見出し画像

歩いていける距離に、ミニシアターのある生活

家の近くに「シネモンド」という映画館があります。

映画館と言っても、いわゆるシネコンを想像してもらっては困ります。あんな大きな施設ではありません。席数100くらいのミニシアターです。街の中心地のショッピング施設4階にひっそりとたたずんでいます。

ぼくは2年前の9月に金沢市の郊外から街なかへ引っ越しました。シネモンドは自宅から歩いて10分くらいにあります。月に2回はそこで映画を見ています。

ここで、ちょっと想像してみてください。家から歩いて10分にミニシアターがある生活。素敵な感じがしませんか。

こういう風に切り出しておいて、実はそれまでまったく足を運んでいませんでした。なぜと言えばシネコンでハリウッド映画ばかり見ていて、わざわざ小さい劇場へ入る気にならなかったんですね。

シネコンに比べると音響は良くないし、スクリーンも小さい。クッションの座り心地も劣る。

映画料金は施設によって変動しません。どこでみても同じです。だったら最先端の環境でハリウッドの凄まじい映像をみたいと思ったんです。そのほうが単純にコストパフォーマンスが良さそうです。


それが2年前の9月に金沢市の郊外から中心地へ引っ越しました。すると近くにミニシアターがある。そう言えば20代くらいのときはミニシアターで映画を見てたなと思い出して、去年ふいに行ってみることにしました。

行ったのは平日の昼間です。映画館に入ると若い人はまったくいません。映画を見る約束をしたらしい数人のおばちゃんグループや、一人で来ているおじさん、同じく一人で来ている映画が好きそうな30代くらいの女性。全部で観客は、ぼくを入れて7人ほどでした。

明かりが落ちて近日公開の予告編が始まります。暗くなったときのわくわくする気持ちはシネコンもミニシアターも同じ。

思ったとおり音響設備はシネコンに到底かなわず、映像のすごさはハリウッドに遠く及びません。さらにそのときに見た映画は、あんまりおもしろくなかったです。凄惨な最期を迎える復讐劇で単純に自分の好みに合わなかった。

それでもミニシアターで映画を久しぶりに見て、「すごくいいな」と思いました。映画よりもその体験が印象に残りました。

雰囲気が良かったのもあります。100席ほどの小さなスペースで、横幅3メートルほどのスクリーンが目と鼻の先。視界に入る情報が少ないので、大スクリーンを10数メートル離れてみるよりも集中できました。

でもいちばんの理由は、(最初に戻るんですが)家から近いことでした。歩いて10分くらいの距離は、映画を見に行って帰ってくるのにちょうどいいんです。

そのくらいの場所だと、「そうだ、ちょっと映画でも見ようかな」とネットで作品を検索、もし20分後に開始のものがあれば悠々に間に合います。「見たい」と心が動いてすぐ実現できるのが良いです。

これがシネコンだと車に乗ってイオンモールなどへ行かなきゃいけない。「あ、出かける前にネットでチケットを取らなきゃ」と意思決定がいくつもあります。そういったことを考えるうち、「まあ、今日はやめとくか」となってしまう。

思い立って財布ひとつですぐ見に行けるのは、快適に映画を見る条件としてすごく適していました。


映画を見終わったあとも、自宅まで歩いて10分は思いを巡らすのにぴったりの時間です。終わったあとにストーリーや印象に残ったシーン、セリフ、表情などを思い返すのも楽しい。

歩いていると少しずつ変わる風景とともに、映画の世界を思い返せます。自宅に帰るころには咀嚼し終わって「いい映画を見たな」とほどよい満足感が残っています。

ふと思い立って映画館へ行き、内容を思い返しながら帰宅の途につく。映画の前後にあるそれら行程が満足感をより高めてくれるんです。

住む家を決める際、駅から近いかとか築何年だろうとか家賃はいくらとか、考えるのにいろいろな要素がありますね。

そのなかに、「近くにミニシアターがあるかどうか」を加えるのもおもしろいです。歩いていける距離にミニシアターのある生活。それは意図せず、人生をより豊かにしてくれることでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?