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【読んだ】世界は分けてもわからない

おすすめ度 ★★★★☆

数カ月ぶりに読む福岡伸一さん。
大好きな「生物と無生物のあいだ」の続編らしい。

個人的には「生物と〜」のほうが好きかな。ちょっとこっちのほうが難しい。(化学が分かる人はこっちのほうが好きかも)

世界は分けてもわからない、というのがどういうことなのかを、色んな角度から説明している。
化学物質から、コンビニのサンドイッチから、とある芸術作品から。
難しい話もあるし、観念的なところもある。面白いけど、よくわからない。わからないけど面白い。


鼻はどこまで鼻なのか

腑に落ちたのが、鼻の話。
もし「鼻」を移植すると考えた時に、一体どこまで切り取れば、「鼻」が摘出できるのか。
外から見える尖ったところだけでは足りない。
鼻の奥にある神経線維、その奥の嗅球という場所まで切り取らなければいけない。それでも嗅覚はそこで終わりではなく、匂いによって危険や魅力を判断する器官も要る。さらに、判断した後に動かす筋肉、骨などと協調する仕組みも必要になる。

外科医のメスは、身体中をくまなく巡り身体から嗅覚という機能を切り出すためには、結局身体全体を取り出してくるしか無いことに気付かされることになる。つまりこの思考実験で明らかにされることは、部分とは部分という名の幻想であるということにほかならない。

第五章 トランス・プランテーション

人体は、機械の部品のように、ガチャンとはめ込めるパーツでできているのではない。というのが「分けてもわからない」に繋がる。
一つの受精卵が生成分化して、グラデーションのように変化して、命ができている。
個々の命だけではなく、世界全体がそうなのではないか。

膵臓がバグると超怖い

膵臓はあまり有名な臓器じゃないけど、実は消化酵素を作り出している大事な臓器なのだそう。
話のメインは消化酵素によって細胞が壊される仕組みなのだけど、ゾッとしたのが「消化酵素は、うっかりすると自分の内臓を消化してしまう」という話だ。

正常なときは、消化酵素は膵臓の細胞から正しい方向に分泌され、正しい管を通って消化管内に放出される。
しかし何か異常が起きて、消化酵素が間違った方向に流れてしまうと、消化酵素自体は「食べ物だろうが体内の細胞だろうが、タンパク質は分解!」というスタンスなので、身体を消化してしまう。

怖い!想像しただけで怖い。
急性膵炎はとてつもない痛みだと聞いたことがあるけど、まさかこういう仕組みで起きていたなんて。
人体の仕組みはすごく賢いようで、時々とんでもないバグがおきるので、信用ならんわ。

天空の城

8章以降の話は、繋がっている。
「生物と無生物のあいだ」でも面白かったけど、研究室で起きる人間ドラマ。研究内容は難しくてわからないけど、その研究をしているのは人間なのだと感じさせてくれる。

権威ある博士と、そこに現れた天才的な実験手腕を持つ研究員。世紀の大発見が発表された直後に実験が捏造されていたことがわかる。
捏造が発覚する瞬間から研究が瓦解する様子は、ハッピーエンドにならない映画を見ているようでハラハラ切ない。

エピローグには、これまでの章のテーマを散りばめながら、一連の事件に想いを馳せていく。言葉の選び方がほんとに上手い。情緒的でありつつ計算されている感じ。すごく好き。

分けてもわからないと知りつつ、今日もなお私は世界を分けようとしている。それは世界を認識することの契機がその往還にしかないからである。

あとがき

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