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【読んだ】この世にたやすい仕事はない

おすすめ度 ★★★★★

想像を超える面白さ

お仕事もの、と思って読んでみたら、めちゃくちゃ面白い小説だった。
Amazonのリンク貼ろうとして、説明文見たら、芥川賞作家さんなんだ。納得。

5つの仕事にまつわる短編で、それぞれ話が繋がっている。

全部「そんな仕事ありえなくない?」と思うほどマニアックな仕事なのだけど、描写がリアルなので本当にある仕事のように感じてしまう。
実際ある仕事なのかわからないまま読んでいたら、Amazonの説明で、著者が作り出した架空の仕事だと判明した。そうかぁ。

とてつもない描写の細かさ

主人公は、長年働いてきた仕事を燃え尽き症候群のような形で辞めてしまい、その後ハローワークに紹介された仕事を転々とする。

それぞれ簡単そうで退屈そうに見えるけど、色んな体験を通してじわじわと「面白そう」「難しそう」「しんどそう」な面が見えてくる、というお話。
ただ、この小説の魅力はあらすじでは表せない。

とにかく、とてつもなく描写が細かいのだ。

登場する職場の人や近所の人の見た目や服装、喋り方や仕草まで、見てきたかのように細かく描かれている。
フィクションでこんなの書けるってどういう感覚なんだろう?全然わからない。

普通は細かい描写が多いと退屈になるんだけど、どんどん読み進めてしまうのもすごい。

例えば最初の「みはりのしごと」では、とある人をモニターでひたすら監視する。
その人が見ていた美味しそうなソーセージのチラシを、主人公も見て「買いに行こう」と思うんだけど、結局買えなくてしょんぼりする。

出来事だけを書くとそれだけなのに、ソーセージの写真や金額、ウキウキで買いに行った主人公の心理、スーパーでの店員さんとの会話などが体験しているかのように細かく描かれている。
自分もソーセージが食べたくなるし、買えなかったことを残念に思えてくる。
監視対象の人がソーセージを買えて、むしゃむしゃ食べているのを見るシーンでは、無性に悲しくて腹立たしくて「この仕事、しんどい!!」ってなってしまう。
共感を超えた、憑依みたいな感覚に陥る。

いや、ならんやろ。って思うかもしれないけど、なる。
読めばわかる。

ファンタジーというよりミステリー

話はそれぞれ短編なのだが、それぞれに不思議さが漂っている。
いや、不思議を超えて不気味といっていい。

Amazonの説明文では「お仕事ファンタジー」と書いてあったが、ファンタジーという可愛い話ではない。

何気ない描写の中に違和感を感じる会話や仕草があり、じわじわ不安を駆り立てる。
SFのような、推理小説物のような、ホラーのような。

その不気味さは、話を追うごとに強くなってくる。
最後の「大きな森の小屋での簡単なしごと」なんて、タイトルから不穏だ。
会話や森の様子など細かい描写が、最終的にミステリーのキモになってくるところなんかは、まさに推理小説っぽい。

怖い話は苦手なので、できるだけ家族が家にいるときに読むようにした。
最後まで読むと、そんなに怖い話ではないのだけど。

この世にたやすい仕事はない

最後に主人公は、長年してきた仕事のことや、そこでの感情、これまで出会ってきた人について改めて考える。

憑依、というかもはや主人公の守護霊みたいに、色んな仕事を体験した気分でいるので、「ほんとにどんな仕事でも色々あるんやなぁ」とため息がでる。

めちゃくちゃ稼げる仕事でも、単純労働に見える仕事でも、きっと色々あるんだろう。
一緒に仕事をしているあの人やその人にも、きっと色々あるんだろう。

小説の最後の言葉が、全部読んだご褒美のように沁みてくる。

どんな穴が待ち構えているかは預かりしれないけれども、だいたい何をしていたって、何が起こるかなんてわからないってことについては、短い期間に五つも仕事を転々としてよくわかった。
ただ祈り、全力を尽くすだけだ。どうかうまくいきますように。


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