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【読書記録】ザ・空気

おすすめ度 ★★★★☆

初めて戯曲というものを読んだ。友人が表紙の装丁をしていたので読んでみたのだけど、なかなかゾワゾワする話。
読みながら徐々にゾワゾワが高まり、最後にゾゾゾッとして終わった。(はて、何も伝えられてないぞ)

個人的に、登場人物の名前を覚えるのがとてつもなく苦手なので、セリフベースの戯曲の読み方には苦労した。
登場人物紹介のページを行ったり来たりして、途中から諦めて、主人公の名前だけ覚えてりゃええわ、の気持ちで読んだ。
それでもしっかりゾワゾワできたので、話の展開がうまいということなんだろう。戯曲にそういう評価をするのが正しいのかわからんけど。


報道の自由、がテーマになっている。政権批判を含むテレビの特集が、放送直前になって色々、そりゃもう色々とダメ出しが入り、中から外からゾワゾワと圧力がかかってくる。
セリフだけなのに、その空気感が伝わってきて、主人公の編集長が追い込まれていく感じが恐い。まさにザ・空気。

これはノンフィクションなんじゃないか?と思っちゃうようなリアルさは、セリフだけで進む戯曲ならではなのかもしれない。それぞれの台詞回しが本当に「ありそう」なのだ。
プロデューサーっぽい逃げ回り方、面倒だから忖度しちゃおうという若手、経営層がいいそうなやんわり圧。

私はあまりテレビを見ないから、あまり知った口は聞けないんだけど、この戯曲が書かれた2017年は、確かに政権の力が今より強かったような気がする。
今確認したらトランプさんが大統領になったころだ。まだ7年しか経ってない。すごく昔のような気がするのに。
7年の間に、マスコミの公平性に疑問を持つ人は増えたと思うし、コロナ禍を経て、Youtubeなどで自由に発言する人も増えた。一長一短だとは思うが、情報の出どころは狭いより広いほうが良い。


公平な報道なんて、どっちから見るかによる。万人にとって公平というのは実現し得ないのかもしれない。
それでも、このザ・空気の世界は怖い。

ストーリーの中に、少しずつセリフを変更するシーンが出てくる。ドイツ人のインタビューの翻訳を「クレイジー」から「おかしい」に変えるなど、ほんの微妙な差だ。
最初はそんなもん気にせんでも…と思うようなことだけど、それがジワジワと怖くなっていく。
実際ちょっとしたところから印象操作って始まるんだと思う。そして空気が変わっていく。怖い。

私たちが見ている情報は、誰かが撮影したもの、取材したもの、編集したものだ。何を見て、何を信じるかは、わたしたちが選べる。
だからこそ、盲信しないように気をつけたい。
空気を感じすぎないように、したい。

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