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2017年J1第5節 ベガルタ仙台対川崎フロンターレ レビュー「ピンチは続くが余力は残されている」

2017年Jリーグ第5節、川崎フロンターレ対ベガルタ仙台は、2-0で川崎フロンターレが勝ちました。

この試合の川崎フロンターレは、3-4-1-2というフォーメーションを採用しました。DF3人は右から、奈良、谷口、車屋。MFは右からハイネル、大島、エドゥアルド・ネット、登里。FWは、小林と長谷川。そしてMF4人とFW2人の間に、中村が位置します。この「1」のポジションを務めた中村が素晴らしいプレーを披露しました。

久々に中村のパスを堪能した90分

ベガルタ仙台は3-4-2-1というフォーメーションを採用しました。FW1人とその背後に位置する2人は、川崎フロンターレのDF3人をマークします。そして、MFの中央に位置していた三田と富田は、大島とエドゥアルド・ネットをマークします。DF3人はFWの小林と長谷川をマークします。つまり、中村は誰もマークされていない状態でした。

中村は自分に特定のマークがいないことを理解し、常にボールを受けられるポジションを取り続けます。三田と冨田の背後から前に動いてボールを受けたり、間で受けたり、MFとDFの間で受けたりと、ゆったりとしたスピードで動き続けながら、ボールを受けられる瞬間にだけスピードを上げて相手のマークを外し、味方からのパスを受け続けました。そして、パスを受けたら素早く相手ゴール方向を向き、相手DFラインの背後や間を狙ったパスを出し続けました。

ベガルタ仙台としては、中村を止めたかったはずです。DFの中央には平岡が特定のマークについていなかったので、平岡が中村のマークにつくという選択肢もありました。しかし、平岡が中村のマークについてしまうと、常にDFラインの背後を狙い続けている小林と長谷川の動きに対応出来なくなってしまいます。ベガルタ仙台としては、マークしたくてもマークできない状態で90分過ごしてしまいました。

この試合は、久々に中村のDFライン背後に出されるパスを90分堪能することが出来ました。中村のパスの凄さは、様々な球種を駆使して、味方が走るスピードを計算した上で、味方の足元にピンポイントでボールを届けられる事です。ゴルフのドローボールのように高く上げてワンバウンドさせるパス、パターのように味方が狙っている場所をめがけて出すパス、これだけ様々な球種を駆使してパスを出せる選手は、いまだにJリーグにはいません。

2017年で中村憲剛は37歳になります。試合日程が短くなると動きが悪くなったり、試合終盤になると守備のアクションが減ったり、年齢による変化もみられます。

しかし、技術は衰えることなく、むしろ進化を続けています。中村の事を考えると、守備の負担を軽くした上で、得意なプレーに専念させる、この試合のようなポジションが良いのではという気がします。

僕としては、晩年のロベルト・バッジョのように、中村が90分中89分はフラフラしていても、残り1分だけ凄い仕事をしてくれればいいです。ただ、今のチーム状態だと、中村がフル稼働しないとチームが回らないのが悩ましいところです。試合が増えてくると、中村のプレーの質は下がってくるけど、今は頼らざるを得ない。その状況をチームはどう乗り切るのでしょうか。

長谷川は「小林以外に得点が取れない」問題の解決策となるか?

試合前、現在の川崎フロンターレの課題として、「小林以外に得点が取れない」という点を挙げました。小林がマークされると、他にペナルティエリアの中に入ってくる選手がいないので、最後のシュートチャンスにパスを出す選手がおらず、得点が増えない。そんな状況が続きました。しかし、この試合では長谷川がゴールを挙げるだけでなく、積極的にペナルティエリアの中に入っていく動きをみせ、この試合に限ってですが、課題を解決してみせました。

長谷川の強みは、自分からアクションを起こせる事です。もちろん、ボールを持った時に相手ゴール方向に運ぶドリブルのスピードも素晴らしいのですが、ボールを受けることを恐れず、相手を外すために動き続ける事が出来るのが、長谷川の良さだと思います。そして、攻撃だけでなく守備でもアクションを起こし続ける事が出来るのが、長谷川の強みです。長谷川が復帰したことによって、小林の負担が減りました。

僕は、2016年シーズンのチャンピオンシップ準決勝で長谷川が怪我をしなかったら、川崎フロンターレが年間チャンピオンになっていた可能性は十分あったと思います。長谷川のドリブル、DFの背後を狙う動き、そして攻撃だけでなく守備でも労を惜しまない動きは、チームの武器になっていましたし、当時のチームは長谷川のアクションにあわせて、攻撃も守備も仕掛けていました。当時の長谷川は、多くのサポーターが考えている以上に川崎フロンターレのキープレーヤーだったのです。キープレーヤーの負傷離脱によって、チームは仕掛けるタイミングを失い、試合に敗れてしまいました。

チームは負傷者が増え、苦しい状態が続きますが、2016年シーズン終盤のキープレーヤーがよいプレーをみせたのは、プラス材料です。今後の長谷川のプレーに期待したいと思います。

起用法から読み解く2017年シーズンの森谷

この試合で2得点目を挙げた森谷は、ようやく2017年シーズンのJリーグ初出場。2017年シーズンは、なかなか出場機会に恵まれていません。

2016年シーズンまでの森谷は、「出して、受ける」動きと、労を惜しまず攻守に動けるという強みを活かし、様々なポジションで起用されました。しかし、鬼木監督に替わった2017年シーズンからは、森谷は一貫して大島とエドゥアルド・ネットと同じ、中央のMF(ボランチ)のポジションで起用されています。このポジションは、森谷が最も得意とするポジションであり、2016年シーズンサテライトリーグでプレーしていた時、「他の選手とレベルが違う」と思い知らされるようなプレーをしていた時のポジションでもあります。

ところが、大島とエドゥアルド・ネットというキープレーヤーがいるので、なかなか出場機会に恵まれません。2016年シーズンまでだったら、この試合でハイネルが起用されていた右ウイングバックに森谷が起用されていてもおかしくありませんでした。しかし、森谷はベンチ。この起用からは、「森谷はボランチもしくは中村の代わりとして起用する」という考えが伝わってきます。森谷としては、試合に出られるハードルは高くなりましたが、最も得意なポジションで起用されるので、言い訳も出来ません。大島の負傷によって出場機会を得ましたが、やる気に満ちていたはずです。

僕は森谷のボランチでのプレーが好きです。あれだけ10m〜15mのパスをテンポよく出して、攻撃にリズムを与えられるボランチは、他のチームにはいません。守備でも相手に積極的に仕掛け、ボールを奪い切る力もあります。何より、アクションを継続して、繰り返し実行出来るという強みを活かすなら、僕もボランチが最適なポジションだと思います。

大島の怪我は長引くと思いますので、しばらく森谷の力に頼る事になりそうです。チームはピンチですが、森谷はチャンスです。今後の森谷のプレーに注目したいと思います。

起用法から読み解く、三好と板倉の役割

最後に、三好と板倉について書きたいと思います。この試合、三好の出場機会はありませんでした。チームに負傷者が続出している事もあり、三好を起用してもおかしくありませんでしたが、鬼木監督は三好をスタメンで起用する事はありませんでした。三好がスタメンで起用されないのは、2017年のシーズンの三好が「攻撃の切り札」という仕事を担っているからです。後半30分以降でどうしても得点が欲しい時に、チャンスを個人の力で創りだすこと。それが、2017年シーズンの三好に与えられた役割です。

だから、鬼木監督は頑なに、三好をスタメンで起用しませんし、勝っている試合の時間稼ぎで起用する事もありません。起用するのは、負けている試合や同点の試合であと1点が欲しい時。この選手起用に関する考え方は徹底しています。三好本人としては、90分出場したいという思いを持っているかもしれませんが、三好が鬼木監督に与えられている役割を実行出来るようになったら、川崎フロンターレがシーズン終盤に、三好の活躍で勝てたという試合も増えてくるはずです。

そして、同期入団の板倉の起用方針も、2016年シーズンと2017年シーズンでは大きく変わってきています。2016年シーズンまでの板倉は、試合に出てくれたらOKといった具合に、戦力として期待されているとはいえない存在でした。しかし、2017年シーズンの板倉は戦力として計算されています。エドゥアルド・ネットやセンターバックの控えとして、真っ先に起用させる存在になっています。だから、広州恒大戦のように、前半途中で替えたからといって、もうシーズン通して起用しないというような事もありません。エドゥアルド・ネットと同等とはいいませんが、そのくらいの活躍をしてもらわなければならない選手なのです。

ギリギリだが、首の皮一枚分の余裕はある

負傷者が続出し、この試合で大島とエドゥアルド・ネットも負傷しました。いよいよACLとリーグ戦で選手を入れ替えて戦うといった、悠長な事は言える状態ではありません。しかし、森谷、長谷川、三好、板倉といった選手にとっては、これ以上ないチャンスです。そして、まだ三好を先発に起用しなくてすんでいるということは、チームはギリギリではありますが、少しだけ余裕があるということでもあります。

やせ我慢とも言いかえられるかもしれませんが、このギリギリの余裕をいつまで保てるか。鬼木監督は1年目からなかなかキツイチーム運営を強いられています。しかし、鬼木監督は慌てず騒がず、淡々とやるべき事をやっています。選手も監督同様にやるべき事をきちんとやっているので、大きく動揺していないのは、プラス材料です。次は土曜日にヴァンフォーレ甲府戦、そして中3日で広州恒大戦。チームはピンチですが、試合は待ってくれません。こんな状況こそ、どんな試合をみせてくれるのか、楽しみにしたいと思います。

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