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【読書記録】跳びはねる思考

おすすめ度 ★★★★★

とても、とても失礼なことを書くけれど、まず自閉症者が文章をかけることに驚いた。
同時に、自分に「自閉症者が文章をかけるはずがない」という偏見があることにもショックを受けた。

僕は、二十二歳の自閉症者です。人と会話することができません。僕の口から出る言葉は、奇声や雄叫び、意味のないひとりごとです。普段しているこだわり行動や跳びはねる姿からは、僕がこんな文章を書くとは、誰にも想像できないでしょう。

僕と自閉症

自閉症者が書いた本ということは知っていて、「きっとすごく独特な文章なんだろうな、読めるかなぁ」なんて決めつけていた自分が恥ずかしい。
とても理性的で、静かな文章。
ページをめくるたびに、自分の思い込みや偏見がぶっ飛ばされる気がした。

自閉症と思われる人が、ブツブツいいながら歩いていたり、急に叫んだりするのがずっと怖かった。小学校の朝礼でも、道を歩いていても、見ないようにしていた。

小さい頃の僕は、普通になった自分を想像するたび、胸が苦しくなっていました。このままの僕ではだめだという気持ちが強かったのです。
幸福な自分を想像することで、今の僕は、本当の自分ではないと思いたかったのでしょう。僕は他の誰かになりたかったのです。

「想像上の僕」

僕は、まるで壊れたロボットの中にいて、操縦に困っている人のようなのです。

インタビュー①

そんな風に考えていたなんて想像もしなかった。私は彼らを恐怖の対象としか思ってなくて、同じ人間だと思ってなかったのだ。
読み進めるたびに、自分の認識が恥ずかくなった。


ただ、自閉症者が書いている文だからすごいわけではない。内容も的確で、わかりやすく、ハッとさせられる。無駄な装飾やカッコつけた感じがなく、真っ直ぐな文章。

僕にとっての記憶は、線ではなく点のようなものだからです。十年前の記憶も昨日の記憶も変わりはありません。
失敗した事自体は覚えていても、いつ、どんな失敗をして、自分がどうしなければいけなかったのか、記憶が繋がらないのです。

「障害を抱えて生きること」

でもどこか詩的な表現があったり、哲学を感じる部分もある。

誰にも気持ちをわかってもらえなかった頃、僕は、まるで暗い洞窟の中にいるように、ただ寂しかったです。
話ができなければ、人からは言葉がわからないと判断されます。そして、話しかけてもらえなったり、自分とは違う世界の人のように見られます。

「言葉」

僕が動き回っているとき、魂に許可はもらっていません。魂もあきれていることでしょう。
だから、時々僕の体から飛び出すのです。

「魂」

全部引用したくなるくらい、言葉の選び方が秀逸で、印象的だった。
どうしてこんな表現ができるんだろう。

著者が会話によるコミュニケーションができないことが理由かもしれない。
会話のように流れて消えていくものではないから、とても慎重に、丁寧に言葉を選んでいるのだと思う。
健常者が安易に言葉を口から出すのと違って、自分と向き合い、自分の中で言葉を咀嚼しているんじゃないか。
そういう向き合い方が常人のレベルとはかけ離れているのだろう。

僕がなぜ、わかりづらい質問にも答えられるのか、それは、誰かの会話を耳にするたび、いつも自分なりの意見を、ひとりごとみたいに心のなかでつぶやき続けてきたからです。

「質疑応答」


最後にある、佐々木俊尚さんの解説も胸を打つ。多様性を認められるようになりたいと思いながらも、ステレオタイプから脱却することは難しい。
この前読んだ「目の見えない人は世界をどう見ているのか」でも感じたけど、社会には色んな人がいてそれぞれ見ている世界が違う。
当たり前のことなのに、まだまだ凝り固まっていることを自覚させられる。

人間はひとりひとり違うのだから、すべてを知ろうとするのは不可能だし、傲慢だ。
それでも自分以外の世界の見え方を知るたびに新鮮な驚きがある。
少しずつ、世界を広げて、寛容になりたい。

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