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脊柱と盆栽

脊柱のCT画像を眺めていると、時にそれらが盆栽に見えてしまうという現象に悩まされています。
さらに、骨の画像には多くの情報が含まれており、例えば個人の年齢をおおよそ推測することが可能で、「この方は若いな」とか、「年季の入っているな」とか、考えてしまうのです。

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整形外科の根本原理は、「曲がったものをまっすぐに整える」ことにあります。これは、過去から現在に至るまで大きく変わっていません。

整形外科学の歴史は、紀元前3~4世紀のヒポクラテスの時代にさかのぼります。この時代からすでに骨や関節疾患の治療が行われ、「引っ張る」「宙吊りにする」「踏む」などの姿勢矯正法が用いられていました。

整形外科が専門領域として確立されたのは中世ヨーロッパの時代です。この時代、先天的または後天的な原因で体の不自由な子供たちは不当な扱いを受けていました。この問題に対して、パリ大学学長ニコラス・アンドリィは1741年に「L'Orthopédie」を出版し、「子供たちの手足や体を治せば、立派な人間になるだろう」という考えを示しました。
「Orth」とは「正しい、まっすぐな」、「pédie」は「子供」を意味しており、
「整形外科=Orthopedics」
の語源となっています。

日本における整形外科の歴史は、1906年にドイツから帰国した田代義徳が東京帝国大学の整形外科初代教授に就任したことに始まります。「整形外科」という名称は、田代教授が「Orthopédie」を翻訳して名付けたものです。

近年、治療技術の発展により、大きく曲がった骨を治療する際には、脊柱を取り巻く内臓や脊髄への圧迫を避けるために骨を削ったり、自力では支えられない骨には金属で支柱を作るような外科的な処置が施されます。

整形外科の「曲がったものをまっすぐに整える」という概念は、単に身体の形を整える科学に留まらず、脊椎疾患の治療法、身体動作や精神的集中の方法にとって重要です。これらの共通点として、呼吸が挙げられます。呼吸はインナーユニットの活性化によって脊柱の安定、全身の筋緊張調整、パフォーマンス向上、そして精神的安定をもたらします。
インナーユニットを活性化することは腹腔内圧を高め、それが腰椎の椎間を軸方向へ伸長させるトルクを増大させる効果を持ちます。このメカニズムは、脊椎の健康と機能の維持において非常に重要です。
古代の「引っ張る」「宙吊りにする」「踏む」という治療と、呼吸を整えることが同様の効果を期待できるということです。

脊柱と盆栽、そして呼吸の関係性を考えると、これらはすべて「形を整える」ことで調和を生み出すという共通点があります。盆栽の美しさは、木の形を丁寧に整えることから生まれますが、これは「曲がったものをまっすぐにする」作業と似ています。

しかし、興味深いことに、「まっすぐ」とは必ずしも直線を意味するわけではありません。全体を眺め、全体にとって最も負担が少ない形が「まっすぐにする」ために選択されます。鉢からはみ出した盆栽が価値を持つように、脊柱も曲がったまま固定する方が全体にとって負担が少ない場合があります。

このように考えると、患者さんにとっての良い姿勢とは、教科書通りの姿勢ではないし、動作も同様です。



病院にいる高齢の患者さんが樹齢の高い盆栽のように高い価値を持つものとして見えてきたりもして、おもしろくなってくるのです。

尊敬の気持ちを持って…


4月から新しい道に進むので、先日、職場の皆さんの前で勉強会と挨拶をする機会がありました。
その際に、整形外科の象徴であるアンドリーの木から連想して、盆栽や脊椎、呼吸、トレーニングを交えた話しの内容を一夜漬けで書いて臨んだところ、、、

うん。
なんか違った。

一夜漬け、ダメ、絶対。
ということを学びました。

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