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バスケ、フットサル、フェンシング。プロフェッショナルたちが教えてくれたスポーツの可能性と新しい楽しみ方

先週、僕のブログで、フェンシング日本代表のアナリストを務め、日本スポーツアナリスト協会理事でもある千葉洋平さんにお誘い頂き、Fリーグのペスカドーラ町田対バルドラール浦安戦を観に行ったこと、そして、試合後に幸運にも、バルドラール浦安の星翔太さん、テクニカルディレクターの高橋健介さん、GKコーチで分析担当もされている橋谷英志郎さんと食事をする機会に恵まれたことは、ブログで紹介させて頂きました。

あのブログでは、どんなテーマについて話したかは紹介したのですが、詳細は何も語っていませんでした。

ブログという誰でも読める場だと、公開を控えたくなる情報もあったので、ブログでは詳しくは紹介しなかったのですが、僕の友人やTwitterのフォロワーの方からリクエスト頂いたので、どんな話をしたのか、少しだけ紹介したいと思います。(少しだけと書きましたが、3000文字ほどあります)

紹介するテーマは以下のとおりです。

・ローテーションとセカンドセット

・スクリーンプレーは、サッカーやフットサルでも有効か

・ステファン・カリーは何が凄いのか

・太田雄貴が繰り出す駆け引きの凄さ

ローテーションとセカンドセット

フットサルもバスケットボールと同じく、ファーストセットとセカンドセットがあります。速い動きが多いスポーツでは、頻繁に選手を入れ替え、プレータイムをチーム全体で分け合いながら、勝利を目指します。したがって、セカンドセットの活躍は、試合に勝つために必要不可欠です。

セカンドセットが出ている時間で失点せずにしのぎ、ファーストセットで得点して勝つ。あるいは、ファーストセットが上手くいかないけれど、セカンドセットで逆転して勝つ。こんなパターンで試合を進められたら最高です。

バルドラール浦安とペスカドーラ町田。このチームには、日本を代表するストライカーがいます。バルドラール浦安には、星翔太。ペスカドーラ町田には、森岡薫。長く日本代表でも活躍してきた2人のストライカーですが、この試合では2人が同じコート内で相まみえる事は、ほとんどありませんでした。なぜなら、2人は別々のセットでプレーしていたからです。

この試合では、星選手はファーストセット、森岡選手はセカンドセットでプレーしていました。両チームとも得点を取るために、または得点を取られないために、わざと2人が噛み合わないように、セットを変えてきたのだと思っていたので、星選手に聞いたら、意図的にローテーションしていたのだと応えてくれました。

なお、佐々木クリスさんが教えてくれたのですが、NBAのクリーブランド・キャバリアーズは、たまにレブロン・ジェームズ以外はセカンドセットのメンバーでプレーする、という時間を作る事があるそうです。これは、レブロン・ジェームズの能力を最大限に引き出して、気持ちよくプレーさせるために、わざとそんなメンバー構成にすることもあるそうです。

スクリーンプレーはサッカーやフットサルで有効か

バスケットボールでは、「スクリーン」という、オフェンス側の選手が自分の体を壁にしてディフェンスの選手の進路をブロックするプレーを使って、攻撃を仕掛けます。スクリーンを使う事で、オフェンスの選手は味方の選手をフリーにするのです。佐々木クリスさんはフットサルを観ながら、「フットサルでもスクリーンを使えるのではないか?」と考えていたそうです。

佐々木クリスさんが、スクリーンを使える場面として指摘したのは、ゴール前での崩しのシーンです。この画像のように、サイドから中のスクリーンもありますし、味方選手がボールを持っている選手に近づいて、スクリーンをかけたり、短いパスを交換して崩すパターンが考えられると指摘していました。

この画像に書かれているような崩し方をしているのが、ブンデスリーガを席巻する、RBライプツィヒとホッフェンハイムです。

この2チームは、選手同士の距離を近くして、プレーします。この狙いは、相手守備者のマークを「ぼかす」事だと、僕は考えています。

近い距離で攻撃することで、相手の守備者が誰を守ったらいいのか、責任を曖昧にすることで、味方や自分自身をフリーにすることが出来ます。そして、スクリーンを組み合わせれば、フリーな味方を意図的に作り出す事が出来ます。

もちろん、コートの広いサッカーでは、選手個人個人が距離を走らなければ、このようなプレースタイルは成り立ちません。だから、RBライプツィヒやホッフェンハイムは「走る」のですし、「1対1の戦いを極力避ける戦い方をするチーム」と言われるのです。

そして、スクリーンを使ってフリーな味方を作った後に大切なのは、選手がゴール方向に動き続ける事です。横方向に動いたのでは、相手の守備は崩れません。佐々木クリスによると、バスケットボールの基本的な動き方として、「バスケットに向って動く」という考えがあるそうです。様々なパターンの動き方を駆使した上で、ゴールを奪うために、ゴールに向かって動く。サッカーも、フットサルも、バスケットボールも同じだと思います。バスケットボールの動き方は、サッカーやフットサルに応用できるのではないかと思います。

余談ですが、星選手は図版で紹介したエリア付近だと、味方が近づいてくるのは嫌だと語っていました。それは、星選手が右45度付近だと、右足でシュートを打つことが多いため、味方選手が近づいてくると、邪魔になるからだそうです。

ステファン・カリーは何が凄いのか

バルドラール浦安対ペスカドーラ町田の試合後、星選手がロッカールームから出てくるまでの間、僕は失礼ながら、佐々木クリスさんに「NBAを観るとしたら、どこのチームがオススメですか?」という、一番聞いちゃいけない(と思う)質問をしました。佐々木クリスさんは悩みながら、「まずはゴールデンステート・ウォリアーズに注目すべきだと思う」と語ってくれました。

そして、話題は現在のNBAのスター選手である、ステファン・カリーの話になりました。ステファン・カリーの凄さをより深く知ることが出来る手段として、佐々木クリスさんはこんな動画を紹介してくれました。


この動画では、ステファン・カリーがいかに他のシューターに比べて優れているかを、数値と動作解析を交えて説明しています。この動画を観ていると、ステファン・カリーはシューターとして、他の選手と全く違う能力を持っている選手だという事が分かります。たとえば、ステファン・カリーのシュートを打つ時の肘の確度は、わずか5度の誤差しかないそうです。また、ステファン・カリーのシュートは、他の選手よりも放物線が高いのだそうです。そして、凄いのはシュートを打つ速さです。シュートモーションに入って、ボールを放つまでの速さは、およそ0.4秒。他の選手の平均が0.56秒なので、カリーがいかに素早くシュートを放っているか分かります。

また、佐々木クリスさんは、NBAの選手たちはフラッシュをたかれて、目の前が見えなくなってもシュートを決められるように、練習をしているそうです。特殊なゴーグルをつけて、目の前に光をあてて、目の前が真っ白になっても、シュートが決まるように練習することで、万が一の状況に陥っても、冷静に対応できるようになるそうです。これには、驚かされました。

太田雄貴が繰り出す駆け引きの凄さ

佐々木クリスさんは、フットサルを観ながら、ふとこんな事を話しだしました。「手でボールを扱うより、足でボールを扱う方が難しい。だから、ゴール前に人を集めて、守備者が反応できないスピードのパスを出して、相手に当たってゴールに入るようなプレーを意図的に作り出した方が、ゴールが増えるんじゃないか」と言うのです。佐々木クリスさんは、このプレーを「カオスを作り出す」と表現しました。

「カオス」という言葉に反応したのが、フェンシングのアナリストを務めている千葉さんです。千葉さんが「カオス」の例として話してくれたのは、フェンシングの太田雄貴の戦い方です。

太田雄貴が、手の長さ、身体の大きさといった、身体面での不利を覆し、オリンピックや世界選手権でメダルを獲得出来たのはなぜか。それは、太田雄貴の駆け引きを駆使した戦い方に秘密があると、千葉さんは解説してくれました。

千葉さんによると、太田雄貴は「相手に鍵をかける」事を意識して戦っていたそうです。「鍵をかける」とは、相手の攻撃を読んで徹底的に封じ、相手に「どうしたら良いのか」と途方にくれさせる。そんな戦い方だというのです。そして、相手が「攻め手がない」と思って、手が止まったら、一気にラッシュをかけて、ポイントを奪う。こんな戦い方をしてきたというのです。千葉さんは、太田雄貴は相手に鍵をかけて、選択肢を奪った状態のことを、「カオス」と表現しました。

佐々木クリスさんと千葉さんの「カオス」では、全く捉え方が違います。しかし、「カオス」の状態を、スポーツでどう活かすか。凄く考えさせられる話でした。

ちなみに、千葉さんによると、太田雄貴という選手は、アナリストとしては「やりづらい」選手なのだそうです。なぜなら、相手に「鍵をかける」事を狙って戦っているので、何か規則性がある戦い方をするわけではありません。仮説を基に分析しようとしても、本人の頭の中にある仮説を引っ張り出さなければ分析にならず、大変だったという話をしてくれました。

今後もブログでは語れない話を紹介していきます

他にも話したことはたくさんあります。ボールを敵陣に運ぶ時にチームとして目指すべき指標、ペスカドーラ町田が仕掛けてきたパワープレーと舞台裏、バルドラール浦安が今後どのようなチームを作っていこうとしているのか、コンディションを把握する時に解析すべきポイント、星選手自身のコンディショニングに対する考え方、ヨーロッパサッカーのデータ分析の現状、などなど、様々なテーマについて3時間話をさせてもらいました。とても貴重な時間でした。

今後も、こうした面白い話をする機会があれば、紹介していきたいと思います。ご期待下さい!

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