戦争と平和のデザイン

10 数年前のこと。当時一緒に仕事をしていたディレクターは怒っていた。どういう経緯だったのか全く覚えていない。
「あなたは、デザインを何だと思っているの?」と、すごい剣幕だった。

私はその問に対して「課題を解決すること」と答えようとしたことは覚えている。当時そう思っていたから。

けれど「課題を...」といった時点で「課題?は?」と矢継ぎ早に言われたので、面倒になって言うのをやめた。私はよく言葉をのみこむ。

そのディレクターがデザインを何だと言ったのか覚えていない。その問の答えについては何も言わなかったかもしれない。


 デザインとはよりよく生きるための方法

とは、佐藤雅彦の著書『 考えの整頓 』の言葉だ。

私は今、デザインは人が前向きに、よく生きるため方法だと思っている。少なくとも、私のデザインはそうありたいと思う。

それは 10年前に思った「課題を解決すること」と少し違う。課題を解決することに拘りすぎると、大切なことを見をとしてしまうのだ。だってデザインは、その設計によって人を傷つけてしまうことがある。
たとえば、こんな風に。


設計が不十分なことで苦痛を強いられるデザイン

使い勝手の悪い UI デザインや、魅力的でないビジュアルは人を不快にする。しかしそれだけではなく、人を死に導いてしまうものもある。たとえば「内開き」の非常口。

火事がおこったとき、煙の中で人は逃げる。パニック状態になると、ほとんどの人が非常口を押して開けようとする。人間の習性なのだろう。するともし、非常口が「内開き」だった場合、「内開き」の戸を押し続けて、そのままそこで命を落としてしまう。意図してそうなると言うよりは、考えが及ばなくて起こってしまう悲劇だ。建物の都合に合わせて最適な「内開き」の非常口は、何らかの別の課題は解決していたのかもしれないが、非常口としては機能していない。※ 1


何らかの思想の元で意図して苦痛を強いるデザイン

誤タップを誘うバナー広告。詐欺を信頼させるための立派なパンフレットや Web サイト。デザインによって人の行動を変容させ、人を騙す。そのデザインは悪意をもった誰かの課題は解決しているのかもしれないが、人がよりよく生きる生きることに貢献しているとはいえない。


よくできた設計によって意図せず苦痛を産むデザイン

Twitter のスマートフォンアプリ等で見られる、pull to refresh。あれほど自然に、最新のツイートを読み込ませる動作は他にない。pull to refresh は、スムーズに心地よく最新のツイートを読み込みませるという課題を見事に解決している。

しかし、それはアプリを使う人々に最新のツイートを読み込むことを止められなくしてしまった。よくできているがゆえに、中毒性がある。

このケースを事前に把握して対策するのは難しい。そのデザインは欲していたユーザーに操られるようにしてできたものであり、デザインによって人を中毒にしてしまった、と思うのは少しおこがましいかもしれない。※2

けれど、自分のデザインが人々にどんな影響を与える可能性があるのか、考えることをやめてはいけないように思う。


A broken gun is better designed than a working gun. ※ 3
( 壊れた銃は、機能する銃よりもよくデザインされている )

Mike Monteiro のこの言葉は、デザイナーの倫理について説いている。

デザイナーはデザインで人を傷つけてはいけない。傷つけないように、自らのデザインの作用についてもっと知らなければならない。

そのことを胸に刻んで、気をつけていれば、悲劇は避けられるのだろうか。
でもそれは、状況に強制されて行われる場合もある。

例えば、日本が戦争をはじめたら、私達デザイナーは何をつくるだろうか。その知識と経験を活かして、誰かを守るために、素早く正確に撃てる銃を作ってしまうかもしれない。

ただ課題を解決することに集中して、大切なことを見落としてしまうかもしれない。私には、そうならない自信がない。


私達が普段デザインでよく使っている行動経済学や心理学の法則は、戦争の中で生まれた。ダニエル・カーネマンやエイモス・トベルスキーはイスラエル出身だが、国を守るために徴兵され、戦闘にも参加している。
彼らの論文のうちいくつかは、イスラエル国防軍の心理学部門に務めた時の経験によるものだ。そう思うと、なんとも言えない気持ちになる。

国を守るために、戦争に勝つためにされた研究。戦争に勝つということは、敵対する国の誰かが死ぬということだ。
戦争で国を守るために施されるデザインは、課題を解決することでたくさんの人々を傷つけるかもしれない。


佐藤雅彦の著書『 新しい分かり方 』に、はじめてApple の Mac を触ったときの印象として次ような一文がある。

初めてなのに、とてもよく分かり、その場で使いこなせる。しかも、その能力を使えば、今後生きること自体に前向きになれる。

使うことで前向きになれるもの、創造する力を与えるもの。私がはじめて Mac を使ったときもそう感じた。

デザインは単に課題を解決するものではない。
そのデザインによって、人の力が拡張することを想像しよう。よりよく生きるために、新しい問題を提起するもの ※4。

自分の視野が狭まってきたとき、それを覚えていよう。
でもどうか、平和が続きますように。平和のためのデザインをする努力を続けることができますように。


※1
現在、劇場や映画館の非常口は「外開き」になるように建築基準法で義務付けられている。

※2
人の弱みに付け込むモンスターを生み出した —— 元フェイスブック社長らが語る後悔とは

※3
A Designer’s Code of Ethics
プロレタリアデザイン

※4
デザインの使命は「問い」を生み出すこと:Superfluxの「スペキュラティヴ・デザイン」とは #WXD


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ai

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