FIFA女子ワールドカップ 2023 日本代表対コスタリカ代表 レビュー

FIFA女子ワールドカップ 2023 日本代表対コスタリカ代表は2-0で日本代表が勝ちました。

左と右でコンビネーションが微妙に違う

コスタリカ代表は第1戦のスペイン戦の5-4-1とは異なり4-2-3-1のシステムを採用してきました。日本代表はコスタリカのシステムが想定と違っていたのか試合序盤はボールを保持できない時間が続きましたが、10分過ぎると普段通りボールを保持出来るようになりました。たぶん4-2-3-1で相手が挑んでくる可能性も想定していたのだと思います。

印象に残ったのはこの試合スターティングメンバーとして起用された林の立ち位置です。林はコスタリカの右サイドMFと中央のMFの間に立ちます。サイドのMFとしては林を警戒すると南から杉田へのパスに対応できなくなるし、林をマークしないと中央にパスが通る。絶妙な位置に立ち続けました。

杉田がコスタリカのサイドバックを引き付け、猶本はサイドバックとセンターバックの間をランニングして背後を狙います。猶本が空けたスペースに林が立ち、相手選手を牽制する。こうすることで南が相手選手を気にすることなくボールを持つことができます。南のパスが日本代表の攻撃の起点になっているのですが、南を活かすための工夫が感じられました。

左サイドのコンビネーションを活かすために、右サイドも工夫していました。左サイドは猶本が背後を狙うので、右サイドではFWの田中が背後を狙う動きを繰り返します。田中が背後を狙って相手センターバックが食いついたら藤野は相手センターバックとMFの間でボールを受けます。清水は相手サイドバックを引き付け、藤野がボールを受けるスペースを消さないように動きます。右サイドと左サイドは全く同じ動きをするわけではないのですが、それぞれの選手の特徴を活かしつつ、上手く機能するように組み立てられていますし、もちろん相手の特徴も把握しての対応だと思います。

コスタリカは日本代表のDF3人に対してときにサイドハーフも加わってマンツーマンでボールを奪いにくるのですが、日本代表としてはそれは望むところ。相手3人に対しては長谷川が顔を出すことで数的優位を作り、もし長谷川にもマークが付いてきたら、林か藤野にパスを出して相手のラインを超えていきます。この試合スターティングメンバーとして起用された三宅はパスが上手いので三宅から何度も相手のラインを超えるパスが出ていました。

コスタリカとしてはボールを奪いにいったら外されるし、ボールを奪いにいかないとボールを回され続けるし、日本代表の立ち位置がいいから数的優位の局面でも奪いにいけない。そんな状況が続きました。

わざとボールを持たせた後半

コスタリカは後半ボールを保持する時間が増えましたが、日本代表としては2点リードしているので「わざとボールをもたせた」と思います。コスタリカ代表はゴールキックでロングキックを選択せず、自陣からパスをつないでくるのですが、日本代表はコスタリカ代表に対してペナルティエリアをしばらく超えるまでボールを奪いにいきません。FWとDFの距離をコンパクトに保ちつつ、相手が横方向のパスもしくはバックパスを出した瞬間にFWがボールを奪いにいき、一気に相手を捕まえて奪い、結果的にハーフラインを超えさせない。この対応がとてもスムーズで機能していました。

コスタリカとしては中央のFWにパスを出して時間を作ってもらいたいと考えていたようですが、日本代表は熊谷がマークし相手に時間を作らせませんでした。MFのエリアに移動したときもマークして対応していたので、熊谷には事前にタイトにマークをするように、という指示が出ていたのだと思います。目立ちませんが素晴らしいプレーでした。

コスタリカが後半ボールを持ったとしても時間が経過するだけですし、2点リードしているので、むやみにゴールを奪いにいくのではなく、時間を進めるためのプレーを選択したところに、今の日本代表がいかに選手同士の連携がスムーズに機能するチームか伝わってきます。

あとはボールを持っているときに強みを発揮できる選手が、どのくらいチームの戦術や原則に馴染み、パフォーマンスを発揮出来るかだと思います。この試合で途中出場した清家と守屋は背後へのランニングのスピードや何度も繰り返せるフィットネスが強みの選手ですが、それ故にプレーの判断が遅く、他の選手と動きの連携が合わないことがあります。池田監督はそのことは織り込み済みで、今後彼女たちが活きる場面がくると思って、少しでもプレータイムを与えようとしているのだと思います。決勝トーナメントに彼女たちが1回ビッグチャンスを作って、チームを救ってくれたらそれでいい。そんなことを考えながら起用している気がします。

先を見据えて何を確認するのか問われるスペイン戦

2連勝でラウンド16への進出を決め、次は同じくラウンド16への進出を決めているスペイン戦。ここは両チームともコンディションやラウンド16以降の移動日程などを考慮し、メンバーを入れ替えて試合をすることになると思います。

日本代表で2試合フル出場しているのは、山下、熊谷、南、長谷川、清水(アディショナルタイムに交代)の5人。特に長谷川は第1戦で12.8km、第2戦で11.7kmとチームNo1の走行距離を記録していますので、次は休ませる気がします。今のチームは緻密に連携を組み合わせつつ、全体を調整するのは、長谷川と長野と熊谷の3人です。この3人がいかに万全の状態でラウンド16に臨めるかがポイントになります。

選手のコンディションデータをもとに、選手を入れ替えつつ、チームとして確認したいことを確認するスペイン戦になると思います。そしてそれは相手も同じです。どんな試合になるのか楽しみです。

追記

女子サッカーはスピードが遅いという人がいるようですが、スピードで誤魔化しているサッカーもたくさんあるし、女子サッカーの多くは男子より走る戦うといったアクションが強調されているのも事実。でもスピードが遅いからといって、頭の中まで遅いわけではないと思います。頭のスピードはスピードのコントロールに現れるし、なでしこジャパンはスピードを上手くコントロールできる頭を使ったサッカーをしていると思います。そして、このサッカーの魅力をちゃんと語れる人がいない気はします。

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