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「イノベーションとともにある都市」 研究会 ―vol.05 京都リサーチパーク (京都市)―

諸隈 紅花 
日建設計総合研究所 都市部門
主任研究員

イノベーション空間のレシピを用いたケース分析第3号

日建グループの「イノベーションとともにある都市研究会」(略してイノベ研)では、建築や都市開発の専門家の立場から、イノベーションが起こる(または起きやすい)空間のレシピ(要素)やその関係性を明らかにしようとしています。今回は「イノベーション空間のレシピ」を用いたケース分析の第3弾となります。レシピの解説は下記noteをご覧ください。今回は初めて日本の事例を取り上げます。

京都リサーチパーク(KRP)とは

京都リサーチパークは、京都駅からほど近い、京都市下京区にある、敷地面積約5.9ha、延床面積約20万㎡(うち賃貸面積は93,000㎡)を有する民間のリサーチパークです。もともとは大阪ガスの京都工場があった場所でしたが、1978年の天然ガスへの切り替えにより、同地が当初の役目を終えました。立地や規模的に住宅地へと転用される可能性も考えられました。しかし、大阪ガスでは、都市ガスの製造場所という公益性の高い場所の土地利用転換にあたり、新産業の創出を目指した都市型のリサーチパークとすることを決定し、ベンチャー育成にも理解のあった地元京都の企業や京都府・市の協力のもとに、1989年にKRPが開設されました。当時の大阪ガスの経営陣も、リサーチパークというアイデアに賛同し、意思決定が行われました。当初は大阪ガスから現物出資を受けた京都リサーチパーク株式会社が主体的に開発を行いましたが、現在はグループ再編により、企画・運営は京都リサーチパーク株式会社が担い、土地・建物所有者である大阪ガス都市開発から不動産を借り、テナント企業にサブリースをするモデルとなっています。

図1 KRPの位置
出典 Google Mapを元に作成

日本初の民間運営のリサーチパークとして有名なKRPですが、KRPの担当者によると、世界的に見ても民間運営のリサーチパークは珍しいそうです。また、おそらく当時としては画期的な都市型リサーチパークとして始まり、現在の世界のイノベーションの潮流である、イノベーションの都心回帰を先取りしていたとも言えます。
一方で、当時はオフィス立地として認知されていたわけではない場所で、リサーチパークというある種の賃貸オフィス業を行う上では、求心力となる施設が必要でした。地元自治体との交渉の結果、京都市が新たに設置する京都高度技術研究所(ASTEM/現(公財))」と京都市が有する公設試験研究機関である京都市工業試験場(現(知独)京都市産業術研究所を誘致し、更には京都府中小企業総合センター(現京都府中小企業技術センターおよび(財)京都産業21)が加わり、産官の連携も見られます。

図2 KRPのマップ
出典:KRPホームページ https://www.krp.co.jp/access/map.html


開設から34年が経過し、段階的な開発を経て、KRPはテナントとなる企業・組織数を増やしてきました。開設時には34機関、約500人が活動していましたが、現在は520社、約6,000人が働く、京都市を代表するイノベーション創出の拠点と認識されています。

写真1 京都の市街地に溶け込むKRP

KRPに着目するポイント

KRPに着目するポイントは「イノベーション」が不動産開発のプレミアムとして機能していると思われることであり、イノベーション創出がハード整備だけでなく、専門人材からなる組織によるソフトの取組が伴っている点です。イノベ研レシピを用いた事例分析の第1号として取り上げた世界的に有名なオランダのアイントホーフェンにある元フィリップスの研究施設から発展したHigh Tech Campus Eindhoven (HTCE)と同様な取り組みが日本でも行われているというのは、他の日本の都市にとっても、都市再生×イノベーションという観点で大きな示唆があると思い、KRPに着目しました。HTCEもKRPも、リサーチパークという箱だけではイノベーション創出には不十分であり、イノベーションエコシステムを形成するためのソフトの取組が必要であるというとても良い事例と言えます。
なお、本調査・分析には、KRPの公開資料に加え、KRPの運営や開発に20年以上にわたり関わっていらっしゃったOBの方と、KRPのイノベーションデザイン部の担当の方へのヒアリングを元に作成しています。

KRPのイノベーション空間のレシピ

イノベレシピを用いたKRPの分析結果が下図です。

図3 イノベ研メンバーで作成したKRPのイノベレシピ

レシピを見ていただけるとわかるように、KRPはほぼすべての項目を満たしていると言えます。以下で着目すべき点を解説します。

目的

KRPの目的は複数ありますが、最も特徴的なのは、ガス工場というインフラ施設の跡地転用にあたって、一民間企業の不動産事業としての収益の最大化ではなく、社会的意義のある場所への転用を図り、それが科学技術の発展という新産業の創出の場となったことです。KRPの初期の頃の関係者の回顧録等を見ると、都市型のリサーチパークがどういうものか手探りの状態からの出発だったそうで、ベンチャー気質のある京都の企業の協力も得て、ベンチャー企業を産官学連携で育てることも1つのテーマとされました。現在では、スタートアップの育成によるイノベーションエコシステムの形成も意識されており、ホームページのトップには「イノベーションが生まれる「まち」」という言葉も見られます。
また都市開発の視点からは、京都駅の西部エリアのまちづくりも牽引しています。近年は、周辺の「梅小路エリアのクリエイティブタウン化」を目指し、モノづくり、アート・デザイン、食をコンセプトに、地域の団体や組織と連携したまちづくり活動も実施しています。近くの市場場外エリアには市場の倉庫をリノベーションしたKyoto Makers Garageや中古ビルをリノベーションしたアーティストの滞在型ホテルのKAGAN HOTEL等の個性的な施設も生まれています。

写真2 古いビルをリノベーションしたKAGAN HOTELの入口

要素その1 寛容性と集積

多用途・複合
KRPには個別企業のオフィス空間の他に、ライフサイエンス系の企業が入居可能なウェットラボも備えられています。また、テナント共用の会議室や応接空間も設けられていることが、単独ではこれらの充実したアメニティ施設をもつことができない中小企業にとっては魅力的に映るということです。加えて、比較的大きな企業からベンチャー企業のような小規模な企業の入居を想定し、4㎡から1,000㎡を超えるオフィスまで様々な規模のオフィスが提供可能なことも多様な集積を生むことにつながっています。
立地がオフィスに適していなかったとしても、質の高いオフィスを、時代のニーズを捉えながら、段階的に開発することで、着実に地域価値を高め、今では高い稼働率を誇っています。開設当初から、周辺は一級のオフィス地区ではありませんでしたが、京都の他のオフィスエリアと同様の、周辺に比べると格段に高い賃料を得ることができています。
また、テナントの集積を生かして、交流による新たなイノベーションの創出、或いはテナント企業と京都大学をはじめとする京都に集積する様々な大学やスタートアップ企業との交流ができるような大規模なホールや、企画持ち込みのイベントも実施できる「たまり場」という小規模でアットホームな交流スペースも用意されています。

写真3 明るい雰囲気のホールエリア
写真4 外部の人も無料で利用できるイベントスペースの「たまり場」。
イベントがない時はコワーキングスペース的にも活用されています。

2021年に竣工した10号館は、五条通に面しており、1階部分にはおしゃれなレストランが入居するフードエリアのGOCONC(ゴコンク)が整備されています。これはテナント企業の飲食のオプションを広げるだけでなく、イベントの開催ができたり、ちょっとしたワークスペースとして使えたりできる空間となっています。また、外部からのアクセスができる沿道にあるため、KRPのテナント以外の人でKRPの企業と協業したい人だけでなく、一般の人にも開かれた場所となっています。

写真5 イベントに使えるモニター等の設備も完備されているGOCONC内のレストラン

多様な人材と業種
約520組織、6,000人が働いているという事実からも、一企業当たりの人数が小規模であることがわかります。2000年代頃は、京都市内では珍しい高速インターネット回線やデータセンターの整備により、IT系の企業が多く入居しました。現在もIT系が多いながらも様々な業種が立地しており、近年ではバイオやヘルスケア企業の集積も進行中です。KRP内でイノベーション創発の担当の方は、京都大学等の専門家の協力を得ながら、コミュニティ形成活動も並行して行っており、京都は伝統的に酒や麹の文化があることから、バイオ系も盛んになっています。
近年のイノベーション創出のドライバーと目されているスタートアップについては、オフィスの賃料が比較的高いため、KRPのシード期のスタートアップはほとんど見られませんが、スタートアップ支援の重要性は認識されており、後述しますが、様々な支援や取組が行われています。一方で、KRPには京都市内では珍しく、約820台分の駐車場があり、テナントの中にはイノベーションやスタートアップエコシステムとは必ずしも関係がなく、駐車場やデータセンターなどのハードに魅力を感じKRPに入居している企業も一定割合、存在します。テナントを選別せずに、必要な空間を求めるテナントに適切な賃料で貸し出すという点に民間の不動産事業としての手堅さと、多様性を重視した開発方針が伺えます。

パブリックアクセス
都市型リサーチパークであり、公共交通アクセスは良好です。新幹線の京都駅からタクシーで約10分程度、最寄りのJR丹波口駅からは徒歩5分の距離にあります。
リサーチパーク自体は塀や柵で囲まれておらず、一般の人にも開かれているエリアもあります。もちろん個々のオフィス空間はパブリックアクセスが制限されて、セキュリティが保たれています。建物の1階にはホールやアトリウム、飲食施設といった施設が配置されており、外の人もふらっと立ち寄れる構成になっています。特に最近竣工した10号館は、五条通にも開かれた空間として整備され(GOCONC)、通り沿いにはコリドーがあり、通行する人が飲食施設内でのイベントが行われている様子等も見ることができ、まちに開かれた空間となっています。

写真6 GOCONCのコリドー空間。
沿道には複数の飲食店があり、KRPのテナント以外の利用も可能となっています。

要素その2 連携・ネットワーキング

コーディネート・マッチング
KRPには不動産賃貸業を主に行う部署の他に、イノベーションデザイン部というイノベーションのエコシステム作りをミッションとする専門組織があります。この組織構成には第1回で取り上げたHTCEとの類似性が見られます。イノベーションのテーマ等の専門性に関わる部分は、無理に自前で解決せず、京都大学やベンチャーキャピタル(VC)等の外部の専門家と協力をしています。イノベーションデザイン部では、テナント同士のマッチングの機会提供やイノベーション創発のためのコミュニティ形成の取組を積極的に実施しています。
取組の一つにはテナント同士のビジネスマッチングがあります。KRPとしてはあくまでもテナントの発意を尊重しており、大学の先生等に技術的なアドバイスをもらいながら、協業の可能性がありそうなテナントを引き合わせています。テナントの連携の意向等は、KRPのスタッフがテナントとの日々の会話の中で拾い上げる、という地道な努力によっています。
2つ目には、創業のためのコミュニティ形成です。これはプログラム化されているわけではありませんが、KRPで創業し、事業を拡大した成功企業が入居するオフィス棟もあり、KRPコミュニティの先輩のような存在がパーク内にいる、というところが一つの特徴です。これらの成功企業の中には、自らがベンチャーに投資する側に回った企業もあり、30年かかってイノベーションエコシステムが一つ回転した、というお話もありました。
3つ目にはスタートアップとVC等の投資家や大企業、専門家をつなぐイベント等を数多く仕掛けていることです。イベントは年間で約170と数多く実施しています。KRPの通常のエリアの家賃は決して安いわけではないので、家賃負担力が低いスタートアップの入居はあまりありませんが、KRP内にはスタートアップが入居できるインキュベーションエリアがあり、スタートアップの財政状態に配慮して家賃が廉価に設定されています。また、京都市・中小機構とアライアンスを締結しており、公的インキュベーターを卒業し、審査に通過した企業に対しては京都市とKRPで賃料負担・減免する制度を設けています。 また、KRPの中にスタートアップエコシステムを作る試みとして、京都近郊をベースとしているスタートアップ企業を日本、或いは海外に拠点のあるVCに紹介するピッチコンテスト等を開催することで、KRPがスタートアップとVCの接点としての機能の一翼を担っています。例えばKRPでは、ヘルスケア企業の集積を生かして、Healthcare Venture Conference Kyoto HVC)というピッチイベントを毎年開催していますが、公募で参加者を募集しています。日本だけでなく海外からのスタートアップの参加もあり、これまでに、参加者は累積で300億円の出資を受ける等の実績を生んでいます。ピッチコンテストの内容自体には極めて専門性が高いため、KRPでは大学の先生等の協力を経て専門性の評価部分を補っていますが、京都には数多くの大学があることが、これらのリソースの積極的な活用の背景にあります。
最後に、ユニークな活動としてテナント同士の交流を促すためにサークル活動への支援も行っています。菜園クラブ、将棋サークル等、実ビジネスとは直接関係のないレクリエーション活動の場の提供と活動費の補助も行っています。特にライフサイエンス系企業の人は、サークル活動にいそしむ人が多いそうです。

仮説ベースでの実証実験
KRPは、京都府の京都ビッグデータ活用プラットフォームの活動の一環として、様々な企業が参加し、KRP地区にセンサーやサイネージなどを設置して人流の測定や行動変容を図る「スマート街区実証WG」に協力しました。
また、KRPの一つの特徴として公的な検査機関(京都府中小企業技術センター、京都市産業技術研究所)があるため、テナント企業の新製品や技術などを検査することで市場化への準備を行う場としても機能していると考えられます。

ハイブリッドなネットワーク
先述のようにKRP中には様々な交流の場と実際のイベントやサークル等の機会が提供されているので、テナント同士の交流の機会は一定程度担保されています。
さらには、KRP外部の世界とのネットワークの機会もあります。KRPでは海外のリサーチパークとの連携もあるため、例えば香港のリサーチパークからピッチイベントの参加枠としてKRP用に2枠を確保いただいたり、台湾やイスラエルのリサーチパークのテナントとKRPのテナントとのマッチングを行ったりしたなどの機会も生まれています。

要素その3 アフォーダビリティとサステナビリティ

パトロン・民間資本・財団
KRPは京都市内でも比較的、賃料水準が高いエリアですが、KRP BIZNEXTというサービスオフィスのラウンジ利用であれば、スタートアップが廉価な家賃で入居することも可能です。また、先述のように、KRPの運営会社がスタートアップと投資家を結び付けるイベントを開催し、スタートアップの資金調達の機会を提供する等、間接的にもスタートアップ支援を行っています。

政策支援・PPP
最も大きな政策支援は、KRP開設時に京都府と市の産業支援機関がKRPという新たにできるリサーチパーク施設に立地し、様々な企業が集まりやすい素地を作ったことと言えます。
また、近年のスタートアップへの支援の面では、京都市が選定したスタートアップ企業に対して、半年間ほどKRP内のサービスオフィスを無料で使わせるという助成制度があります。

リノベーション・ブラウンフィールド
もともとガス工場であったため、ブラウンフィールドの活用事例と言えます。一方で、建物自体は新しく建てられました。

写真7 KRPの10号館の建物
出典 KRP

要素その4 場の固有性

有形(自然環境・景観・歴史的建造物)
前述のようにKRPの建物はすべて新築です。しかし、最近竣工した10号館の建物では、京都らしさがデザインの随所に取り込まれています。例えば10号館の1階のエントランスホールは、東西に通り抜けができるようになっており、京都の町家の「通り庭」に見立て、中央エリアにはトップライトから光が注ぐ光庭がしつらえられており、現代的なオフィスビルの空間に、京都ならではの町家の空間構成が反映されています。また、エントランスホールに配置されているアルミ鋳物の装飾パネルは、伝統柄である麻の葉の文様やと草花文様が用いられており、京都市内を流れる川と四季の移ろいを表現しています。その他にも土壁や和紙を装飾壁やサインに使う等、伝統的な材料を用いて、ともすれば無機質になりがちなオフィス空間に京都らしさを添えています。

写真8 京町家の通り庭に見立てられた10号館のエントランスホール

無形(産業・歴史・文化)
KRPの一番の無形資産は「京都ブランド」ではないでしょうか。京都は、日本の都市の中でも、東京とならんで海外への知名度が最も高い都市の一つです。KRPにオフィスを構える外資系企業は、京都にオフィスがあることで、グローバル本社のCEOに興味を持ってもらいやすいというメリットもあるそうです。
またテナントの日本企業の中にも、企業の成長とともに東京に転出したものの、京都への愛着から再びKRPに拠点を置くというケースもあるそうです。京都が持つ様々な魅力がKRPの無形資産として生きているのではないでしょうか。
もう一つ重要な無形資産は、京都大学をはじめとする学術機関が集積する京都ならではの人材の豊かさです。企業が成長する上で人材の確保は永遠のテーマです。京都市内には36もの大学があり、優秀な人材のストックが一つの長所です。近年、企業側にも優秀な人材を採用しやすい立地や環境が重要視されてきており、LINE、Sansan、サイバーエージェント等の東京のIT企業も京都に拠点を置くようになっています。KRPに、将来有望な企業が生まれることで、これらの京都市内の大学を卒業した学生が東京に行かずにすみ、地元における雇用機会の充実にも貢献することが期待されます。

新しい文脈の構築
歴史都市として知られてきた京都市の中に、新たな産業を創出し、イノベーションを生む場を形成するためのリサーチパークを作ること自体が都市の中に新しい文脈を構築する行為と言えます。イノベーションを創発するためにKRPは、創業・起業の先輩がいるオフィス棟や、テナント間の交流、ひいては協業を促すようなサークル活動やイベントの実施等の開催等、様々なレベルでの絶え間ないネットワーキング活動を実施していると言えます。

KRPの意義:民間の不動産賃貸事業の枠組みの中でイノベーションの場を形成している点

KRPの担当の方との会話の中からしばしば感じるのは、京都や関西圏におけるイノベーションの場になろうという気概と、一方でそれが会社の慈善事業的に利益度外視で実施されているわけではない、ということです。KRPは世界的にも珍しい民間が運営するリサーチパークであり、KRPの事業の根幹はテナントにオフィス空間を貸す不動産賃貸事業です。当然、投資に対するリターンが求められ、かつ作った床をどれだけ高く貸せるか、ということが重要な指標の一つになります。KRPの中でも利益を確保するというところは明確に認識されていますが、一方でイノベーションデザイン部の業務のようにイノベーションを起こす様々なプレーヤーをテナント以外も含めて呼び寄せて、コミュニティを作るということが専門の組織のもとに明確に実行され、「不動産の付加価値事業」的に展開されていることが非常に興味深い点です。
この点はHTCEの組織とも似ており、ハードを作ればイノベーションが生まれるというのではなく、イノベーションを生むためのソフトの活動の充実が行われていることが重要なポイントであり、HTCEもKRPもその点を認識しています。
KRPの賃料は、もともとはオフィス立地として認識されていなかった場所であるにも関わらず、他の既存のオフィス街と変わらない賃料で貸し出すことができていることからも、KRPが単なる民間オフィス開発や公的資金に支援された研究施設でもなく、イノベーションの場であるということが、長期的に見れば地域や就業環境の価値を高めていると考えられます。
このようなビジョン・ドリブンの事業が成功した要因として、プロジェクト・デザインの的確さとともに、それを支える「プロジェク企画時期に通勤沿線の企業をしらみつぶしに訪問した」に象徴される担当職員の方々の地を這うような努力と、長期の観点からプロジェクトを見守る守護神としての経営者の重要性を実感することができました。

<主要参考文献>
KRPホームページ, https://www.krp.co.jp/
KRP提供資料, 「京都の新産業創出拠点 京都リサーチパーク」(2021年7月受領)
KRP Official Book 2022,
https://www.krp.co.jp/news/img/official_book_low.pdf
KRP 地区開設25 年記念対談「新たなイノベーションを創出し続ける京都“ i Hub KRP ” の基盤を成す〈集・交・創〉 京都のエートスが培う〈人財・科学・技術・産業〉をキーワードに語る」(平成26年),
https://www.krp.co.jp/assets/img/outline/index/krp25thtalk.pdf
大阪ガス都市開発プレスリリース(2021年), 「京都市内 10 年ぶりの大規模賃貸オフィスビル「KRP10 号館」竣工」,
https://www.krp.co.jp/news/img/210315%20KRP10%E5%8F%B7%E9%A4%A8%E7%AB%A3%E5%B7%A5.pdf
Kyoto Makers Garageホームページ,
https://kyotomakersgarage.com/about/

イノベ研の主要メンバーはこの4人です。

諸隈 紅花(執筆者)
日建設計総合研究所 都市部門
主任研究員
博士(工学)。専門は歴史的環境保全、公園の官民連携による活性化。古いものが好きですが、実は新し物好きでもあり、その最先端のイノベーションが都市にどう表出するかに関心があります。

石川 貴之
日建設計 執行役員 企画開発部門 新領域開拓グループ
プリンシパル
専門は都市計画。大規模再開発やインフラシステムの海外展開業務を経験する中で、様々な地域と組織で人や技術が繋がり、新しい空間やスタイルが生まれる「イノベーション」の空間や仕組みに興味を持っています。

中分 毅
元日建設計副社長。40余年の日建グループでの勤務を経て退任。「工場移転跡地を研究開発をテーマとして再生する」プロジェクトに30年程前に参加したのが、イノベーションに関心を持ったきっかけで、その道の達人から教えを受けた「発展的集積構造」に関心を持ち続けています。

吉備 友理恵
日建設計 企画開発部門 イノベーションデザインセンター
2017年入社。共創やイノベーションについてのリサーチを行いながら、社内外の人・場・知識を繋いでプロジェクトを支援する。
共創を可視化するツール「パーパスモデル」を考案(2022年出版)。


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