませてみましょう。あくまで私のイメージなので、細かい制度設計の仕方は様々あると思いますが一つの参考として提示します。

無作為(ランダム)でのグループ割り当て

全国民の代表として選出され得る仕組みを目指すべきと前述しましたが、その理屈だと、全国を一つの選挙区とする「全国区」が望ましいことになります。しかし、かつて参議院が全国区だった時代は、「残酷区」と呼ばれるほど選挙が大変で費用も膨大にかかり、体力的にも過酷で当選後に死去する事例もあったらしく、知名度の高いタレント候補に有利に働くこともあり見直された経緯があります。従って、地面から切り離したとしても何らかのグループ分けは必要となるでしょう。

何人の有権者群から何人の当選者を出すべきか、その当選の決め方はどうするべきか(後編で詳述します)という点については様々な角度からの検討が必要です。ここでは仮に、昔の中選挙区のように5人区(1つの選挙区から5人当選)にした場合で考えていきます。議員定数465名全てを割り当てると93グループに分けられます。今の有権者数は約1億人ですから1グループあたり100万人超という計算です(もっと大きなグループにしても良いかもしれません)。このグループのいずれかに有権者が無作為(ランダム)で割り当てられるというイメージです。選挙ごとに割り当てが変わることが望ましいでしょう。

立候補届出状況のリアルタイム閲覧

候補者の届出の仕組みにも工夫が必要です。「この地域は○○の地盤」というようなセリフを何度も聞いたことがありますが、今の制度では、その選挙区の過去の票の出方を見たり、相手候補との組み合わせによって選挙戦略を考えることが一般的です。候補者擁立の時点で戦いは始まっているわけです。

選挙区が地面から切り離されると各候補者がどのグループから出馬するのかについて事前に予測することが難しくなるため、ここのルールも作り込まなくてはいけません。グループ内の有権者がランダムであればどのグループから出馬しても大差はないので、相手候補との組み合わせの影響が大きいということになります。立候補者自ら出馬するグループを選べるようにするのか、それともこちらもランダムにするのか、届出受付日はこれまで通り公示日の1日間だけでよいのか、なども議論の対象です。

個人的にはオンラインで届出ができるようになれば即時公開もできるわけですから、届出期間を一定期間設けて、その間、誰がどのグループに立候補の届出をしたのかがリアルタイムで閲覧できるようにすればよいと思います。何度も出し直せるようにしても良いかもしれません。届出候補者を見て後出しジャンケンもできるわけですが、その後に変更することもできるので、その期間の届出状況の推移そのものが有権者にとっての判断材料になるかもしれません(A候補はB候補と同じグループになりたくないという情報やその逆など)。各グループの候補者が決まるまでの届出期間の段階で、有権者側のグループが確定している場合、自分のグループにお目当ての候補者が来てほしいのであればそういう働きかけを行う人たちも生まれてくるかもしれません。

候補者たちの行動変容

候補者からすると自分の選挙民が全国各地に散らばっていることになるため、否応なく国家レベルの視点で政策を論じる必要が生まれます。選挙では票にならないと言われている外交や安全保障に関する政策が選挙で語られるようになるかもしれません。また、世論の動向に今以上に敏感かつ真摯に対応することになるでしょう。同時に自分の選挙民がどこにいるかわからないことから、有権者が次の選挙の所属グループを明らかにした場合、候補者側にとってはこれまで以上に貴重な存在となります。自分のグループの候補者に話を聞いてもらいやすくなるでしょう。これまでの対話集会のような機会もZoom等を用いたものに代替されていくと思います。

また、無作為(ランダム)で有権者が割り当てられる場合、理屈としては世論調査による政党支持率が各グループでの得票数に近似するため、現在のように無党派層が多い状況においては、候補者は無党派層を意識した行動をとるでしょう。

考えられる様々なメリット

選挙ごとに有権者のグループ割り当てが変わるとなれば、当然、選挙区内での癒着や利益誘導などは起こり得ません。これまでは選挙区が重複しており関係が密接だった地方議員とも選挙上の利害がなくなるため、後ろめたい金銭や利益供与等のやり取りも必要がなくなります。政治家は、今と違って選挙活動よりも政策実現のための活動を優先することができるようになるでしょう。

さらに、一票の格差問題が解消するため、選挙毎に○増○減などと、地面にへばりついた選挙区の区割り調整をする必要もなくなります(それに振り回される候補者は大変だと思います)。

そして、国民にとってのメリットの最たるものは、選挙時に重視されることが地縁や血縁ではなく純粋な候補者個人の能力・実績になる点です。結果として政治家の質が高まり、政策競争が活発になる可能性が高いと考えられます。

とりわけ若い頃から世界の第一線で活躍するような能力を持った人や移住をした人は、国内にいわゆる「地元」というものを持っていない人もいます。そのような人たちにも政治への参入機会が生まれます。自ずと多様性も高まるのではないでしょうか。今でもいわゆる「落下傘」として参入することはできますが、大変厳しい選挙戦になります。当選後に、地元の活動が忙しくて国際会議等への出席ができない議員を何人も見たことがありますが、そのようなこともなくなるでしょう。

1994年の公職選挙法改正で衆議院に小選挙区比例代表並立制が導入されたときは「民意の集約による政権選択機能」や「民意の反映機能」という二つの基本理念の下で議論が展開されました。この基本理念を最大限具現化することが技術的に可能なのであれば、成熟した民主制国家としてその努力を試みるべきではないでしょうか。

ここまで述べたメリットをまとめると次の通りです。

  • 全国民の代表者としての議員を選びやすくなり民意の集約と反映ができる

  • 政治家の流動性が高まり多様性と質の向上が期待できる

  • 政治家個人のリソースを有効活用できる(資金、時間、労力)

  • 政策本位の選挙になる

  • 一票の格差問題が解決する

そうは言ってもQ&A

他方、もちろんデメリットも生じ得ます。受け入れられない人も多いと思います。「そうは言っても」と言われそうな論点を思いつくままにQ&A形式で挙げてみたいと思います。

ー 地方の代弁者が国政にいなくなると地方が衰退するんじゃ?
私も地方出身者なので最初に頭によぎりました。しかし、これについては、やはり国会議員は何を代表するのかという根本に立ちかえるべきだと思います。地方の衰退が国全体の衰退に繋がるという考え方に立つ場合でも、自分の選挙区だけを論拠にするのではなく、国全体を見て述べてほしいと思うのです。

もちろん、国政にも地方部の実情に精通した人たちの存在は重要です。例えば、全国知事会や全国市長会、全国町村会などの地方六団体と呼ばれる協議会の役割が大きくなるかもしれません。

あるいは、今回の記事では参議院については触れていませんが、二院制の中で、何らかの形で都道府県ごとの選挙区を維持することも選択肢かもしれません。

そもそも平成5年から始まった地方分権改革によって法的には国と地方の関係は対等なものになりました。コロナ対策でも地方自治体がいかに大きな責任と役割を担っているかが明らかになったと思います。

本筋としては、地方自治を推進し、国政如何によって地方の盛衰が規定されない方向性を目指すべきなのだと思います。これにより、首長や地方議員といった地方政治家の役割が相対的に大きくなることは言うまでもありません。

ー 今の状況でも自分の選挙区の候補者が誰かわからないのに政治家がもっと遠くならない?
仮に明日衆議院選挙が始まって、自分の小選挙区が何区なのか、候補者が誰なのか即答できる人はほとんどいないと思います。多くの人が、選挙が近くなって駅前に立っているのを見かけたり選挙ポスターや選挙公報(選挙前にポストに入っている新聞のような広報物です)で初めて知るのではないでしょうか。詳しく知りたい場合はネットで検索して表示されたものを見るのだと思います。

こういったことが、デジタル技術を用いて個人認証を行うことで、アプリ等を通じていつでも確認することができるようになります。入り口がウェブなのでそのまま各候補者の情報にシームレスにアクセスすることが容易になるでしょう。

同じ情報量を得ようとすると、今だとわざわざ検索して探す必要がありますし、そもそもウェブ上の情報が少ない候補者も多いです。相対的にオンラインでの活動の重要性が高まるため、ウェブ上の情報量が増大するでしょう。豊富な情報ソースをもとにした候補者比較サイトや政策解説サイト、投票マッチングサービスなどが増加し、その精度も向上すると思います。

もちろん選挙が行われていることや、自分のグループの候補者の確認方法等を周知することが必要ですが、それさえ徹底すれば有権者の候補者情報へのアクセシビリティは向上することになるでしょう。

ー それでもやっぱり対面で会うことで人となりがわかるし、それが重要な判断指標になることもあるよ?
選挙区が地面から切り離されるといわゆる「地元事務所」というのは不要になります(お金がある人は全国に事務所を立てるかもしれませんが)。地域の会合や行事で政治家を見かけることは少なくなるでしょう。確かに対面で会える機会は減少する可能性が高いです。

しかし、よく考えてみてください。そのような機会に対面で政治家と会ったとき、どれくらいの時間を共有し、どれだけ深い会話ができているでしょうか。たまたま会うのか、支援者として会うのかで中身は変わってきます。

選挙区が地面から切り離されても政治家のアピール活動は必須なのでオンライン上での発信が増えるでしょう。いくらオンラインといっても一定のお金はかかるため、個人献金は今以上に重視されるようになると思います。そうすると献金や会費を払ってくれるような支援者(ファン)をより大事にしようという政治家が増えると思います。そのようなファン向けの対面機会は今以上に増えるのではないでしょうか。

ー 言いたいことはわかったけど、選挙制度を変えるのって無理ゲーじゃない?
たしかに法改正が必要なのでハードルは高いです。今の選挙制度で選ばれた立法者がその制度を変えようとするインセンティブはほとんどありません。

それでも、政治家個人や党の短期的な利益を超えて、国民全体の利益を考える立法者が増えると不可能ではありません。今の政治家にとっても一時的に選挙が不利になったり、これまでのサンクコストが大きいとネガティブになるかもしれませんが、将来的には政治活動がやりやすくなると思います。オンライン選挙が解禁されたことで、これまでのドブ板活動とオンライン活動の両方をやらなければいけなくなった現状より負担は軽くなるでしょう。

それに、今の選挙区の住民との繋がりがなくなるわけではありません。単なる票の融通だけの関係だったのであれば別ですが、政治家としての理想や政策に共感して応援をしているのなら投票の他にも「推す」方法はいくらでもあるのです。

また、今でも一票の格差是正のため、法律に則って選挙区割りの変更は行われています。もっと言えば、前述した通り日本は1994年にそれまでの中選挙区制から選挙制度を変えた実績があります。時代に合わせて社会の要請に従って選挙制度を変えることができるのが日本の政治家であり、日本の民主主義なのだろうと思います。

自分にとって得か損かだけを考えるのではなく、この国の将来にとってより良い選挙制度は何かということについて私たち一人ひとりが考え、社会で合意を作っていくことが第一歩だと思います。

とはいえ、現実に変わる時には、段階的に進んでいくのだろうと思います。今の小選挙区にオンライン選挙区が加わり、両方の候補者に投票するような時代が来るかもしれません。

ここまで一方的に熱く語ってしまいましたが、この記事の狙いは、皆さんからのご意見やご感想などのフィードバックをいただくことです。あらゆる政策課題の中で、選挙制度だけは政治家任せにせず、有権者が主体で議論し、選択すべきものだと思っています。誰にとって有利か不利かだけでなく、この国の民主主義の未来にとってより良いカタチを見出したい。これが、この記事を公開した最大の理由です。

以下のフォームからあなたの忌憚のないご意見をお聞かせいただけると嬉しいです。

後編では、選挙区を地面から切り離すだけでなく、セットで実装すべき国民の意思がより反映される選挙の方法これらを実現する技術面について述べていきたいと思います。次の記事の最後にもフォームを置いておきますのでお時間のある方はぜひそちらもお読みいただき、フィードバックをもらえると嬉しいです。

また、今後、このアイディアをより磨いていくために、皆さんのフィードバックを踏まえながら、関係する領域の専門家を招いた勉強会等を開催していこうと考えています。

この記事の反響次第で、取り組みを進めていく励みになります。ぜひスキやフォローをお願いします。お知り合いに広めていただくことも大歓迎です!!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?