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感染症 新型コロナウイルスの次にも注意⁉ 毎年の国家予算からの災害対策費積立ても良案では?

 一昨年(2019年)暮れより、中国武漢から広がった新型コロナウイルス(COVID-19)によるインフルエンザ感染症が世界を席巻している。今回は、感染症をもう少し詳しく知りたいと思い、
「人類と感染症の歴史 未知なる恐怖を越えて 加藤茂孝 丸善出版」
「ウィルス大感染時代 NHKスペシャル取材班・緑慎也 KADOKAWA」
の2冊を取り上げた。この世界的な流行(パンデミック)は、2017年1月14日に放送されたNHKスペシャル「MEGA CRISIS 巨大危機」で取り上げられ、次に起こる世界の脅威として予見されていたものである。

 感染症には、天然痘、ペスト、ポリオ、結核、麻疹、風疹、インフルエンザ、ウエストナイルウイルス、エイズ、ハンセン病、狂犬病、マラリヤ、
梅毒、コレラ、発疹チフス、エボラウイルス病、SARS、MERSなどがある。
 そもそも感染症は、人類がこの世に現れてから常に向き合ってきた脅威であり、13,000年前頃に、人類が野生動物を家畜化し始め、家畜から感染症が人類に入った。古代の遺物や発掘品からも様々な感染症が人類を悩ましてきたことが分かる。
 エジプトのラムセス5世のミイラにある天然痘の痕跡、日本での天然痘
流行の鎮撫を祈願した奈良東大寺大仏の建立、古代エジプトの壁画に見られるポリオの萎縮した足、医学の祖ヒポクラテス(BC412年)の書のインフルエンザと思われる記述、ウエストナイルウイルスで死んだかもしれない
アレキサンダー大王などなど。
現在判明している限りでは、人の感染症の約70%が動物から入っている。


感染症の怖さ

 症状の厳しさ、死亡率の高さ、そして近代以前では、死体の醜さなどからくると思われる得体のしれない事に起因する不安にある。感染症の流行は、各時代時代に於いてその社会と文明を特徴づける大きな一因となった。

 13世紀   ハンセン病  熱帯の風土病が十字軍の移動で西欧へ
 14世紀   ペスト    クマネズミの移動、蒙古軍の移動の後を
              追って西欧へ
 15世紀   梅毒     大航海時代以降蔓延。ルネサンスの性の
              解放が拍車
 17~18世紀 天然痘    古代インドが発生地?仏教伝搬やシルクロード
              経由で拡散
 19世紀   結核     産業革命、過酷な労働条件、都市への人口
              流入が背景
 19世紀   発疹チフス  ナポレオンのロシア遠征、クリミア戦争、
              第一次世界大戦、ロシア革命で流行
 20世紀   インフルエンザ   密集した集団生活と迅速な輸送手段で急拡散

ここでは、(COVID-19ではなく)インフルエンザに焦点を当てて紹介していきたい。


インフルエンザウイルスの発見

 インフルエンザウイルの発見は1933年(Smith W)である。これは、
現在のインフルエンザウイルスの分類に拠れば、A型ウイルスであった。
B型ウイルスの発見(1940年 Francis T)、そしてC型ウイルスの発見
(1949年 Taylor RM)へと続く。発見順にA、B、Cとなった。型別は、
ウイルスを構成している内部蛋白の違いによる。
 A型ウイルスは、野鳥を中心として多くの動物に感染する。ウイルスの表面の突起に2種類あり、1つがHA(Hemagglutinin ヘマグルチニン)で16種類、もう1つがNA(Neuraminidase ノイラミニダーセ)で9種類ある。

210228人類と感染症の歴史 ウイルス


 ウイルスが細胞に感染する時にHAを使い、細胞で作られた子孫のウイルスが細胞から出る時にNAを使う。この2つの突起の組合せで、16×9=144種類のウイルスが存在する可能性が有る。HAとNAの組合せは、更に短くしてH1N1とか、H5N1の様に表現する。
 一方、B型は、大きく流行するのは、ヒトのみである。B型ウイルスは
HAが1種類、NAも1種類なので亜型は無いとされているが、現実には、HAに山形株系とVictoria系の2種類がある。
 C型ウイルスにはNAが存在しないし亜型もない。流行が認められるのは
ヒトだけである。主に小児期に罹り、鼻風邪に似た症状が出るのみで、
重篤になる事はない。
これ等の中でパンデミックを引き起こすのは、A型のみである。
 インフルエンザウイルスのもう一つの特徴は、ウイルス遺伝子であるRNAが8個の分節に分かれている事である。(上の図参照)分節の1個が簡単に
他のインフルエンザウイルスの物と入れ替わる事が起きる。これを再集合と言うが、そのお陰で新しいウイルスが簡単に生まれてしまう。
 また、遺伝子がRNAであるので、DNAに比べて変異し易くなる。

210228DNAとRNA


 DNAは生体(動物、植物、細菌の細胞内)に間違いを直す、則ち「校正」機能を持つ酵素(修復酵素)が存在するので、間違い(変異)が起きても
修復されるが、RNAに対しては、この酵素が存在しないからである。


パンデミックの歴史

 インフルエンザの流行を歴史的にみる場合には、1889年以前では記録からの推定、1889年~1933年までは、血清考古学かウイルス遺伝子の解析から、1933年以降は、ウイルスの分離から知ることが出来る。以下の表はこの様にして作られた。

210228江戸感染症


 パンデミックは、1510年の流行がその規模の大きさから最初であると
考えられている。表に見られるように、18~19世紀の200年間で、7回の
パンデミック(++、+++)が発生した。20世紀で4回、そして21世紀の
10年では、新型インフルエンザの1回である。
 幸いな事に、20世紀以降も110年で、ヒトに大流行を起こしたウイルスは144種類のうちわずか3種類である。すなわち、スペイン風邪H1N1(1918年)、アジア風邪H2N2(1957年)、香港風邪H3N2(1968年)である。1977年のソ連風邪も、2009年の新型もH1N1であり、広い意味でスペイン風邪の子孫である。1977年のソ連風邪出現後は、季節性インフルエンザとしてA香港とAソ連の2つのウイルスが並行して流行している。
(筆者の加藤先生は3種類と述べられているが、NHKスペシャル取材班の「ウイルス大感染時代」に拠れば、H7N9型鳥インフルエンザで2013年に
中国でヒトへの感染が報告されて以降、1307人が感染し、うち489人が死亡している。そして特に2016年以降中国で例年を上回るペースでヒトへの
感染が相次いでいる。)


ウイルスはシベリアやアラスカで保存

 インフルエンザウイルスは、そもそも渡り鳥が持っているウイルスである事が分かって来た。しかし渡り鳥は、このウイルスでは病気にならず渡り
続ける事が出来る。冬の間シベリアやアラスカの氷の中でウイルスは冷凍
保存されており、春に氷が融けて水の中へ溶け出て来たウイルスを鴨や
雁などの渡り鳥が飲み込む。鳥の体の中では、インフルエンザウイルスは
腸管で増える。従って、糞の中に出てくる。南に飛んだ渡り鳥が、東南
アジアやメキシコなどで飼われている鶏にこのウイルスを感染させる。
そして、鶏の中で感染が繰り返されている内に変異が起きて病原性が
高くなることがある。
 ウイルスが結合できる部分の細胞膜の構造をレセプター(受容体)という。

210228レセプト


ブタは、ヒト型レセプター、鳥型レセプターを両方とも持っている。
その為、ブタは鳥インフルエンザにもヒトインフルエンザにも罹り易い。 鶏で増えたインフルエンザウイルスがブタに感染し、そのブタの体内に
ヒト型のインフルエンザウイルスがたまたま2重感染していると、2つの
ウイルス間で再集合が起きて、新たなインフルエンザウイルスが生まれる。

210228人類と感染症の歴史 渡り鳥


 レセプター以外にも、体温が感染に影響を及ぼすことも分かってきている。鳥インフルエンザウイルスは、鳥の平均体温に近い42℃で最も効率よく増殖する。一方、人の平均体温は、36℃で仮に1人感染したとしても、他のヒトに感染が広がらないのは、この様に鳥とヒトとの間には体温の壁があるからである。その体温の壁を乗り越える場として注目されるのが、鳥とヒトの中間の体温39℃を持つブタである。
 鳥型とヒト型の両方のレセプターを持ち、鳥とヒトの中間の体温を持つブタは、ウイルスの混合容器に例えられる。(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、竹前喜洋氏)


H5N1は、何故鳥からいきなりヒトに

 鳥型ウイルスとヒト型ウイルスは、ウイルス表面の突起HAの構造、化学名でいえば、アミノ酸の配列が異なるに過ぎない。
主にこの違いによってヒト細胞に感染できるか、鳥細胞に感染できるかが
決まる。細胞の方も細胞膜の表面の構造が僅かに異なるに過ぎない。
 初めて鳥インフルエンザウイルスが直接ヒトに感染したことが報告された時には、多くのインフルエンザ研究者は驚き、「レセプターが無いのに、
そんなことはあり得ない!」と思った。H5N1患者の死亡者やインフル
エンザ以外の原因で亡くなった人の呼吸器標本を調べて、初めてその謎が
解けた。その答えは、ヒトの肺の奥の一部に鳥型レセプターを持った細胞が見つかった事である。鼻孔や咽頭、気管支などにはヒト型のみであり、鳥型レセプターはない。これで、肺の奥まで鳥インフルエンザウイルス、
実際には鳥の糞の粉末を吸い込んで感染するような環境にある人に患者が
多い事が説明できた。鳥型、ヒト型ウイルスとレセプターの関係は、絶対的なものでなく、結合の親和性に差があるに過ぎないと思われる。

<ここで私の疑問>
 家庭菜園をしていると、しばしば、虫除けネットに野鳥の糞が引っ掛けられている。この様な渡り鳥が落としていった糞が養鶏場の鶏糞に混じり、
鳥インフルエンザが、養鶏場にまで感染すると想像される訳であるが、
掃除の時に埃に混じった鶏糞っを吸い込み易い養鶏事業者の方は、要注意である。ところで、私の様な家庭菜園をしている者が、元肥として燐成分の
多い鶏糞を撒くことがある。この市販されている肥料にも新型ウイルスが
混入する可能性はあるのだろうか? イエスなら農業従事者も、要注意で
ある。


最大のパンデミック スペイン風邪

 スペイン風邪が話題になる最大の理由は推定死亡者数の多さであり、
最大の推計では5000万人と言われている。第一次世界大戦(1914~1918)の死亡者が推計で大目に見ても900万人とされているので、その6倍近い被害の大きさである。当時の世界人口16億人の内、少なくとも5億人が感染したと考えられている。
 スペイン風邪と呼ばれているが、1918年3月に米国で流行が始まった。
当時、ヨーロッパでは第一次世界大戦中であり、米国軍のヨーロッパへの
移動に伴い、1918年5月頃からヨーロッパ中、そして世界へと広がった。
それなのに何故「スペイン風邪」と呼ばれたのか?交戦中の各国は、当然
ながら自国のインフルエンザ流行を隠した。参戦しなかったスペインは、
流行の情報を隠さなかったので、世界はスペインにおける流行が最初であると誤解したのである。
 1997年アラスカに於いてスペイン風邪で亡くなり地中(凍土)に埋葬された遺体の検体からウイルスのRNAが採取され、インフルエンザウイルス
遺伝子の配列を解読することが出来た。この復元ウイルスは動物実験で、
病原性の強い事が、確認された。
 当時は、スペイン風邪の原因のウイルスは未発見であり、抗生物質もまだ発見されていなかった。
 インフルエンザの流行を加速する条件は、人の密集状態や大量迅速な移動であるが、戦争による人の移動がスペイン風邪の流行を加速増強してしまっていた。どの国でも兵士がインフルエンザで倒れると、不足した兵員を新兵で補った。免疫のない新兵は倒れ、それをまた、新兵で補っていた。まるで、人の集団感染実験を行っていたとさえ言える様な悲惨な実態があった。
 公衆衛生面でも対策がほとんどなかった。米国ミズーリ州セントルイス市では、教会や劇場を閉鎖して人の接触を極力減らした。一方、ペンシルバニア州フィラデルフィア市では、教会や劇場は閉鎖したけれども、第一次世界大戦の戦勝パレードを行って、接触の機会を高めてしまった。その結果は
歴然としていて、セントルイス市の死亡率は、フィラデルフィア市の半分
以下であった。これは、パンデミックが終わってから判明したデータであるが、公衆衛生的な対策の重要性を示唆している。


有効な公共衛生対策

 3つの対策の柱が考えられる
  ①抗ウイルス剤で症状を軽くする、則ち、早期発見、早期投与である。
  ②ワクチンの短期間での製造と投与。
  ③社会的対策---接触の機会を下げる。学校閉鎖など。
         個人的なものとしては、患者がマスクを積極的にする。  
        (咳エチケット)


ワクチン

 一般にワクチンと言っても多様であり、種痘(天然痘予防用の
ワクチン)、麻疹、ポリオなどのワクチンの様に、接種によって作られた
免疫によって、予防がほとんど完全に達成できる優等生のワクチンから、
接種によって作られた免疫によっては感染予防が完全ではないという、
いわば「劣等生」のワクチン迄ある。インフルエンザ・ワクチンは
残念ながら後者である。
 優等生ワクチンは、病原性を弱くした生きたウイルスを用いる弱毒性
ワクチンが多い。次に良好なのが、ウイルスを殺して(不活性化という)、そのウイルス粒子を丸ごとワクチンにしたものである。(全粒子ワクチンという) インフルエンザワクチンは、この全粒子ワクチンであるが、その
全ウイルスを壊して皮質成分を取り除いたスプリットワクチンが主であり、これは、一般の全粒子ワクチンよりも効果が低いと考えられている。
 特にインフルエンザウイルスの場合、ウイルス自身が抗原の小変異を
起こす為、流行ウイルス型と接種したワクチンの中のウイルスと型が
合わなければ効果は低くなる。仮に免疫ができたとしても、感染を完全には防げない事が多く、ワクチンは「効かなかった」という印象を持たれる
ことが多い。しかし、自分自身の免疫能力が落ちてきている高齢者が
接種しなければ亡くなっていたのが、接種によって症状が出るのを妨げなくとも、生き延びることが出来る。つまり、重症化を防ぐことが出来ると
理解されている。
 ワクチンにどのウイルス株を使うかは、現在ではすべてWHOの世界の専門家を集めた会議おいて流行予測を基にして決められている。


最後に

 「ものに怖がらなすぎたり、怖がり過ぎるのは易しいが、正当に怖がることはなかなか難しい」(寺田虎彦 随筆「小爆発二件」)
寺田虎彦は浅間山の爆発について書いているが、感染症対策についても同じである。
 世界的な大流行(パンデミック)を起こすには、人口の密集と、迅速な交通手段の二つが条件であるとされる(立川昭二)。 世界がグローバル化し、人が迅速に移動できる交通手段の発達した今日、昔なら風土病で
終わっていた感染症が、瞬く間に世界中に拡散する時代となった。
 また、温暖化の進行により、従来、シベリアの凍土に凍結されていた未知のウイルスが水の中に溶けだして、新たなパンデミックに襲われる事も予想される。
 COVID-19はワクチンが普及し始め、漸くパンデミックが収まりつつある様に見えるが、感染が拡大し易いと言われる変異ウイルスの存在も、まだまだ安心する段階には至っていなことを暗示している。これ加えて144種類もあるA型ウイルスで、これまでに発見されていない高毒性のウイルスがいつ
発現しても不思議の無い時期であるともいえる。
 我々人類は、常に恐れる事を忘れず、プロアクティブにこれらの感染症に備えていかなければいけないのであろう。
 今回のCOVID-19禍は、構造的に東京電力福島第一原発の放射能災いと
似ている。どちらも将来、来るかもしれないと思われていたのに、いざ来た時の対応に備えられていなかった点である。過去の地震による地層に残された津波の記録から、大きな津波が来ることは予見されたのに、東電は大津波に備える堤防の建設を躊躇してしまった。又、停電時の自動冷却システムの動作テストも定期的に実施し動作検証がされていなかった。
 COVID-19の場合も、2017年時点で多くの感染症学者から世界が大きな
感染症に襲われる可能性が有る事が予見されていたにも拘らず、厚労省や
医療関係機関は、襲われた時を想定した備え(マニュアルを準備したり、
公的医療機関と民間医療機関の連携協議など)に対応していなかった。
 地震対策や感染症対策として毎年一定の予算から積立をすべきではなかろうか? いつかは必ずくる、東海、東南海、南海地震に見舞われたら、
また、復興対策費の捻出として新規の国債発行や復興対策税金を後追いで
するつもりなのであろうか? 新規の病原性の高いウイルスが発現した時の対応費用は、何処から捻出されるのであろうか? これまで国債を大増発してきた我が国の財政状況はGDP比で200%を超えている。政府は、いつまでも国債の増発で対策費を賄えると考えているのであろうか?

 東日本大震災から10年目を迎え、そして、今、新型コロナウイルスと
格闘しなければならない今こそ、これまでの失敗を繰り返さない為にも、国家予算の割り振り方も考え直す時期に来ているのではないだろうか!

『備えあれば憂いなし』

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