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無防備だったから苛めたくなった、そうです。【3/4】

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 服を脱がされた。なにもかもすべて。

 わたしは抵抗しなかった。
 する必要も、理由も思いつかなかった。

 ブラのホックを外されたときは、手をバンザイの形にして肩から抜き取られるに任せた。

 大丈夫。処理はカンペキなはず。

 わたしは、こういうこをと心の底で期待して、下着にも気をつかって、飲み会に望んだんだから。

 というか、そんな心配をする余裕も、甘い期待のせいで、ブラと一緒に取り払われていく。

 ふわっ、と乳房が開放され、空気に触れただけで、思わず身をよじった。

 続いてパンツを降ろされるときは、さすがにちょっと恥ずかしかったので腰をねじった。が、そのせいでシルクの布地は、するり、とわたしの脚をすべり降りていった。

 もう、わたしを守るものは何もない。

 わたし自身の心すら、それを放棄している。
 
 芝田くんは脱がなかった。
 ネクタイの結びを外して、ボタンダウンのシャツの両側に垂らしただけ。

 わたしだけ、何もかも脱がされて、相手は服を着たまま。

 恥ずかしさと、なんともいえない理不尽な思いが沸いてきた。
 わたしはベッドの上で胸を庇い、腰を反対側にねじって彼の視線から逃れようとした。

「ずるい……」わたしは言った「ずるいよ、芝田くん」

「ずるい? ……何でですか?」

「だって……わたしだけこんな……ハダカで……恥ずかしいよ」

「ほずみさんが恥ずかしがる姿……想像してたのよりずっとかわいいですよ」

 そういいながら芝田くんは、胸を覆っていたわたしの腕をそっと持ち上げ、左右に広げた。

 ハリツケになったみたいな格好で、ベッドで仰向けになっている。
 かといってそのとき、わたしの両手首は戒められていたわけではない。

 わたしが、自分で、彼に胸を晒しているのだ。

「きれいな身体だ……ほずみさん、無防備なせいで、ぜんぶ脱がされちゃいましたね……僕の部屋に連れ込まれて、こんな目に遭うなんて、思ってましたか?」

「いやっ……」わたしは彼から顔を背けて言った「そんなことばっか……言わないでったら……」

「ほんとうに無防備な人だなあ。僕が危険だって、思わなかったんですか?……一緒にタクシーに乗り込んだとき、こうなるって想像もしなかったんですか?」

「……もう、やめてったら……」

 もう“無防備”という言葉は聞きたくなかった。
 それよりも、彼にもっと触れて欲しかった、
 そのときは、言葉にはできなかったけれど。

 でも彼は、そんな言葉も、わたしの気持ちも巧妙に利用する。

「“やめて”って、“もう言ってほしくない”って意味ですか? ……それとも、“もう触って欲しくない”もうこの部屋から帰して、って意味ですか?」

「…………くっ」

 あからさまな意地悪に抗議しようと思ったけれど、言葉にならない。
 わたしは唇を噛み締める。

「いいなあ……その表情……そんな顔見せられたら、もう僕はほずみさんを無事に帰すことなんてできないですよ……ほら」

 ぎゅっ、とわたしのふとももに、芝田くんのズボン前が押し付けられる。

「や、やだっ……」

 パンツと下着越しなのに。まだ脱いでないのに。
 しっかりと彼のを感じた。昂ぶりを感じた。
 このわたしに彼が向けている、欲望の証拠を。

「“やだ”もいいですね……もっともっと言わせちゃいますよ……いけない人だなあ……ほずみさんは。そんな仕草や表情や言葉が、どれだけ僕をもっと危険にするか、想像できないんですか? ……いまだってほら、まだ脚が無防備だ……」

「えっ……あっ……やっ!やだっ!」

 いつの間にか両方の膝頭を持ち上げられていた。
 脚のことには、気づかなかった。

 気づいたときにはもう遅い。
 両脚を大きく左右に開かれる……いつもタイミングが一歩遅れる。
 芝田くんが、いつも先回りする。

 わたしは上半身を起こして、その部分を手で隠そうとした。

 もちろん、その部分を彼に見られることが恥ずかしかった。
 そこが今もうすでに、どんな状態になっているかを見られるのは、もっと恥ずかしかった。

 でも、わたしの手はやさしく左右に払われた。

「あっ……だ、だめっ……」芝田くんの鼻先が、わたしの茂みの部分に触れる。「あっ……ああうううんっ!」

 びくん、と身体がベッドの上でバウンドする。

 舌先で、感覚の集中する部分を軽く撫でられて。
 さらに入り口に溢れている蜜を、几帳面に拭われて。

 やがて指も伸びてきた。
 舌が中に入ってきた。
 指は舌と交代して、快楽の頂点をなだめるように撫でる。

「ああああっ!あっ!……くっ……んんんっ!……んあああっ!」

 全身が地震みたいに揺れる。
 大きな声を出した。
 このマンション中に響き渡るような声を。

 彼のあまりにもあけすけな愛撫に、何か言葉で抵抗しようと思ったけど、唇を開いたらあふれ出てくるのは喘ぎばかり。

 わたしは右手の指を噛んだ。
 すると手だけを下半身に残したまま、芝田くんが蛇みたいにわたしの身体を這い上がってきた。

「指なんか噛んじゃって……ほずみさん、かわいい」そして無慈悲に、わたしの喘ぎをせき止めている右手までを取り払ってしまう。「……キスしたい。またキスしたくなってきた」

「…………し…………」しゃっくりのように止められない喘ぎをこらえながら、わたしは震える声で言った「……して……キス……してっ……」

 それからはまたキス、キス、キスだ。
 
 唇だけではない。
 首筋にも、鎖骨にも、乳房の先端にも、お腹のくぼみにも、おへそにも、太ももにも……そして身体を裏返して、背中や背骨やお尻にも……キスは降ってきた。

 わたしには、傘も、レインコートも、雨宿りできる場所もない。

 ただ叫んで、喘いで、声をふりしぼって全身を引き裂きそうなこの快楽から何とか逃れようと、シーツの上を逃げ回った。
 
しかし、芝田くんはそんなことをするだけで、それ以上のことをしようとしない。

 さっき、太ももに触れた彼の下半身の感覚が、生き別れになった兄弟のように恋しかった。
 わたしにはそんなのはいないけど。

「……ね、ねえ……おねがいっ……」悔しいけど、負けたのはわたしのほうだ。「……ちょうだいっ……」

 喘ぎすぎて、声が掠れている。それが恥ずかしかった。

「喉がかれちゃってますね」芝田くんがわたしから身体を離して言う。「お水、飲みませんか?」

「……そんなのいいから……」わたしの声はさらに掠れていた。「ね、ねえ、早く……」

「ダメですよ」芝田くんの顔は暗い寝室でシルエットになり、表情は見えなかった。「これから、ほずみさん、もっともっと声を出すことになるんですから……僕は、ほずみさんにきれいな声で泣いてほしい。だから、お水を取ってきます。喉を潤してくださいよ……そのほうがいいんですから……」

「ま、待って……待ってったらっ……」

 そのまま、彼は寝室を出て行ってしまった。

 わたしは全裸のまま、サイドブレーキを引き忘れて坂道に止められた危なっかしいみたいな状態のまま、暗い寝室のベッドに一人残された。


 取り残された子供のように、ひとりでベッドの上に座り込んでいた。
そのときに思い出したのは、十代のおわり、はじめて体験したときのことだった。

 “坂道に停められた車”から連想したのだろう。

 相手は大学で二年上のボランティアサークルの先輩。
 わたしはまだ入学したてで、大学生になってはじめて迎えた夏だった。

 ドライブに行こう、と行って、先輩の車に載せられた。

 わたしはその、彫りが深くて物知りな先輩のことが好きだった。
 けど、恋人になりたいとか、愛しているとか、そんな思いを抱いていたわけではない。当たり前だ。まだ子どもだったんだから。

 そのへんの状況は、わたしが今、置かれている状況と似ている。 

 ただ、ずっと進学校として有名な女子高で過ごしてきたわたしには、そんなふうに男性にドライブに誘われる、ということ事態が、うれしくてしょうがなかった。

 そのときに着ていったのは、季節は夏だったのでノースリーブの薄い黄色のTシャツと、カットオフのデニムスカート。
 で、足元はくるぶしまでのソックスにVANSのスニーカーだった。
 そして、スカートはかなり短かった。

 当時からわたしのおっぱいかなり発達していた。
 脚のほうも今よりかなり太くて……少し子供っぽかったとはいえ、長くてきれいなラインには自信があった。

 確かに、今考えてみると、キスくらいはそれなりに期待していたかもしれない。

 相手がその先輩だったからではなく、“夏の日に男の人とドライブに行って楽しく過ごし、最終的にはキスくらいして、その日はお別れする”という流れに、興味があったんだろう。

 その頃の自分がまったくの無垢だったなんて、主張する気はない。

 だからわたしは、そんな格好で出かけていったのだと思う。
 足元がスニーカーだったのは、今思うとあまりいけてないけれど。

 たぶん今なら、サンダルを履いていったろう。
 その頃は踵のある靴に慣れていなかった。

 どんどん時間が過ぎていき、あっという間に夏の長い陽がおちて、暗くなった。

 わたしを載せたまま、先輩はあの山の坂道に車を停車させた。

 見渡すと、ほかにも2台ほど、付近に同じような車が停まっている。

 そうか、たしかに……とそのときのわたしは思った……ここは高い茂みに囲まれていて、車の通りも少ないから、世の中のカップルたちは、ドライブの最後をこういう場所で、こういう風に締めくくるんだ、とへんな納得した。

 と、そのとき、

「ほずみ、好きだ」

 先輩の彫りの深い顔が近づいてきた。
 
 たった今、納得したところだったので、わたしはおとなしく目を閉じた。
そして先輩の唇を受け入れた。

 長いキスだった。
 舌を絡め合うキスは、そのときがはじめてだった。

 先輩のキスは手馴れているように思えた。
 いや、わたしもそれまでにまったくそんな経験がなかったので、実際にそうだったのか、あるいはそうではなかったのかはわからない。

 しかしわたしも負けじと、当時、頭の中にあったささやかな知識と、想像力を総動員して、先輩の舌に応えてみせた。

 すると、先輩の手がシャツの上からおっぱいに伸びてきた。
 ぎゅっと、強く掴まれる。

「はっ……いやっ」わたしは先輩から口を離して言った。「ダメです。ここまでですっ……」

「ほずみ……」先輩の目は血走っていて、口は笑っていなかった。「それは……無理だよ」

 いきなり、座っていたシートを倒される。
 素早く先輩が、わたしの身体に覆いかぶさってきた。

 おっぱいを激しく揉み込まれる。
 正直、痛かった。

「きゃっ!……あっ……いやっ!」

 もう片方の手が、スカートの中に侵入してくる。

「ほずみ、ほらっ……」

「えっ……や、やだっ!」

 先輩はわたしの手をとり、ジーンズの前に導いた。
 デニムの布地越しに、脈打っている固い肉の感触と、熱を感じた。

 このことは、はっきり覚えている。
 というか、その感覚は今も、はっきりと右の手の平で思い出すことができる。

「だ、ダメですっ……」わたしは震える声で言った。本気で怖かったのだ。「これ以上は、ダメですっ……」

「ほずみが悪いんだ……」先輩はわたしのスカートの中で下着に手をかけながら囁く。「男が一緒にドライブに行こう、っていうのに喜んでついてきてさあ……ドライブに行こう、って言われたら、こうなることはフツウ、予測しない? ……それで一日中、楽しそうにして、飛び回って、はしゃぎまわって、こんなきれいな脚、おれに見せつけてさあ……そんなおっぱいが目立つ、ぴったりしたTシャツ着ちゃってさあ……最初はロコツに、おれをその気にさせようとしてるんだ、と思ったんだけど……かわいい顔して、けっこうやるじゃねーの、って思ってたんだよ……でも違ったんだよなあ……」

「ち、違うって……何が?」

 じりじりとスカートの中でパンツが下ろされていく。
 Tシャツの裾が、まくり上げられていく。

「ホント、無防備なんだよ……ほずみは。マジで無防備。おれがこんな綺麗な脚を(といって先輩はわたしの両足を撫で回した)、こんなすてきなおっぱいを(といって先輩はわたしのTシャツの背中に手を回して、ブラのホックを外した)今日一日、どんなふうに見ていたかなんて、まるでお構いなしなんだもんなあ……おれが今日一日、どんなに我慢してきたと思う? ……パンツの中、ずっとこんな感じだったんだぜ(そして先輩は、またわたしの手を取って、ジーンズの前に押し当てた)……ほずみが無防備なのがいけないんだよ……そんなに無防備なのが……」

「だ、だって……そんな……んんっ!」

 それ以降の言葉は、先輩のはげしいキスに塞がれた。

 どんどん服は乱され、スニーカーは足につけたまま、パンツがつま先から抜き取られる。
 Tシャツの襟首はわたしの頭をくぐって、肘のあたりで絡まっている。

 ちょっとだけ、抵抗した。
 ほんのちょっとだけ。
 あとは流れに任せた。

 ふと車の外に目をやると、近くに停まっていた二台の車も、遊園地の安いアトラクションのように、ゆさゆさと揺れていた。
 
 仕方ないんだ、と思った。
 わたしが無防備だったんだから。
 



 先輩のことを思い出して意味もなく泣きそうになったとろこで、芝田くんがペットボトルのミネラルウォーターを手に戻ってきた。

 彼の顔は寝室の外から入ってくる明かりのせいで、影法師になっている。   
 ペットボトルのキャップは空いていた。

「どうしたんです?……泣いてるんですか?」

「なっ……泣いてないよっ……」

 ペットボトルを手に芝田くんがわたしの脇に腰を下ろす。
 そして、自分でくいっと一口、水を口に含み、わたしの頬に触れる。
 
 そして、やさしく顔を引き寄せた。

「んっ……」

 唇を通して、冷たい水がわたしの口の中に流れ込んでくる。
 芝田くんの手がわたしの髪をかき回す。

 と、そこで何か、丸いものがわたしの喉を通り過ぎた。
 唇を離すと、口の端から少しの水が滴りおちる。
 いまだに影法師の柴田くんを見た。

 またキスが迫ってくる。
 さっき喉を通り過ぎたもののことなんか無視して、今度はわたしからキスに応えた。

 自分で言うのも何だけど、熱く、深く、しつこいキスだった。

 大学一年生のときに車の中で先輩にしたときとはまるで違う。

 あれから何年も経ってるんだし、わたしもずっと大人になった。

 あれから何年も……あれから……あれから……そして、いつから芝田くんと、こんな長い長いキスをしていただろうか……?
 覚えているのはそのあたりまでだ。

 次の瞬間、気がついたときには、わたしは全裸で居間の拘束台に戒められていた。

 見下ろすと、大開きに固定されたわたしの脚の間に、芝田くんがいた。
 彼はわたしのアンダーヘアにシェービングクリームを塗り、安全カミソリで丁寧に剃りあげている。

「動かないで」芝田くんはわたしの顔を見上げて言った。「そっとやりますから……怪我をさせたくない」


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