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忘れ得ぬ風景 尾道の丁寧寺三重塔

 2015年9月の日記です。
 
 我忘れえぬ風景に尾道の丁寧寺(ていねいじ)がある。
今から十数年前、50歳から2年間、広島県福山市に単身赴任していた。
会社では分刻みのスケジュールをこなし、
夜は会食、土日もゴルフ、自分が自分でないような毎日だ。
赴任前に、総務部長が必ず単身で赴任してください、
との言には、成程、と思った。
 
 当時二人の息子は共に大学生、大体の事は自分でする。
妻は、毎月末の金曜に、食卓の上に1万円を置き、
あとは勝手にと、暇つぶしと監視を兼ねて、
新横浜から新幹線に乗り、福山に来ていた。
こちらとしても疑いは晴らさねばならないから、
その週末は予定を入れず、妻につきあった。
 
 電車で20分ほどの尾道は恰好の散策場所だ。
駅の南側には、線路と瀬戸内海に挟まれた、
旧いアーケード街があり、備前焼など個性ある店が多い。
 
 駅の北側は線路沿いに山が迫り、
山頂の千光寺まで、ロープウェーがあるが、
歩いても30分ほどで、さほどのことはない。
山腹は縦横に人がようやくすれ違える程の小道が走り、
両側に旧い民家が並び、猫が日向ぼっこをしている。
昭和初期にタイムスリップした気分だ。
旧いお寺を巡る古寺散策コースや、文学散歩道などが知られているが、
実際に歩く人はほとんどいない。

小道の両側に旧い民家が並ぶ

 
 古寺の一つに天寧寺(ていねいじ)三重の塔がある。
小道から見下ろす三重塔は塗装の禿げた白木がむき出しで、
600年の風雪に耐えてきたとは信じがたい。
塔の向こう側、瀬戸内海の尾道水道を挟んで正面は造船所のある瀬戸田島、
左奥にはしまなみ海道起点の、尾道大橋が見える。
我忘れえぬ風景の一つだ。

丁寧寺三重塔の向こうに尾道水道を望む
丁寧寺境内

 
 で、先日、久々に尾道に行ってきた。
変わらぬ風景だったが、何せ人が多く、
尾道特有のしっとりとした地味さがない。

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