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舟を編む

友達にオススメされて 以前から狙っていた本が

ブックオフの100円均一ワゴンに入っていたのを

発見した時は

思わず小躍りになって 

たぶん 「わ!」とか声をあげていたかもしれない。

周りにいた人たちを うっすら上目遣いで見まわしてみる。

私の興奮は誰にも伝わることなく

ニヤリをかみしめながら レジまでの道程を歩く。

嬉しい気持ち わくわくした気持ち

そういった 漠然とした気持ちの高揚感を

目に見える形で まるで触ることができるような実在感を持って

自分自身 そして 他者に伝えるツールが 言葉。

言葉として 気持ちを置き換える前の 感情は

渾沌として つかみどころがなく

私はその状態で 放置しておくことが

どうしても 落ち着かなくて

漂っている 漠然とした感情の気配の 糸を

必死に手繰り寄せ

言葉を紡ぎだす 作業を よくする。

言葉に置き換わった その感情は

整然と棚に並んだ 本 のように

分類され 記憶という棚の中に 格納される

その後 いつでもまた その棚から その時の記憶を

色あせることはあるけれど

取り出して確認することもできる。

何十年経った後に 色あせてしまったその

言語化された感情の記憶を

再び 開いて 

かつて 一番 伝えたかった人に 伝えられなかった感情を

今 伝えることもできる。

それが 言葉。

文中では

「たくさんの言葉を可能な限りたくさん集めることは、

歪みの少ない鏡を手に入れることだ。歪みが少なければ少ないほど そこに心を写して 相手に差し出した時、

気持ちや考えが深くはっきりと伝わる。

一緒に鏡を覗き込んで 笑ったり泣いたり怒ったりできる。」

と書かれている。

なるほどな。

言葉は本当に鏡のようだ。

私ののぞき込む鏡を 誰かがのぞき込んで

私の姿を見ることができるもの。

自分自身が感じたその感情の 揺れ、襞、温度、質感

それを誰か他者と共有できることは 

なんて素敵なことだろう!

渾沌とした大海洋のような感情のうねりを

言葉という舟を編んで 漕ぎ進むことで

沈むことなく 私たちは 生きていくことができる。

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