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新潟・村上は、心地よく知的好奇心が満たされる町

前回の記事で、新潟県村上市の飲食店「新多久」さんについて熱弁したのだけれど、村上という土地についてもぜひとも語らせてほしい。

1泊2日で訪れ、宿と、1日目の夜ごはんと2日目の昼ごはんの場所だけ決めていた。それ以外はすべて空白の旅。

私はもともと観光地を巡るよりも、町を散歩してそこに息づく文化と暮らしを垣間見るような旅が好き。村上はそんな私にぴったりな町だった。

村上のA面~鮭のまち~          

村上市は新潟県の最北端に位置する。お隣はもう山形県だ。地元のかたの方言は東北弁にかなり近い。

村上市は「鮭のまち」として知られる。市内を流れる三面川を遡上する鮭は、なんと平安時代にはすでに京の都に税として納められていたそうだ。江戸時代には世界初の鮭の人工増殖に成功して、さらに鮭のまちとしての真価を高めていく。村上と鮭との縁は切っても切れない。

あらゆる面で村上の人々の暮らしを支えてきた鮭が、この町では本当に慈しまれている。

その片鱗がこちら。散歩中に見つけた看板、「鮭」に「御」がついている!「鮭」に敬語の接頭語が付いているの、人生で初めて見た。

また、村上では鮭を少しも無駄にしない。ヒレから内臓から中骨に至るまで、余すところなく食べられてきた。その結果、なんと100種類以上の伝統的な鮭料理が生まれたそうだ。
途方もない。

(だって鮭料理を今思い浮かべようとしたけれど、「焼鮭、鮭茶漬け、鮭の炊き込みご飯、ホイル焼き、うーんあとは鮭のクリームスパゲティ?」と5品目で洋食が登場してしまって、愕然としたもの)

2日目のお昼に、料亭「能登新」さんで鮭尽くしのコースをいただき、100種類の御鮭料理のいくつかを味わった。鮭へのリスペクト度合いを肌で感じる。

昔は食糧に乏しくどんな食べ物も貴重な栄養源だったとは思う。けれど、(野暮な発言と自覚しつつ)はっきり言ってしまえば、棄てるほうが楽な部位もあると思うのだ。相当な手間と時間をかけて、ようやく美味しくいただける部位もあるだろう。調理するにも、ほかの食材や手間が必要だ。手間暇かけても鮭をまるごと味わおう、という真摯さに恐れ入った。

100種類以上の鮭料理の代表格が「塩引き鮭」。塩を引いた鮭を、村上に吹き下ろす風に1か月晒して熟成させて作る。

塩引き鮭などの製造・販売をする「きっかわ」さんの、威風堂々たる暖簾をくぐってあらわれる、

天井からずらり吊るされた鮭、鮭、鮭の群れは圧巻だ。(ここで伺ったお話もとても面白かった)

散歩中、家の軒先に塩引き鮭を吊るしているお宅を数軒目にした。地元のスーパーでも塩引き鮭は魚売り場の一番目立つVIPコーナーに鎮座していたし、マンホールも鮭だし、名所案内の立て札も鮭だった。暮らしの至る所に鮭。

ちなみに、「ポッキー&プリッツの日」としておなじみの11月11日は「鮭の日」でもあるそう。(「鮭」という字の右側に注目!)

鮭の旬もちょうどそのころ。その時期には鮭の刺身なども食べられるそうだから、ぜひまた再訪したい。

村上のB面~鮭以外のこと~ 

「村上といえば鮭」のためA面(鮭)と書かせていただいたけれど、村上の魅力は鮭オンリーではない。そして、今回のような旅のスタイルだから出会えた魅力も多い。B面って、名曲が多いよね。

まっさきに挙げたいのは、宿泊したゲストハウス「よはくや」さん。

村上を再訪するときは、絶対にまたこちらに泊まると決めている。優しいオーナーさんと可愛い息子さん、徒歩でどこにでも行ける立地、落ち着くインテリアや内装。まるで親戚の家に来ているような気楽さ。

古時計のチクタクという音とやかんの湯がしゅんしゅんと沸騰する音だけが聞こえる共用スペースで、本棚から気になる漫画などを手に取ってぺらぺらとめくる時間。ずいぶんしばらくぶりに「何にも急かされない」ひとときだった。

散歩に出たり、ゲストハウスに戻って本を読んだり、2階のソファでぼうっとしたり、オーナーさんに村上の歴史について教えてもらったり……私の好きな旅スタイルにドストライクな宿。

もともと、村上は「瀬波温泉」目当ての旅行客が多かったそうだ。海沿いには温泉宿がずらりと並ぶ。温泉宿も素敵だけれど、私の好きな旅との親和性は低い。よはくやさんのような宿の存在があって、町の暮らしや文化に触れる旅が成り立つのだ。

ちなみに、「よはくや」公式Instagramの写真は、あえて白黒で統一されている。その理由に私は共感したから、「よはくやさん」の大好きポイントや見せびらかしたい写真は枚挙にいとまがないけれど、この辺にしておく。

(でもこれだけ言わせて。オーナーさんが作る、ほっとしてしみじみとおいしい朝ごはんもとても美味しかった。)

よはくやのオーナーさんが教えてくれたお茶屋さんもすっかり気に入って2日連続で訪れた。古民家の縁側でお庭を見ながら、おいしいお茶をいただける。(アガサ・クリスティーの「春にして君を離れ」をずっと読んでいた)

村上は商業的なお茶の産地としては日本最北端の町だそう。そんなわけで、お茶のお店との遭遇率が高い。

また、村上は村上藩の城下町としても栄えた町でもある。規模からすると「漆」「着物」関連のお店が相当に多く感じた。

城下町の面影はほかにもある。散歩中、どうも方向感覚が分からなくなる瞬間が多かった。よはくやのオーナーさんにそう話したところ、城下町の特徴の一つだと教えてくれた。その理由も納得。ぜひ実際に体感してみてほしい。

そして運のいいことに、滞在2日目は朝市の日だった。

ハッピーなカラーリングのパラソルの下で、地元のおじいちゃんおばあちゃんが魚や野菜、手作りのお惣菜を売っている。完全に地元の方による地元の方のための朝市だから、日用品や乾物を扱う店もあった。(鬼滅の刃グッズもあった)

菜花を買ったら、新聞紙でくるんで渡してくれた。SDGsとはこういうことよ。

これまたよはくやさんに教えてもらった大判焼きを片手に巡る。

この大判焼きのお店、なんと価格表に「50個」の料金まで載っている。

町内の集まりの差し入れで、まとめ買いする人が多いのだそう。町内の集まりに大判焼き50個抱えてやってくる人、その日はヒーローだろうな。

いつかどこかの掲示板で見た相談を、なぜか思い出した。「友達のホームパーティーに呼ばれて、友達が『ケーキは焼くからね』と言っていたのに、私は有名店のケーキを差し入れに持っていきました。そうしたら友達の機嫌が悪くなってしまって。私が悪いんでしょうか?」

その相談者の意図はほんとうに分からないけれど、大判焼きの差し入れは被らないといいな。いやでも、あんことクリームの2種類あるから、被っても1人あたり2個ずつ・どちらも食べられてハッピーかもしれない。大判焼き、なんて平和な食べもの。

そう、こういうことを考えるにも空白が必要だよね。

新潟の出店屋台の定番グルメだという「ぽっぽやき」もお持ち帰りした。

いやあ、村上はつくづく散歩が楽しい町だった。

激シブな現役の居酒屋があったり(激シブな建物が沢山残っている)

お寺の掲示に「いやほんまそれな」と心から同意したり。

村上は様々な確度から知的好奇心を満たしてくれる町だった。

でも決して、現代社会ならではの情報の濁流に溺れるような満たされ方ではない。空白と、立ち止まる余裕があってはじめて叶う、心地よい知的好奇心センサーの張り具合&受信具合。

これまで国内のあちこちを訪れたけれど(山形だけ未踏)、こういう町ってそう多くはないと思う。

守って、残して、一方で取り入れる方が良いものは新しくとも柔軟に採用し、繋いでいく人達がいてようやく実現することなのだ。

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