京都を暮らすように旅した7日間~1日目~(旅のはじまり、四条・五条界隈編)
「35歳までにお互い独身だったら一緒に暮らそう」と約束している女友達が、仕事の都合でまもなく日本を発つ。彼女(以下、T女史と呼ぶ)はこの先数年日本に帰国ができない。出国前に思い出の地を巡っておこうということで、学生時代を共にした京都で7日間を一緒に過ごした。
旅の前から分かりきっていたことだが、本当に素晴らしい7日間となった。この先の人生で、ことあるごとに記憶から取り出しては「最高だった」と慈しむだろうと予感する。
そんな宝物のような日々を、1日1記事ずつ記録しておく。
1日目のはじまり
日曜日。T女史と私は新幹線で京都へ向かった。到着するや否や、T女史は新幹線ホームの「きょうと」の看板や京都タワーを名残惜しそうに見つめる。そして四条河原町へ向かうバスの中、すれ違った「5系統」のバスが彼女の感傷を引き起こしたらしく静かに悶えていた。クライマックスが早い。
(京都は市バスが発達している。同じ大学の学生でも、下宿先が大学の東西南北のどこに位置するかで使用する系統が異なる。T女史は5系統を愛用していたようだ。)
T女史はこの「5系統不意打ち遭遇事件」以後、「不意打ちのエモさが一番強い」説の狂信者となる。
この日は仲間内でも貴重な現役京都居住勢・Kくんと、たまたまこちらへ出張中だったもう1人のKくんの4人で集まった(この2人のKくんはイニシャルも誕生日も一緒で紛らわしい。運命かよ。前者のKくんを吉田、後者のKくんを村上と呼ぶ)。
じつは大学時代にこの4人で遊んだことは一度もない。なぜか卒業後に親交を深めている、不思議な仲だ。
四条河原町の居酒屋「たつみ」
旅の記念すべき最初のお店は居酒屋「たつみ」だ。
見てください、この圧巻のメニューを。
鱧、万願寺、賀茂茄子、生麩、小芋のから揚げ、ずいきの酢の物などを肴に4時間ほど喋る。
THE・京都へ観光にきましたというラインナップ。いいじゃないか、おいしいんだもの。
吉田が言語学を専攻しているので、例えば「最近美しいと思った文章」といった知的な話題もたまにはする。しかし、この4人で集まるたびに半日ほどは一緒にいるが、毎回何を話したのかほとんど覚えていない。
トマトの天ぷらが特においしかったことだけは覚えている。
お腹がいっぱいになった我々は、鴨川へと移動した。
コンビニで好きな飲み物を調達して、三条河原のローソン前の坂道をくだって、懐かしい鴨川に到着。
ほどよいところに腰を下ろして、「携帯落とすなよ」とか「今日は水位が高いね」なんて話をしながら、しばらくぼうっと鴨川を眺める。
そうこうしているうちにあっという間に時間が過ぎて、仕事のために帰らなければという村上を見送った。
その後、T女史・吉田・私の3人で五条にある宿へと徒歩で向かった。
五条散策と、T女史のこと
1日目と2日目の宿は、五条付近のAirbnb。町家を改築しており、目の前は鴨川だ。
町家とロケーションにひとしきりはしゃいだ後、晩ごはんを食べに外へ繰り出す。少し時間があったので宿付近を散策してみると、異様な雰囲気の建物を見つけた。
重厚感があって存在感も強いのに、そこだけ時が止まっているような、体感温度が少し下がるような、不思議な感じ。
T女史が「遊郭みたい」と零したので、調べてみるとその通り。五条界隈はかつて「五条楽園」と呼ばれる花街で、この建物は「本家 三友」という五条楽園を代表するお茶屋だったとか。
(このブログに詳しく書かれている。面白かった。)
京都に4年間住んだけれど、この地の表層しか知らないことを知る。無知の知。京都の奥深さを改めて感じたのだった。
この遊郭を前にして、私は「ほ~~ん、雰囲気のある建物だ」くらいの感想であったが、T女史は「すだれの向こうに白い影が見えそうで、怖くて二階は見上げられない」と述べていた。彼女は合理的かつ論理的なバリキャリウーマンであるが、豊かな感受性も持ち合わせている。「面白い、不思議」と思う日本語を見つけては、言語学専攻の吉田に由来や理由を訊ねていたりするのだ。彼女もつくづく奥が深い人だよなあ。
その後高瀬川沿いを北に上り、私が大好きだったカフェ「efish」跡地に寄らせていただく。「efish」はスープもサンドイッチもちょっとしたサラダも全部おいしかったなあ、閉店を嘆き悲しんだファンは数知れないだろう。しかし、この跡地すら芸術的。脳内に「そして伝説になったのだー…」というアオリ文が浮かんだ。
五条通りを西へと進み、「散歩しがいがありそうな道」を選んで北へ上る。不思議なことに、五条あたりから四条へ向かう時に面白そうな道を選んで歩くと、大概仏光寺のこの「お言葉」に行き着くのだ。
学生時代からずっとそうだった。スピリチュアル的なことはあまり信じていないので、おそらく何か要因があると思うのだけれど、仏光寺のお言葉は好きだ。今日のお言葉もいい感じだぜ、と浅~~~~~い感想を持ちながら写真におさめる。
おいしい晩ごはんと、人生初のウイスキーデビュー
あっという間に晩ごはんの時間となり、吉田おすすめのお店へ。
優しいお出汁のおでんや和食がおいしかった。白眉はとうもろこしの天ぷら。このお店は、京都らしい料理を食べられるし落ち着いて話せるから、京都にあまり来慣れていない友人を連れてくるにもぴったりだろうと、いつ使うか分からないが密かにメモした。
さて、泣く泣く京都を去った「村上」の影響で、我々4人の間では「2軒目=コーヒー」が定着している。今回も遅くまでやっている喫茶店を探して高瀬川沿いをぶらつき、たまたま見つけた「王田珈琲店」に入った。
赤絨毯の敷かれた、狭くて急な階段を上る。
なんとまあ素敵なお店。
コーヒーだけではなく、ウイスキーも豊富だった。吉田は院生になってからウイスキーに目覚めたそうで、うれしそうにハイボールを飲んでいた。
私も一口いただいて、スモーキーな香りと味に一瞬で惚れてしまった。余談であるが、私はわたせせいぞう氏の「北のライオン」という漫画が好きだ。”人にはウイスキーの数だけの生き様がある”というコンセプトの作品で、ストーリーごとにウイスキーが何かしら絡んでくる。
この漫画でアイラ・ウイスキーへのあこがれを募らせていたけれど、私はド下戸だ。なかなか飲む機会に恵まれず、思いがけず京都の偶然見つけたお店で人生初のアイラ・ウイスキーデビューを果たしたのだった。ありがとう、吉田。ありがとう、王田珈琲。
コーヒーももちろんおいしかった。ブラック党の私もちょっとおののくくらいの濃さ(濃さが売りのようだ)。そして悪魔的導きにより、メニューの「チョコレートケーキ」が目に入ってしまった。22時頃だったけれど、「この旅でカロリーは気にしない」と決めていたので注文した。おいしいコーヒーとチョコレートケーキ。合わないわけがない。我が人生に一片の悔いなし。
「今日は寒いね」なんて話していたからか、無口な店主がチェイサーを氷ナシで出してくれた。その気遣いに気付いたのはT女史だ。やっぱり彼女は機微をキャッチできる人だ。
メニューの「酒は飲んでもノーチャージ」、語感がいいね。
日付が変わる前ごろに吉田と別れ、鴨川のせせらぎを耳にしながら泥のように眠りにつき、1日目が終わった。
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