見出し画像

【読んだ】木陰の物語は、木陰で静かに読みたい本だ

おすすめ度 ★★★★★

木陰でポカポカな気持ちになれる

著者の団士郎さんは児童相談所・障害者相談施設で長年心理職をしてきた方だ。
ご本人が描くイラスト付きで、短編のエッセイが綴られている。

様々な問題を抱えた家族の話、自分の日常で起きたことなど内容は様々だが、じわっと心に染み込むような話ばかりだ。

エッセイと言うより、詩に近いかもしれない。
短い言葉で、無駄に語りすぎること無く、読んでいる側に考えさせるような一言をくれる。
今8巻目まで読んできたが、読むたびに心が温まる。

陳腐な表現だけど、それ以外に言葉が思いつかない。
お味噌汁飲んだ時とか、湯船に浸かったときのような温かさに満ちるのだ。

絵が好き

こんな味わいのある絵のおかげで、深刻な話もすっと読ませてくれる。
一節ごとに絵が描いてあって文はとても短い。

その分一つずつの言葉の力が強い

ハウツー本とは違う、子育て本

今日読んだ8巻に、いつもと違うテイストの話があった。
「木陰の物語」自体についての話しだ。

「木陰の物語」は難しい!
そういう人があると聞いた。
もっと簡単でないと、親には読めないという。

一段落がこのくらいの文字数で、話が進む。
短いので、全部引用したくなるんだけど、それはあかんので概要を書くと、

簡単なハウツー本のような子育て本がベストセラーになることもあり、そういうものが求められているんだろう。
しかし、子育てが簡単になることなどあるのだろうか?

また、もっと身近でわかりやすい話題を描いてほしいという意見に対してはこう述べる。

親は本当に、
その時その場の
取扱説明書のようなものが
さらに欲しいのだろうか?

家族は、一つのことだけ片付けてクリアしていけるほど単純なものではない、と著者はいう。

本当にそうだと思う。

〇〇する子育て、〇〇するだけで劇的に変わる、こうすれば〇〇になる!…

子育てに悩んだ時、そんなハウツー本やネット記事をついつい読み漁ってしまうことがある。
だけど、それが効果的だった記憶はほぼない。

ハウツー本はあくまで一般的で汎用的なことを描いてある。
「ふーん、なるほどねー試してみようかな」程度にはなるけど
それ以上深く刺さってはこない。

子育てには、自分が育てられた経験が影響するし、夫婦の関係性などこれまでの積み重ねが複雑に入り組んでいる。

親がいて、兄弟がいて、夫がいて、夫の家族がいて、子どもがいて、…さらにそれぞれに人間関係があって。
それが家族だ。

木陰の物語は、「まさに自分にも当てはまる!」という状況が描いてあるわけではない。
アルコール中毒の家族や、虐待を受けて育った子、不登校、障害、離婚やDVの話など、自分に縁のない話も多い。

だけど、どこかで共感できるような、他人事と思えないような部分がある。
無意識のどこかに響くような不思議な感覚がある。

自分とは違う人がどう生きているのか知ることで、自分がどう生きているのかを立ち止まって考えられるのかもしれない。

本を閉じた後に、しばらく静かに考えたくなる。

この記事が参加している募集

#読書感想文

187,194件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?