盛岡という街の魅力を、なんと語ればよいものか
白状すると、盛岡の第一印象はいいものではなかった。所要のため東北を訪れ、ついでに盛岡に延泊したその日から、ついていなかった。
19時ごろ人生でほぼ初めて盛岡に降り立って早々、お目当てだったレストランが臨時休業。晩秋の雨の中、凍えながらとぼとぼ歩いているとキャッチのお兄さんに絡まれた。
翌朝は、盛岡に延泊した理由の一つ「大好きな漫画の最終巻を、作者の生まれ故郷の岩手県で読む」というイベントが不発に終わった。盛岡で一番朝早く開店する盛岡駅の書店に向かったところ、「岩手は1日遅れの明日発売ですね」と告げられたのだ。正直、気を取りなおすのに30分かかった(調べなかった私が悪いのだが)。
16時の新幹線のきっぷを買っていた。まだ7時間もある。さてどうしたものか…とにかくおなかが空いている。朝から雪国らしい重たい曇天で、時折霧雨も降る日だった。陳腐な表現だが、私の心理状態をそのまま表したかのような天気だった。
とにかく、朝食を食べよう。「ひもじさは悲しみをより深いものにするし、あたたかいごはんは悲しみを少し軽くしてくれる」というのは、数少ないこの世の真理である。
どこかで知った「いなだ珈琲舎」さんに向かう。店に入ると、素敵な笑顔のマスターが迎えてくれた。一人で切り盛りしていて、ほかのお客さんの料理を準備しながらも、こちらが注文のために声をかけやすいようにこちらを気にかけてくださったのが印象的だった。
モーニングのホットサンドとコーヒーを注文した。カウンター席で、マスターの手元を見るのも、イラストがかわいらしいメニューを眺めるのも楽しい。
きゅうりとハムのホットサンドと、おいしいコーヒー。普段の私は断固としたブラック党だけれど、素敵なマスターに「ミルクは自家製なんです」と言われれば、自分の主義なんてあっさりどうでもよくなる。
一般的なコーヒーミルク独特の、マーガリン感というか、ビニール感が苦手なのだけれど、ここのミルクはとってもおいしかった。マスターが自分でブレンドしているそう。
ホットサンドを食べ終えてコーヒーを味わっていると、外が明るくなってきた。その瞬間があまりに美しく、思わず写真を撮る。
「ごちそうさまでした、おいしかったです」と言って店を出る。店に入った時の、沈んだ気分がうそのようだった。
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店を出て、ひとまず盛岡の街を散歩することにした。平日だったので、観光客は少なかった。
明治時代の建物が随所に残っている。どうやら盛岡は県庁所在地の中でも数少ない、大規模空襲を受けなかった街だそう。
1911年落成の、岩手銀行赤レンガ館もその一つ。レンガ造りの外観も素敵だけれど、中に入って圧倒された。
船の舵を模した欄間、雪の結晶のような天井のデザイン。
クラシカルな建物好きにはたまらない。
こんな素敵な空間で、2012年まで銀行業務が行われていたなんて…私が行員だったら、毎日ベロアのワンピースを着て出勤してしまう。
あとから知ったことだが、東京駅舎をデザインした辰野・葛西建築設計事務所による建築だそう。
なんと大半のスペースを無料で見学できる。クラシカル建築好きな方はぜひ立ち寄ってみてほしい。
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散歩しているうちにまた雲があつく、冷え込んできた。たまらず、気になっていた喫茶店「六月の鹿」さんへ。
店の看板がもうイケている。
東京だったら代々木上原とか表参道にありそうな雰囲気の店内で、おじさんが新聞を広げてコーヒーをすすり、入口付近ではテイクアウトまちのマダムが店員さんと親しげに会話していた。一番人気の席であろう、窓際の眺めのよい席では、若いカップルが仲睦まじくメニューを見ている。
この店がいかに地元の老若男女に愛されているか、すぐに理解した。
席についてメニューを開くと、栗の渋皮煮があるではないか。迷わずコーヒーと一緒に注文する。
待っている間、店内の本をぺらぺらとめくる。ああなんて贅沢な時間だろうか…
やってきた渋皮煮とコーヒー。もう、間違いない組み合わせである。一口ずつ、じっくり味わう。
贅沢な時間だった。あんこスコーンもおいしいらしいので、次は絶対食べるぞ。
ショップカードもとてもおしゃれで、思わず1枚いただいてきた。
どうしよう、午前中の分だけでこの文字数になってしまった。この日、午後はさらに密度の高い時間を過ごすことになる。後編に続く。
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