マザー、ドーター、ティーチャー、サン 【2/8】
■
外は、朝から雨だった。
「起立」
日直の田代がだるそうに声を出す。
生ける屍のような40人の生徒達がだらだらと席を立つ。
「礼」
田代の視線は相変わらず雨が降りしきる窓の外を見ている。
生徒達がそれぞれにだらりと頭を垂れる。
「着席」
言い終わると同時に田代はもう席についている。
まるで大仕事でも成し終えたように、生徒達がべたりと椅子に尻を下ろす。
中には数名、そのまま机に突っ伏す者も居る。
静まり返った教室。
外からは地面を激しく打つ雨の音。
「それでは、授業を始めます」
ここ18年、毎日言い続けてきた言葉。
心の中で枝松はいつも呟く。
もう仕事の半分は終わったようなものだ。
さて、今日はどの辺りからだっけ。
オスマントルコの進軍からか、たしかそのへんだ。
枝松は頭の中にある“自動操縦”のスイッチを押し、自動的にしゃべり、時折ポイントを黒板にチョークで書く。
毎日毎日、それこそロボットのように同じことを続けていると、何も考えなくても45分の授業をこなせるようになる。
生徒達が聞いているかどうかはまったく気にならない。
とにかく自分の仕事は教壇でしゃべり、黒板に文字を書き、たまにテストの答案を配ることだ。
授業を続けながら、枝松の頭は全く別のことを考えていた。
クラスの席の中央あたりに座っている女生徒、藤川のことがちらりと目に入った。
藤川は他の女生徒より少し大人びた雰囲気を持った生徒だった。
肩までの髪はつややかで、前髪が右目に掛かっている。
目はほかの生徒達と同じく生気がない。
半開きの唇にシャープペンシルの尻を当て、ぼんやり宙を見ている。
ぽってりとした唇、一重瞼の切れ長の目。
若干15歳にして、藤川はすでに“男好きのする女”の雰囲気を身につけていた。
この生徒にはいろんな噂があった。
同じ学年の男子生徒たちに、2000円で胸を触らせているとか、何とか。
まあ、噂は噂に過ぎない。
ここまで毎日が退屈だと、人は噂話くらいにしか悦びを見いだせなくなる。
藤川が行っているとされる簡易風俗サービスの件も、そうしたいいかげんな噂のひとつだ。
しかし…と枝松は思った。藤川の胸を見る。
うちの学校の制服は(全国のどこの学校とも同じく)、女生徒たちが在学中に女として成熟するであろうことなど、まるで考えずにデザインされている。
藤川のブラウスは、今にも胸のあたりが弾けそうなくらいに張りつめている。
2000円だって?
とんでもない。
おれなら5000円払っても惜しくはない。
噂が本当だとするなら、藤川もまた、この気が狂うほど退屈な田舎の生活に、つぶされかかっている子ども達の1人だ。
何の未来も、可能性も見いだせない田舎町。
そんなところで過ごす思春期はまるで永遠のように感じられるだろう。
たとえ中学を卒業しても、よっぽどの幸運にでも恵まれない限り、その退屈と虚無は死ぬまで続く。
この町の人間というのはどういう訳か、この町を出ていくという選択肢を持とうとしない。
みんなこの町に生まれ、同じ幼稚園に通い、同じ小学校を出て、同じ高校に通い、そしてそのままこの町で仕事を見つけ、かつてのクラスメイトと結婚し、そして作った子供にも同じような人生を強いる。
大学へ進学したり、ほかの町で就職するような人間はほんの一握り。
この町では誰もが、この町の中にしか自分の人生はないと思いこんでいる。
藤川だってそうなのだろう。
自分の乳の値段を2000円と見積もっている少女。
哀れで惨めだが、自分を哀れむ脳味噌も、藤川にはない。
そして2000円の乳も永遠で不滅の武器ではない。
とはいえ…それにしてもいい乳をしている。
枝松は自動的に授業を続けながら、藤川の乳の弾力を思い描いた。
藤川を壁に押しつけ、ブラウスの前を開く。
まろび出る藤川の乳。その生命力が枝松を圧倒する。
安いパウダー入りデオドラントの匂いと、若い肉体独特の甘い新陳代謝の匂い。
藤川はどんなブラジャーを着けているだろうか?
恐らくスポーツブラみたいなおざなりなものではなく、それなりに高級な大人向けのものをつけているに違いない。
縁には固いワイヤーが入っていて、背中に手を回してホックを外さないとそれをたくし上げることは出来ない。
ホックを外す。
解放された乳の脂肪が、“たぷん”と揺れる。
藤川の乳を眺める。
藤川はどんな目で自分を見るだろうか?
恥じらって顔を背けるだろうか。それとも冷たく見下すだろうか。
2000円で乳を揉ませている少女と、それ以下の2000円払って乳を揉ませてもらっている男。
どっちが人間として最低だ?いや、どっちでもいい。
とにかく藤川の乳を前に、どう対処すればいいか。
恐らく10代の男子生徒達はその見事な乳を前にして、まるで5時間お預けをくらっていた犬が餌にありついたみたいに、全てを忘れてむしゃぶりつくだろう。
千切れんばかりに乳を握り、引っ張り、乳首に吸い上げるに違いない。
そんな時、藤川は何を考えているんだろう?
バカだねえ……と、乳ごときで我を忘れているオスどもを見下しているに違いない。
たかが乳じゃなん?
何をそんなに夢中になるワケ?
醒めた目で男子生徒を見下ろしている藤川の表情を思い描いた。
自分ならどうする?
枝松はさらにイメージを広げる。
自分ももう40歳。
そう、たかが乳くらいで我を忘れてむしゃぶりつき、相手の気持ちなどお構いなしに揉み倒すような思慮のないようなことだけはしまい。
はやる気持ちを抑え、じっくりと鑑賞してから、極上の素材にゆっくりと箸をつけるべきだ。
手の平に藤川の乳を乗せ、その重さを量る。
その重みを充分に味わった後、粘土をこねるようにゆっくりと感触を味わっていく。
乳首には触れない。
乳房全体の表面にゆっくりと手のひらを這わせ、その形が様々に変わる風景を愉しむ。
そうしながら、自然と藤川の乳首が固くなっていくのを待つ。
醒めた顔を作っていた藤川の男好きのする顔が、ほんのりと紅潮してくるまで。
やがて藤川の乳首が固く立ち上がるだろう。
固くなった乳首にゆっくりと口をつける、乳首の先を舌の先を使い、触れるか振れないかの微妙な刺激を与える。
その間、もう片方の乳首には、唾液で濡らした指で同じようなかすかな刺激を加える。
藤川は声を上げるだろうか?
いや、声を上げるまでそうして攻め続ける。
やがて冷ややかな視線で自分を見下ろしていた藤川の息が荒くなり、くびれた腰がゆっくりと円を描き始めるのを眺める。
それでも、それ以上の行為はしない。
さんざんじらし、藤川が自分の首に手を回し、しがみついてきたら許してやろう。
後は舌を本能のままに動かせばいい。
舌で乳首を転がし、つまみ上げた乳首を親指の腹で攻める。
その頃になればスカートの中に手を入れても、不作法ということもあるまい。
いや、藤川のことだから自ら枝松の股間をまさぐって来るかもしれない。
もしくは、枝松の手を取り、自ら枝松の手をスカートの中に導き入れるかもしれない。
いずれにせよ、指先がナイロン(ナイロンに決まっている)の生地のパンティの底に触れる。
そこは既に火傷しそうなくらい熱くなり、湿りを滲ませている…。
と、チャイムが鳴った。
枝松は我に返り、黒板を見ると、無意識のうちに書いた様々な文字。
手元の教科書は、5ページほど進んでいる。
藤川の方を見た。藤川は相変わらずシャープペンの尻を唇に当て、ぼんやり宙を見ている。
教室全体は静まり返り、外からは雨の音がする。
現実の世界では、何事もなく45分が過ぎ去っていた。
枝松は意識をまったく別の世界に泳がせながら、45分の授業をやっつけた。
これがプロの仕事というものだ。
「それでは、授業を終わります」
田代のやる気のない号令。
生徒達が起立し、礼をし、着席する。
数名の生徒が席を離れ、教室を出た。
枝松も閻魔帳を抱えて、教壇を降りる。
藤川の席の方を見た。藤川は隣の女子生徒の机に手を掛けて、なにやら談笑している。
すでに豊かな肉をのせた尻が、紺のプリーツスカートを持ち上げていた。
一瞬、藤川が振り返り目が合った。
見下すような冷たい目。
妄想の中と同じ、あの目。
枝松は慌てて目を逸らせて、逃げるように廊下へ出た。
職員室に戻る。
大部屋には数人の同僚が居て、それぞれ茶を飲んで休憩したり、テストの採点をしたりしている。
理科の島田と目が合って、お互いに機械的な会釈をした。
枝松の臨席である数学の初芝は不在だった。
次の授業まで少し間がある。
枝松は席について、テストの答案やメモで覆い尽くされた自分の机を見た。
自分の頭の中と同じだな、と思った。
つねに混沌としており、大切なものはいつも見つからない。
机の上の混沌をかき分けて、仕上げていない期末テストの原稿を探した。
探しながら、藤川のあの冷たい目線を思い出す。
そんなわけはないのだが、あの目はこんな風に言っているように見えてならない。
“先生がいつも何をしているか、何を考えてるか、わたし知ってるよ”
そんなノイローゼじみた考えが頭から離れなかった。
何故だろう?
そりゃあ、人には言えないこともたくさんしているし、邪なこともいつも考えている。
しかし、これまではそれらに対する罪悪感など、一度も感じたことはなかった。
尻にそっくりな黒子のある母娘との関係を、自分は心の奥底で悔いているのだろうか?
ふと、机の書類の山に埋もれていた、水色の封筒が目に止まった。
見慣れない封筒だ。封筒には、何も書かれていない。
枝松はきちんと糊で閉じられた封筒の口を開き、中に入っていた便せんを広げた。
便せんには、丁寧な文字で、こう書かれていた。
“すべて知っています。母とのことも、姉とのことも。今日の放課後、旧体育倉庫に来て下さい”
署名もついていた。
奈緒美の息子で理恵の弟、功からだった。
■
まだ雨が激しく降っている。
旧体育間の雨よけの下で20分ほど待っていると、校舎の渡り廊下から枝松がやってくるのが見えた。
健康サンダルをパタパタいわせて。
禿げ上がった額。
油染みた髪。
分厚い眼鏡に濃い無精ひげ。服はいつもチョークにまみれている。
なんて冴えない男なんだ、と功は思った。
こんな男に、母の奈緒美と姉の理恵はいいように弄ばれている。
信じがたい事実だった。
「…………来ると思ってましたよ」
功は出来るだけ、無愛想な声で言った。
しかし自分が思ったより無愛想な声にはならなかった。
緊張のせいか、すこし声が上擦っていた。
「君が、功くんか」枝松は言った。ほんとうに無愛想な声とは、こんな声のことを言うのだろう。「話すのは、確か今日が初めてだな」
「そうですね、でも……」功は枝松の目を真っ直ぐに見つめた。しかしそこには何も見つからない。思わず目を逸らしそうになったが、思い切って功は言葉を続けた。「いつも……姉と、母はお世話になっています」
枝松はそのまま電池が切れたように静止している。
功は枝松の目をさらに奥を見つめ、何らかの感情の動きを読みとろうと目を凝せた。
しかし、やはりそこには何も見つからない。
まるで閉じた瞼に書かれた目のように、無機質で心の動きのようなものを何もを映さない目だった。
しばらく気まずい沈黙が続いた。
うかうかしていると、その気まずさに負けて、思わず意味のない言葉が口から出てしまいそうだ。
功はそれを意識して押し戻した。
「ほんとに…………」先に口を開いたのは枝松のほうだった。「お姉さんに似ているね、君は」
「え?」
虚を突かれた。まったくのフェイントだった。
「遠くから見ると、お姉さんが男子の制服を着てるのかと思ったよ」枝松が機械的な声で言う。「よく、間違われないかい、お姉さんと?」
「な、なにを……」思わず素っ頓狂な声が出た。声が完全にひっくり返っている。「何を、つまらない事言ってるんですか?」
「いや、姉弟っていうのは似てるもんだなあ、と思ってね」
枝松が薄笑いを浮かべた。
同時に、功は自分の肌に鳥肌が立つのを感じた。
「そ、そんな暢気なこと……言ってる場合なんですか?」もはや声が裏返っていることなど気にしていられない。「知ってるんですよ……僕は…………先生と、姉と、母との事を」
「……ふうん」枝松は功の予想を大きく裏切り、全く動揺しない。「……それで?」
「……そ、それでって……」
功は喉がからからに乾くのを感じた。
「たしかに」枝松が相変わらずの一本調子で言う。「おれは、君のお母さんとお姉さん、両方とセックスしてるよ。でも……それがどうしたの?」
「……あ、あの……」功の頭は大きく混乱していた。予想していたのとは全く違う反応に、思わず目眩がした。「“それがどうしたの”って……」
「君んちのお母さんは、確かに人妻だけど、でも恋愛は自由だろ? ……確かに不倫はいけないことだね。でも法律違反じゃない。君のお母さんだって女だし、おれだって男なんだ。お互いがしたくてセックスしてるんであって、何ら問題はないだろう?」
枝松はまるで譫言のように抑揚のない声で、続けた。
「それに君のお姉さんの理恵さんは、確かにまだ15歳で、しかもおれの教え子だ。こっちのほうはちょっと法律違反かも知れないな。でも、おれはなにも、無理矢理お姉さんを犯しているわけじゃないよ。っていうか、お姉さんのほうがおれにセックスしてくれってせがむんだから、仕方ないだろう?」
「なっ…………あ、あっ……あのっ……」
どこでどう間違ったのだろうか。
功は言うべき言葉を失い、目を泳がせるだけだった。
「で、どこで知ったか知らないけど……それを君が知ってるからって、なんだって言うんだい?」
「……あ、あのっ……」功は言葉を慎重に選んだ。どうやら相手は自分が考えていたような男ではないらしい。「あんたは、教師なんでしょう? 教師がそんなことして、いいと思ってるんですか?」
「……え?」枝松の表情がはじめて動いた。まるで白痴を見るような見下した目で、枝松は功を見ている。「教師? 確かにそうだな。おれは教師だ。でもそれはおれの仕事であって、おれの一部でしかない。教壇に立って、授業しているときは、たしかに教師だよな。職員室に居るときも、教師なのかもれない。でも、仕事を離れたら、おれはただの男だよ。そこらに居る、ふつうの男となんら変わらない。君のお父さんとかと同じさ。なんで仕事が教師だって言うだけで、そこまで行動を律さないといけないんだい?」
「……で、でも、いくらなんでも……母と……姉と両方を……」
「……それはおれだけの責任かい? 君のお母さんも、お姉さんも、おれとセックスしたいからしてるんだよ。別におれだけが悪いんじゃない。君のお母さんも、お姉さんも、女で、おれは男なんだ」
気が付くと、枝松は功の目の前まで歩み寄っていた。
息が掛かるくらいの距離に、枝松の顔がある。功はまるで金縛りに遭ったように動けなくなっていた。
「……あ、あんた……それでも……」
功は必死で自分の表情に表れる狼狽を隠そうとしたが、枝松の目がその全てを読みとっていることは明らかだった。
「それもで、教師かって? だから言ってるだろ。教師である前に、おれはふつうの男なんだ」
枝松は完全に主導権を握ったことを悟り、完全に功の精神を制圧していた。功はまるで値踏みするような枝松の視線が、全身に絡みついてくるのを感じた。
「ところで……君は、何のためにおれを呼び出したんだい?」
「な、何のためって……」
何のためただろう?
確かに、2時間ほど前、何らかの目的を持って、あの水色の封筒を枝松の机の上に置いた。
しかし、それは何のためだ?
何かが、許せなかったからだ。
この男が姉と母にしているおぞましいことが、許せなかったからだ。
だから、この男を糾弾するために、自分は枝松を呼びだしたのではなかったか?
「……まさか、おれを揺すろうってんでもないだろ? だって、君にも、秘密はあるものな」
「えっ……?!」
ハンマーで殴られたような衝撃を受けて、功は目を見開いた。
「おれも君の秘密を知ってる。でも、そのことで君を責めたりはしないよ。誰だって秘密のひとつやふたつはあるもんだ。おれには、君のお母さんとお姉さんとの関係。そして君には……」
「……な、何言ってるんですかっ!?」
功は思わず、枝松の胸ぐらを掴んだ。
怒りとショックで、正気を失っていた。
しかし、枝松は、予想もつかない行動に出た
「えっ? ……ち、ちょっとっ!」
枝松の右手が、功の股間をズボンの上からしっかりと掴んだ。
「なんだ……勃ってるじゃないか」
枝松に言われた。
事実だった。
「や、やめっ……」
腰を逃がそうとしたが、枝松に腰を抱き寄せられる。
ゆっくりと枝松の手が、功の股間を上下に扱き始めた。
「ほら、本当のことを言えよ……君もおれに、こうしてほしかったんだろう?」枝松の息が熱く、荒れていた。「それとも、聞きたかったのかい? お母さんやお姉さんが、セックスときどんな感じなのか……」
「や、やめろっ……な、なに考えてっ……」
枝松を押し返そうとしたが、力が入らない。
扱かれるたびに、びくん、びくん、功の細い腰は敏感に反応した。
ズボンに入れていたシャツの裾を、荒々しい手つきで外に出される。
シャツの中に枝松の左手が入ってきた。
あっという間に、右の乳首をつままれた。
「あんっ……!」
「ん……? おいおい……もう固くなってるぞ?」枝松が功の乳首を指先で転がしながら言う。「お前のお母さんはな、右の乳首をこうされるのが好きなんだ……知ってた?」
「お……」何とか声を振り絞ろうとした。「お。大きな……声出すぞっ……」
「出してみろよ、ほら」
「……tねやっ!」
だしぬけにズボンのジッパーを下ろされる。
手が入ってきた。
ボクサーショーツの上から、枝松の指が触れた。
「なんだ……もう濡れてるじゃん」枝松が耳元で囁く。「お姉さんはな、パンツの上からこうされるのが好きなんだぜ……」
下着の布地を突き上げ、布地を忍耐の液で湿らせている鈴口のあたりを、枝松の指がまさぐる。
「くっ……んっ……や、やめっ……」
「やっぱり君も助平だなあ。おまえんち家族は淫乱ぞろいだな……そうそう……感じてる顔もお姉さんそっくりだよ」
枝松の指先が鈴口をくすぐるたびに、甘い痺れが功を襲う。
確かに……もう濡れていた。
「やっ……めっ……」
「でさ、やっぱり…………君の左の尻にも、黒子はあんのかい……?」
「……えっ?」
「君の姉さんと、母さんの尻には、同じ所に黒子があるんだよ……で、君にも、同じところに黒子があるのかい?」
「…………?」
「ちゃんとぜんぶ脱がせて、ぜんぶ見てやるから……中に入ろうぜ」枝松が、功の躰を押す。功が振り返ると、旧体育倉庫の入り口が見えた。「おとといも……君の姉さんとその中でエロいことしたんだよ………君にも、同じことしてやるよ……」
「なっ? ……や、やめろっ…………」
ぐいぐいと押される功の身体。
力の抜けた躰は抵抗する力を失い、言葉とは裏腹に枝松に押されるままになっていた。
というか、後ろ歩きでひとりでに脚が入り口に向かっている。
体育倉庫の入り口がぽっかり口を開けていた。
その奥の闇が、功を誘っている。
「ほんとは……こういのが好きなんだろう? まあいつも、相手はおれじゃないけどな……」
「やめろっ!」
我に返った。枝松を思いきり突き飛ばした。
床に尻餅をつく枝松。
功は枝松がどうなったかも確かめずに、雨の中を全速力で駆け出した。
旧体育館前に傘を置き忘れている。
そんなことはどうでも良かった。
シャツの裾は不格好にズボンからはみ出したままで、チャックが開いている。
やはり、そんなこともどうでも良かった。
雨に打たれながら功は、走りに、走った。
枝松に触れられた部分…右の乳首と、布地を通しての亀頭部分が……
ずきん、ずきんと、まるで脈打つように熱くなっている。
走り続けているうちに、いつの間にか学校の外に出ていた。
大雨が功の全身を濡らしていく。
シャツは肌に張り付き、ズボンの中のパンツまでびしょびしょだった。
日が落ちて、辺りは少し涼しくなっていた。
外気が少しずつ、功の全身を冷やしていく。
しかし、枝松に触れられた部分だけは、いつまでも熱く、まるで功を糾弾するように疼き続けた。
この疼きが収まるまで、走るんだ。
功は、そうすることに決めた。
そのまま、いつまでも、いつまでも走り続けた。
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