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彼女はシークヮーサーの味だった【4/5】

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「……ってか……す、すごくない?」

 そそり立ったライスの陰茎を指差して、りみが笑う。
 まるで水族館でめずらしい魚でも見た5歳の子供のような笑顔だった。

 ライスはヘラヘラと笑い、相変わらずの挙動不審な態度を保ちながら……その汚い路地裏の壁にもたれて巨大な陰茎を突き出していた。

 いやあ……世の中にはまだまだ知らないことがたくさんある。

 とにかくあんな大きな陰茎を見たのはこれが生まれてはじめてのことだった。

 ライスが小柄だから、特にその部分が強調されて大きく見えるのだろうか?……いやいや。違う。

 実際ライスが目の前でパンツを脱いだそのとき……
 こいつは股間にもう一本、を生やしているのかと目を疑った。

 さすがにあの社長も……こんなものを間近で見たことはないだろう。

「……すげーなあ」おれは少し離れた場所でオリオンビールのプラスチックケースを裏返し、それに腰掛けていた「それ見ただけで、2,000円の価値あるよ」

「じゃあ、もっとふっかけりゃあよかった」

 りみがライスの前に跪いて……大口を開けてその先端を口に含もうとする。とても、あの小さな口に収まりそうもない。

「リミサン、ダメッスヨ、ヤバイッスヨ」ライスが口先だけで言う。ニヤニヤ笑いながら。「ダメッス、ヤバイッス」

「……あぐ……あーん……らめら」りみが口を離す。「……ダメだ。アゴが外れちゃう」

「……どーした。頑張ってよ」おれは大喜びで野次を送った。「2,000円払ってんだからさあ……気合入れてよ」

「とんでもねーゲスだね、ホリエさん」りみが一瞥をくれた後、ライスを見上げる。「あいつね、日本のクズだよ」

「クズ、クズー」

 とライス。

「うるせえ、この●●●●野郎」

「ってか、それサベツだよ」りみがまたおれを睨む。「どこまで心が荒んでんの?」

「うるせえ、どうにかしろこの売女」
 
 りみがおれを睨んだ後……躰の位置を変えて、ライスの巨大な陰茎の側面に舌を這わせはじめた。

 ライスが目を閉じる。

「オオウ」

 りみが本格的に舌を這わせはじめたので、ライスはその分厚い唇をすぼめた。

 いやもう、何て言ったらいいか。

 まるで〇学生のようにしか見えないくらい華奢で小柄なりみが、その巨大な側面に小さな舌を這わせて……複雑な涎の跡を次々と作っていく。

 ハーモニカを吹いてるような感じだったかって?
 いや、違うね。オーケストラの端のほうに居る、ファゴット奏者がボーカル部分(口つけるとこ)を忘れてきたみたいな感じだった。

 りみは沖縄に来たのに水着を持ってこないような、だらけた投げやりな女らしいが……その仕事は実に丁寧だった。

 目を閉じ、一生懸命に舌を走らせる……テニスボールくらいある亀頭を、掌でやさしく撫ぜながら。

 もう片方の手はそれぞれ洋梨くらいある陰嚢を持ち上げたり下げたりしていた。

 もちろんりみは好きでやってるんだろうが、その様は少し痛ましくさえ見える。

 ライスは汚い壁に背中を擦りつけながら、ひとりアフアフと悶えている。

 たぶんライスは今後国に帰ってもこんないい思いをすることはないだろう。このまま中東だかどっかに派遣されて、死んでしまったりしたら。

「リミサン………」ライスが言う「ケッコウ、モウケッコウデス」

「……え? もういいの?」

 りみが顔を上げる。

「テカ、イレタイデス」

「え~……」

 りみがおれに振り向く。
 なんだか助けを求めるような……縋るような目つきだった。
 
 悪いが、知ったことか。

「……そうだよ、挿れさせたげなさいよ」

 おれは無責任に言った。

「……てか、こんなの……入んないよ……いや、でも入るかなあ?」

「モウ、ダメッス」

「きゃっ」

 ライスがりみを立たせて、そのジーンズとパンツ……さっきおれが買ってやった薄いグリーンのパンツだ……を、一気に引き降ろした。

 数時間前と同じりみの硬くて小さな尻が、また目の前に現れる。
 確かに……あの小さい尻にあのでかい陰茎が収まるところはなかなか想像できない。

「ってか、ちょっと待ってよ。ねえ、ウェ、ウェ、ウェ、ウェイト、メーン……」

 慌てるりみを、ライスが壁に押し付ける。
 そしてそのまま……片足を抱えるように持ち上げた。

 おれの目の前には、ライスの黒く汚い尻がある。
 いや、汚いのはその質感であって、別に黒いことは汚いことではない。

「アシヒラケ、コノbitch

 ライスが甲高い声で言う。

「ひ、ひどーいっ!」

「今日はみんなに同じようなこと言われるね」

 おれは大笑いしながら言った。

「って、てか、ちょっと待ってよ。ねえ、アンタ、あれ、そっちの方だいじょうぶ? OK?」

「アタシ、ビョーキトカネーデス」とライス「ッテカ、アンタ、リミサン、ビョーキ、ダイジョーブッスカ」

「あ、あたしはない、はずだけど……あ、あれ、アレちゃんと持ってない?」

「オオウ」

 そう言うとライスは脱ぎ捨ててあった色あせたジーンズの袋から、小さな包みを取り出した。

 でっかいコンドームの袋だった。

 その袋は緑色で……言っとくが、これは断じてウソじゃない。袋にはさらに濃い緑色で、「U.S.MARINE」の文字と、地球に斜めにかかる錨、翼を広げたの絵が印刷されていた。

 いや、賭けてもいいが……絶対あの社長ですら、こんなものを見たことはないだろう。

 ライスがそれをぶきっちょな手で装着し終えるのを、りみは心配そうな目で見守っていた。

「……いやほんと、入るかなあ……どうかなあ」

「頑張れば入るよ、きっと」

 おれはまた、無責任に言った。

「ヨウイデキマーシタ」

 かくして……またもりみは壁に手をつき、尻を突き出す姿勢をとり……脚を大きく開いた。

 刑罰を待っている囚人のように見えないこともなかった。

 しかしりみ華奢な肉体があの人間離れした(言っておくが、差別ではない)凶器を持ったけだものに(これはさすがに差別だ)蹂躙されつつあることを思うと……おれは普通に興奮し、ビンビンに勃起していた。


「あっ………」

 ライスが腰を押し付ける……先端を押し当てたのだろうか。
 りみの背中が強張り……また鎖骨がぐっと浮かび上がる。

「What a Hell……」

 ライスがなんだか言っている。

「お、お、お願い………や、やさしくしてね? ……お、おねがいだから……そんな……んっ……だ、だめ、だって……入んないよっ……ムリだよっ……」

Shut the fuck up,bitch

 またライスが何か言った。

「あ、あ、あ、や、やだっ! ……ええっ……入ってくるっ……ほんとに入っちゃうよおっっ! ……ええっ……す、すっごいっ……そ、そんなっ……だ、ダメだってっ……う、うげげ……吐きそう……」

 またライスが何か不遜なことを口走ったが、よく聞き取れなかった。

「あっ……ひっ……んんんっ………ダメ……ああんっ……し、死んじゃう……」
 ライスがゆっくり動きはじめた。
 
 りみが子供のような泣き声をあげ始める。

 ライスが腰を押し付けるたびにりみの細い身体は壁を這い登り、引くたびにずり落ちた。ライスが早く動くと、りみもその動きに習って上がったり下がったりする。

 圧巻だった。
 
「おっ………お願いっ………も、もうやだっ……ほ、ほんとに……ほんとに死んじゃうよおっ! ……ゆ、許してっ……ねえ、もう、許してったらあっ………」

 ライスは情け容赦なかった。
 さすがは海兵隊員だ。なにがさすがなのかわからないが。

 りみは激しく蹂躙されつくした。
 肉食獣に貪りつくされる脆弱な草食動物そのものだった。
 

 そりゃ悲痛な眺めだったが……正直、見ていて胸がスッとした。

「た………たすけてっ………い、いやあっ……………お、おかあさんっ……」

「オウウ」

「し、しんじゃうよおっ……ほんと、もう、ダメだって、いや、いやあ……ああああんっ!!!」

「オオオウ!」

 りみは壁を伝ってそのまま下に崩れ落ち……ライスもそれに続いた。
 いやあ、2,000円どころか20,000円払っても惜しくないショーだった。

 ズボンを履き終えたライスに声を掛ける。
 りみはまだ尻を見せたまま蹲っている……
 
 死んだかな?……いや、大丈夫だろう。

「ところで、ライス君、きみ、海兵隊の人?」

「ソウデース」

 ライスが満面の笑みで答える。

「……こんなときにこんなこと聞くのもアレだけど……拳銃……何だっけ? アレ……ベレッタ? あれ一丁くらい手に入んない?」

「………ムリデース」

 そう言ってライスは本当に申し訳なさそうに肩を落とした。

「そうか……そうだよなあ……」おれも肩を落とす。「ちなみにライス君……海兵隊では何やってんの?」

「経理デース」

 ライスの歯はまぶしいくらいに白かった。

 夜の国際通り(でいいと思うが、たぶん合ってるだろう)をりみと並んで歩いた。

 りみはなにかふて腐れた感じで、あまり口を効かない。
 おれはとても愉快な気分になった。

 少しりみの歩き方がおかしい……なんか、ひょこひょこ歩いている。
 まあ、無理もないだろう。

 おれは、りみをからかってみることにした。

「……“おかあさーん”」

うるさい

 りみがぴしゃりと言う。

「すごかったね、ライス君」

「人間じゃないね、あいつ」とりみ「死ぬかと思ったよ」

「……でも、死ぬつもりなんでしょ?」

「そーか……忘れてたよ」

 しばらく黙ったまま歩く。
 平日のオフシーズンということもあり、それほど人通りも多くない。

 この調子でいけば、ホテルだって飛び込みでどこでも泊ることができるだろう。

 りみがポケットに手を入れる。

「まったく……ホリエさん、相当お楽しみだったね。どうだった? あーいうの。ヤマトナデシコがアメリカの軍人にリョージョクされてるの……日本男児としては」

「いや、戦争に負けたのも当然だよな」

「だよねえ」そう言って……前を見たままだったがりみは少し笑った。「あっ」

 りみがポケットから手を出す。
 掌には、鍵がひとつ載っていた。

「………」

「何の鍵?」

 覗き込んでりみに聞く。

「空港のロッカーの鍵……ほら、会ったとこのロッカー。あそこに上着放り込んだじゃん」

「ああ……そうだっけ」

 どうりで見覚えのある鍵だと思った……同じ鍵をおれもどこかのポケットに入れているはずだ。

 おれも同じロッカーに上着を放り込んだんだった。
 それは正解だった。

 日が落ちても沖縄の空気は暖かい。
 まったく、十数時間前……今日の朝にはコートが手放せない世界にいたなんて信じられない。

「……ってか、もうこの鍵いらないね」

 りみが呟くように言った。

「そういわれてみるとそうだよな」

「もう帰らないんだし……コートの要るとこには」

 そう言われるとそうだ。

「そうだよね」

「ポイ」

 りみは鍵を道端の溝に向かって投げた。
 鍵はそのまま、溝に飲み込まれていった。

「鍵を無くすと、10,000円の罰金だよ」

 おれは言った。

「ホリエさん、つまんねーことはよく覚えてんだね」

「で、今日はどうする?」おれはポケットを探った……しかし鍵は見つからない。「……どっかで一緒に死のうか?」

「……てか、今日はもう疲れちゃった」

「だろうね」

 そして、一番最初に目についたビジネスホテルに二人でぶらりと入り……ツインの部屋を取った。

 ダブルの部屋でも良かったが、それはあまりにもはしゃぎすぎだろう。
 
 部屋にチェックインして、ベッドに腰掛ける。

 りみは窓から外の通りを見ていた。
 どことなく……不安げで寂しげだった。

 これ以上、何を不安がることや、寂しがることがあるんだろう?

 おれはベッドに仰向けになったまま……黄色い天井を見ていた。

 そういえばこれまでの人生でもいろんなホテルに泊った。
 しかし誓って言うが……りみのような娘と行きずりでチェックインしたのはこれが始めてだ。

 行きずりがはじめてなのではなくて、りみのような娘は初めてだった。

「……なんか飲むもの買ってくる。向かいにコンビニあるから」りみがベッドの前で言った「なんか要る?」

「そうだな……泡盛2本くらいと……氷と……氷はできるだけたくさんね………あと、果物ナイフ」

「果物ナイフ?」

「あ、あとシークヮーサー。シークヮーサー剥くのに要るだろ? 要らないか」

「シークヮーサー?……そんなのたぶんコンビニに売ってないよ?」

「じゃあ果物ナイフだけ」

「おっけー」

 りみが部屋を出て行く。

 おれは一人部屋に残って……次のプランを練った。

 とにかく酒を飲む。がんがん飲む。
 これまでにもかなり飲んでいるので(さっきの見世物でかなり酔いも醒めたが)意識が朦朧としてくるのは結構早いだろう。

 で、さっさとりみを酔い潰してしまう。
 水泳に、2回のセックスに……特に2回目のセックスに……さぞりみは疲れ果てていることだろう。
 さっさと眠ってくれるに違いない。

 酔い潰したからといって、改めてりみに何かをしようというのではない。りみが寝てしまったら……このベッドにりみが買ってきた氷をしきつめる。

 おれの身体の上にも、脇にもとにかく全身を氷で覆ってしまう。これはどこかで読んだ方法だ……そうすると、身体全体の感覚が麻痺するらしい。

 多分酔いは醒めるだろうが……とにかくナイフが持てないくらい全身が麻痺する前に……果物ナイフを取り上げて、腹に突き立てる。

 たぶん、麻痺して痛くないはずだ。

 そして、刺して、刺して、刺しまくる。
 血が流れるが……たぶん痛くはない。
 そのまま目を閉じる。

 翌朝、おれを見つけたりみは、さぞびっくりするだろう。
 彼女が第一発見者で、ちょっと迷惑をかけることになるが。

 ちょっと気の毒だが……まあおれはその時点ではもう死んでるわけだから、そこまで心配する必要もないだろう。
 
 で、りみはどうするだろうか?

 警察に届ける?

 いや、そうすると……りみ自身が沖縄で人知れず自殺することは極めて難しくなるだろう。

 りみだってこの沖縄に死にに来たんだ。
 さぞ、フェイントで先に死んだおれのことを恨むだろう。

 りみは多分、黙ってこの部屋を出て行くだろう。
 おれの亡骸を残して。薄情ものめ。
 絶対、あの女だったらそうする。

 そうすると、警察がおれの死体を見つけた時、まっさきに容疑をかけられるのはりみだろう。

 ホテルのフロントマンがおれたちのことを見ている。
 それはそれで気の毒だな……いや、知ったことじゃないか。

 どっちなんだ。

 できればりみがおれの死体を残してこの部屋を出た後、速やかに、誰にも邪魔されることなく……自殺できることを願おう。

 あの世がもしあるとするならば……そこでいきなりりみと再開するのも悪くない。

 あの世は、どんなとこなんだろうか?
 この沖縄よりも、ヘンなところなんだろうか?

 りみとあの世の表通りを歩く、自分の姿を想像してみた。

 あれ?……なんでライスが要るんだ?
 通りの向こうから、ライスが手を振りながら走ってくる。
 真っ白い歯を見せて。

 あいつ、ひょっとして何かの間違いで中東にでも送られて死んだんだろうか?

「なにシアワセそうな顔して寝てんだよ」
 
 りみの声で目が覚めた。
 気がつくと枕元にりみがコンビニの袋を提げて立っていた。

「……あれ、寝てた?おれ」

「死んだように寝てたよ」

「……帰ってきたんだね」おれはわけのわからないことを言った「……帰ってこないかと思ったよ」

「じゃああたし、今日どこで寝んのよ」そのままコンビニの袋を探る。「ほれ、シークアーサー」

「えっ……あったんだ、コンビニに」

「あたしもびっくりしたよ。それに、泡盛に……氷ね。いっぱい買っといたから」

「あと……果物ナイフは?」

 おれはりみを見上げた。

「売り切れてた」

 その瞬間、りみが視線を逸らしたのを、おれは見逃さなかった。
 ¥
「シークァーサーがあったのに……?」おれは半身を起こした「ウソだろ?」

「……てか、手で剥くもんでしょ。普通」りみは言った「あたし、お風呂行ってくるね」
 
 そのままりみは浴室に消えた。
 おれはシークァーサーを手で剥き、泡盛のロックをふたつ作りながら……りみがユニットバスで『涙そうそう』を歌っているのを聴いた。

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