[ 最初で最後の我儘 ]:毎週ショートショートnote(新説なピン札)
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こんな人がいてくれたのなら……って架空の国のお話です😊
彼の行った大胆な経済政策により、滅びそうだったこの国は息を吹き返した。
「私の父は偉大な政治家でした」
若くして国の指導者となった青年は、大勢の民衆の前で演説をしている。
「父は、志半ばで凶弾に倒れました。さぞ、悔しかったことでしょう」
彼の父親は、彼が幼かったころに暗殺された。
「私は、皆さんの力もお借りしてここまでやってこれました。それもこれも、ある男性との出会いがあったからです」
青年は幼少期の話を始める。
「男性は、私に言いました。『偽善者にはなるな』と、そして『お金を大切にしろ』と」
それは父を失い、悲しい日々の思い出。
「以来、私は、経済学を始め哲学、社会学など、学ぶことにお金と時間を使い、学べるだけ学びました。そこで分かったことがあります」
青年は込み上げる気持ちを抑えてから、思いを口にした。
「父は間違っていなかった、と」
静かに聞いていた民衆の中から、小さな拍手が起き、やがて全体に広がった。
青年は、頷きながら民衆を見渡した。
そして、力を込めて言う。
「私は、父が構築した経済理論を実行することで、まだまだ道半ばではありますが、この国を上昇させることができました」
民衆の声援にも、力がこもる。
「これは間違いなく父の功績です」
”そんなことないぞー!!!”
”あなたのおかげよー!!!”
民衆から声が上がる。
声がした方に軽く笑顔を向けてから、若き指導者は演説を続ける。
「私は、この事実を何かの形で残したいと思いました。斬新で今までなかったアイディアを持った父の功績を残すために適したものはなにか、それを考えました」
後ろにいた秘書から、布に覆われた物を預かる。
「もう、この時代、お札を使う人は少ないかもしれない。だからこそ、私は、父の功績を残すために、敢えてこのお札を作りました」
青年は布を取り、額に入れた作りたてのお札を高々と上げた。
「父の肖像が印刷された、たった一枚のお札です。裏面は、手を取り合う国民の皆様です」
透明の額の裏面を民衆に向けた。
「流通させるのではなく、その功績を讃えるためだけの、新しい意味を持ったお札です」
民衆から大声援が上がった。
「厳しいご意見があることは承知しています。でも、これは最初で最後の私の我儘です。どうぞ許していただけると幸いです」
民衆は、声援と拍手で応えた。
「以上で、私の最後の演説を終了いたします。今まで、本当にありがとうございました」
ひときわ大きくなった民衆の声を浴びながら、青年は空を見上げた。
(とうさん、僕は、やったよ)
その空は、少し滲んで見え、やがて頬を伝ってこぼれていった。
青年は、熱狂的な民衆に手を振りながら、演説台から降りた。
そして、任期満了により、若き指導者としての仕事を終えた。
おしまい。
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