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環境設計のための最強のネタ本 『建築の環境価値BOOK』⑤ ~実プロジェクト紹介「瑞浪北中学校」~

佐藤 孝広
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ
アソシエイト

建築の環境価値BOOKに掲載されたプロジェクト「瑞浪北中学校」のご紹介

今回、建築環境価値BOOKに写真掲載されている実プロジェクト「瑞浪北中学校」を紹介させて頂きます。
岐阜県南東部に位置する瑞浪市は、⽇本有数の酷暑厳寒地域であり、市域の70%を⼭林が占める緑豊かな⾃然環境を有しています。少子化による市内小・中学校の小規模校化を背景に、既存3校の統合により新たに瑞浪北中学校として開校しました。
中学校を新築するにあたり、「学校のゼロエネルギー化を実現し、生徒や先生の環境教育に取り込むこと」を目指し、文部科学省の平成26年度スーパーエコスクール実証事業の採択を受け、関係者一丸となり事業に取り組みました。
国が掲げるZEB施策を推進させ、全国に普及するロールモデルとなることを目指して、自然と共生し、気候風土と歴史を生かした省エネ技術の活用と、次の世代を担う子供たちへの環境教育に邁進したプロジェクトです。

気候風土と歴史の叡知に学ぶ

「学校施設のゼロエネルギー化」を図る上で、地域の持つ⾃然の恵みを最⼤限に活⽤するため、様々な環境⼿法を適⽤しました。
瑞浪市は陶磁器産業を中⼼に発展してきた「焼き物のまち」としても知られ、市内には伝統遺産である登り窯が今もなお使われています。
熱が下から上へ上がっていく特性を生かして焼き物を効率的に焼く仕組みを参考に、校舎中央に配置された階段の吹抜空間を利用して、建物全体の自然通風を促進します。また、分棟配置された校舎のうち、南棟と屋内運動場を他棟に対してやや傾きを持った校舎配置とすることで、昼間の卓越風向である南西の風を取り入れやすくしています。

図1 環境技術断面
写真1 登り窯のしくみを模した中央階段

低層で建築面積が広い建物形状を生かして、外気をピット経由で取り入れるクールヒートトレンチを採用しています。各棟最上階の普通教室で利用し、換気設備としてのみならず、外気負荷の低減も図っています。

図2 クールヒートトレンチ平面図

明るさと空気質のムラを軽減した教室

普通教室は、生徒が学校生活において一番長く滞在する空間です。従来の学校建築において普通教室の課題となっていた、換気不⾜による空気質悪化や温熱・光環境のムラなどに対し、「エネルギー消費の削減」と「快適な学習環境の実現」の両立を目指しました。
学校用途では照明の電力消費量が多い傾向にあります(※2)。積極的な自然採光を図るため、普通教室は校舎の最上階に配置し、日射遮蔽を考慮した庇のある南面に加え、安定した採光が可能な北面には高窓を設けています。北面採光が期待できない下層階は、南窓面上部にライトシェルフを設けて室奥まで光を導きます。

写真2 両面採光の普通教室

クールヒートトレンチにて取り入れた外気は温度が緩和され、教室後方のロッカー上部に設けられた、水平に細長い吹出口より、教室内に対して均等に吹き出します。

写真3 ロッカー吹出口周辺のサーモカメラ画像(夏季)

学校生活がそのまま環境体験の場に

生徒自らが学ぶ教室や校舎をいかに快適に過ごすか、季節の変化と共に日々の生活を通して体験し、当事者意識を持つことが重要と考えます。⾃動制御でエネルギー消費の最適化を図るのではなく、⽣徒たちが深く考え、自らが環境技術をコントロールすることで環境学習を⾏うことを目指しました。
温湿度やCO2濃度、電力消費量などをリアルタイムに表示する「エコモニター」を各教室に設置し、窓の開閉や照明・換気・空調などの設備機器を調整する環境調節行動を行う上での情報提供をしています。
エコモニターの他にも、五感で感じる仕組みを校内に散りばめ、エネルギーや地球環境問題を身近に感じ、楽しく学べるように工夫しました。

写真4 エコモニター
写真5 「感じる化」の仕掛け

瑞浪北中での環境価値

建築の環境価値BOOKによると、瑞浪北中学校では健康や学習効率、レジリエンスの面で効果が期待できます。

・窓から自然を眺めることで集中力が回復する。(景色を望める窓)
・断熱性能が向上し、外からの負荷を抑制することで災害時も少ないエネル
 ギーで室内環境を保つことができる(緑化・外装)
・自然換気を行うことで、災害時でも少ないエネルギーで室内環境を維持で
 きる。(自然換気)
・一人当たり換気量を2倍にすると学習効率が5%向上する。(換気)
・学校の教室において換気量を18.7m3/h/人から34.6m3/h/人に増加させると
 生徒のタスクスピードが向上する。(換気)
・健康関連QOL(生活の質)と精神的健康には季節変動があるものの、室内
 照明を改善することで季節性の症状が 緩和される。(照明)
・自然採光により、非常時は少ないエネルギーで、ある程度の室内光環境を
 維持することに貢献する。(自然採光)
・自然音環境下ではノイズ環境下と比較して心理的ストレス状態からの回復
 が9~37%早い。(音環境)
・エネルギーマネジメントシステムの設置・活用によりエネルギー使用量が
 年間11.4~16.3%削減される。(維持管理)
・木造校舎の生徒は鉄筋コンクリート造の校舎の生徒と比較して眠気やだる
 さを訴える割合が約12%低い。(建築材料)
・木造校舎の生徒は鉄筋コンクリート造の校舎の生徒と比較して注意集中の
 困難を訴える割合が約10%低い。(建築材料)
・木造校舎の教師は鉄筋コンクリート造の校舎の教師と比較して精神的疲労
 や蓄積的疲労、労働意欲の低下を訴える割合が低い。(建築材料)

豊かな自然に囲まれた学校の特性から、学習効率の向上やストレス軽減の効果に関する項目が多く、生徒のみならず教員に対しても環境価値の高い校舎となりました。


佐藤孝広
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ
アソシエイト
2015年入社。現在エンジニアリング部門設備設計グループ所属。アソシエイト。専門は機械設備設計。技術士(衛生工学部門)、設備設計一級建築士、建築設備士。主な担当プロジェクト:岡崎信用金庫名古屋ビル、富山銀行本店ビル、春華堂SWEETS BANK、大同大学X棟など。
主な受賞歴:カーボンニュートラル賞選考委員特別賞、NIKKEI脱炭素アワード プロジェクト部門大賞、空気調和・衛生工学会技術振興賞など。

クレジット情報
※1 文部科学省・国土交通省 パンフレット「学校ゼロエネルギー化に向けて」 2012
※2 佐藤・田中・小池・河野・尹 ZEBを志向した公立中学校の計画と実証(第2報)実測データに基づく運用実績の調査と評価 空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集2020.09
※写真1・2・4・5撮影:車田保


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