見出し画像

柔らか

ことし、うちのまわりのアジサイたちは柔らかな佇まいで咲いています。
雨ばかりでなくこの花から季節の移ろいを感じるようになったのは、いつのころからでしょう。アスファルトを見つめて家路を歩いていても、あまりにも強烈な青色や紫色のかたまりに肩をたたかれ、その時期が訪れたことにハッとさせられるのです。ハッとさせられるだけでなく、このとしもアジサイが咲いてくれたことに、もっといえば季節がめぐるこのことに、かすかに心揺さぶられ、どの年であってもわたしの硬くなっている感情をほどいてくれます。
 
もちろん、際立つ彩(いろどり)のアジサイだけじゃありません。薄緑、藤色のような淡い紫なんぞにも惹かれますし、じつをいえば、ヌケ感のあるガクアジサイのほうが好みと言えば好みです。
ただ、肩をたたいてくれるのはいつだって強烈な青色や赤紫のかたまりでした。しかしことしは、
「どうしたん?」
こちらからさきに声をかけることになりました。アイコンタクト、あれで。
「ええ、じつは……、」「流行りのあの影響で……、」さすがにこうは返ってこないから、数日のあいだ様子をみていました。
どうやら、ことしのうちのまわりのアジサイたちは、柔らかさを前面におしだすようです。
青色は青空色。紫は薄い赤紫色という感じでしょうか。こうなると、贔屓にしているガクアジサイがさして目立たなくなるのです。薄緑のアジサイも柔らかなかたまりに見事に溶け込んでしまいます。薄緑のアジサイは楚々としていて一輪だけでも圧倒的な存在感がありますから、溶け込むのはなんとももったいないこと。
 
ことし、うちのまわりのアジサイたちは柔らかな佇まいで咲いています。
この変化にわたしはあれこれと理由をつけたくなったけれど、きっとどれも見当違いを並べているでしょう。強烈な色でも柔らかな色でも、雨が降っても降らなくてもアジサイは咲きます。変わらずに咲くアジサイをみてあれこれ御託を並べているのは、わたしなのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?