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両親 20.問題先送り

 2007年、父は93歳、一人でホームにいる。8月に母に先立たれたことは何となく分かっているようだ。12月末、急に食事をしなくなり、数日間全く飲み食いが出来ず、意識が薄れ、介護の人が声をかけても、反応が殆どないとのことで。急遽病院に搬送され、そのまま入院となった。

 医師はレントゲン写真を見て、肺癌だろうとのことで、これまでかと思われたが、年が改まり、2008年1月4日に病院で医師の話を聞くと、癌ではなかった、肺炎だとのこと。点滴と抗生物質で炎症はやや収まり、意識もはっきりしてきたようだ。父の耳元で新潟から息子が来たぞと言うと、新潟からか?と驚いたように言う。足が痛いので揉んでくれとか。ホームにいるといる時より話が通じる。

 医師は、今週は、口からものを食べる練習をするが、 万一食べられなければ、胃蝋(いろう)をするかどうか、ご家族(姉と私)で判断してくださいと言う。口から食べられなければ、直接胃に栄養を補給する方法がある、とのこと。このまま、栄養が取れなければ、先は知れている。 

 父は昨年母を失ってから、急にボケが進んでいる。言葉が出ず、う~う~というだけの時には、この人に意思があるのだろうか、生きている意味があるのだろうか、歳が歳だから、もういいのではないかとか、などと考えたりもするが、それでも、生きていてくれれば、それはそれで、ほっとする。 

 どっちにしても先は長くないのだが、胃蝋をせずに寿命を縮めるとすれば、こちらとしても、寝覚めが悪い。色々考えるのだが、食べられるかどうかがを見るのが先だ、ということで、胃蝋の問題は先送りした。

  ところが、先週、見舞いに行った時には、口から食べられるほどに回復し、多少の意思疎通も出来る。顔を見るなり、両手で私の手を掴み、自分の顔に当てて、おいおいと、激しく声を上げて泣き続ける。子供じゃないんだから、他の入院患者もいることだし・・・とは思うのだが、まあ、仕方がないかと、暫くそのままにしておいた。

  父の両手両足は点滴の痕の赤い斑点だらけになっている。血管がもろくなっているので、針を刺すと、その回りが出血するらしい。看護士さんは針の指す場所がなくなり、苦労しているようだった。床ずれの痛みや気分の悪いからか、顔の眉間にはしわもあり、歪んでもいる。退院して、車椅子中心の生活になれば、少しは楽になるのかもしれない。

 その後、28日にホームから迎えに来てもらい、車椅子で退院した。

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